JAD-079「続いてきたバランス」
撃ち、しとめ、次を狙う。
手ごたえの無い時間が過ぎていく。
「完全に作業ね、これは」
「ですね。損傷がないのは良いことですよ」
謎の機械群の間引きを始めてしばらく。
回収がしやすいよう、ある程度引き込んでからの攻撃の最中だ。
周囲に草木が全くないのは、大体この辺りでこれをやっているからなんだろう。
無事なもの、そうでないものも区別なく機械の残骸が回収されていく。
「まあ、そうよね。大体3メートルぐらい……大きいんだか、小さいんだか」
生身としては、強敵。
JAMに乗ると、そうでもない。
武装も直撃を続ければJAMは撃破されるし、生身では言うまでもない。
戦うための機械部品取りとしては、これ以上ない対象だろうと思う。
ニコイチでも修理したら、獣やそこらのミュータント相手は十分だ。
「この機械群、何を攻めるために向かってるんでしょうね」
「飛んでいけばわかるとは思うけど、なんかつつくと危険な気がするのよね」
何か見つけたとして、今のバランスが崩れても怖い気がする。
私が、そこまで責任はとれないというのもある。
あくまで傭兵として旅をしているだけで、どこかに所属した生活ではないのだから。
「しばらくはあの町で過ごすわ。探索先も仕入れたいし」
「確かに……前文明の建物とか、結構残ってるみたいですもんね」
まだ少し見ただけだけど、その通りだ。
補修はしてるけど、ビルなんかは百年単位で昔の物。
よくぞ残っているというべきか、それだけの文明だったというべきか。
昔の兵器工場が稼働したまま残ってる可能性だってある。
もしそうなら、JAMの生産工場も……。
「……ん? センサー範囲拡張。何か……力の反応が……」
「え? 了解!……空や地上には何も……」
私には、そう設計されたがゆえに、不思議な力がある。
その1つが、石の力とでもいうべきものを感じる能力。
最初はぼんやりとした感覚、それがだんだんとはっきりしてくる。
「どこ……川!? レーテより緊急! 川から何か来るわ!」
『何!? 作業切り上げ! 撤退だ!』
叫びとともに、作業を即座に中断して移動し始める面々。
しんがりは私を含めたJAMたちだ。
油断なく武器を構えつつ、徐々に後退し……何かが出てきた。
「何あれ……虫?」
「姿だけなら、サソリというものに近いですが、大きすぎます」
ざっと見て、1メートルはあるだろう。
蹴散らすのは簡単そうだが、どうも嫌な感じがする。
最初は1匹、そして2匹……ぞろぞろ出てきた。
『もう少し下がるぞ。あいつはしつこいんだ』
「了解。あれ、何?」
答えが返ってくる前に、ズームしたままの映像が正解を教えてくれる。
残された残骸にのしかかると、口が開き……サソリもどきが食事を始めた。
「金属を、食べてる?」
「間違いありませんね。となると、あの硬そうな表皮も相当ですよ」
太陽の灯りに、きらびやかに光っているのは伊達ではなさそうだ。
乱入者に驚きつつ、撤退をすることに。
『予想外のオチがついたが、問題ない。いつもより多いぐらいの回収量だ』
「それならよかったわ。間引きしてないときは、あれが襲い掛かってる感じ?」
『決まった時期は、な。あの辺はあいつらの縄張りなんだ。この時期は出てこないはずなんだが……』
今回の襲撃は、イレギュラーなものではある様子。
それでも、十分な量は確保できたようで何よりだ。
「自然相手だものね、仕方ないわよ」
私の悟ったようなセリフに、向こうからも同意が返ってくる。
そのまま町へと戻るルートを取りつつ、周囲を警戒だ。
「レーテ、私気になるんですけど」
「なあに、改まっちゃって」
「その、ですね。人間に限らず、生き物ってそうそう変わらないとデータではあるんですよ。ミュータントは別物ですけど」
実際、その通りだ。
一代限りであれば、色々といじってってこともできるけど。
いわゆる進化ってのは、長い時間と世代を重ねて起こるものだ。
「ええ、そうね。それで?」
「さっきのあれとか、全部突然変異だとか、人間が手を加えた、とは考えにくいですよね? その……海の中、どうなってるのかなって」
「……考えないようにしましょう」
少し、少しだけ……変な想像をしてしまった。
以前とは、すべてが変わった海の中。
人は、地上から海に出られなくなったのでは、なんていう想像。
移り変わる景色が、急に色を失った気がするのだった。




