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JAD-007「命の源へ」



 突然だけど、私はゲームでは辻支援が好きだった。


 明らかに初心者だなって人を見つけると、さりげなく近くで狩りをのんびりしたり。

 囲まれた時は、居合わせたからと支援をしたり。

 強くなってからも、初心者が良く通ることになるルートを敢えて選んだり。


「なんだかなー、魂がうずくのよね」


「そういうものですか? 自分にはわかりません」


 困ったように言うカタリナも、否定はしてこなかった。

 今、少年はカインの事務所で、面接中だ。

 連れてくる前に、簡単に確認したけどいい目利きの力がある。


(なんだろう、特殊能力ってやつかなあ?)


 この世界には、時折普通以上の力を持った人間が産まれるのだ。

 少年のように、見抜く力を持つ人もいれば、JAMの操作に適した能力だったり。

 もっとも、しっかりと磨かないと持ち腐れとなってしまうのだけど。


「やあ、レーテさん」


「悪くない子でしょ?」


 面接が終わったのか、待合室にやってきたカイン。

 そこでお茶をしていた私が言うのもなんだけど、彼も彼で私に賭けすぎな気もする。


「ええ、ええ。そこらで食い物にされずに済んでよかったというべきですね」


「それはよかったわ。ついでに、何かお仕事があると助かるのだけど」


 文明が崩壊した星だけど、それでも人は生きている。

 なんだかんだと、今を生きている以上は、何かしていかなければならない。

 噂によれば、星を渡る術はあり、この星もあくまで人類が生息している星の1つでしかないというのだし。


(宇宙に住む人からすると、私たちは地上で動く虫…かしらね)


 雑事を引き受ける、というつもりはないけれど、あまり仕事を選ぶつもりもない。

 そんな私の考えを知ってるのかいないのか、カインは地図をテーブルに広げた。


「今すぐという話ではないですが、いくつか。1つは街道沿いの安全確保。まあ、間引きですね。他には水源地帯の確認、何かあれば排除。後はまあ、恒例の採掘ですか」


「水源? そういえば、山際には町はないのね」


 地図によれば、ここからトラックで往復1週間といったところ。

 カタリナという存在がいる私なら、だけども。


「山の近くは、ゴーレム以外にも良く出ますからね」


「ミュータント……異形の獣たちですね」


「面倒な話ね」


 隣に座ったカタリナも、真剣なまなざしだ。

 タンセに入る前に撃った狼のような相手のことである。


 あれぐらいなら可愛いもので、文明崩壊は動物にも大きな影響を与えた。

 絶滅してしまった種も多いはずだけど、生き残った種も多くいる。

 それらは、適合したのだ。


 その結果、元の種に見えるという存在と、それから逸脱した存在もいる。

 動物には変わりなく、自然が少ないほど、数が少ない。

 それでも例外がいて、たまに町の近くにやってくるというわけだ。


「いいわ。散歩ついでに、この水源確認行ってくるわね」


「よろしくお願いしますよ。こう、実入りがあまりないから受けたがらないんですよね、皆」


 確かに何かを倒す、採掘するといったものとは違う。

 自分たちの生きる糧を守るという点では大事だと思うのだけど、よっぽど問題がないからだろうか。


 契約を行い、さてトラックへというところで少年と出会った。

 これから仕事なのだろうか、きりっとした表情だ。

 それも、私たちを見つけることで笑顔になった。


「お姉ちゃんたち!」


「無事に雇われたみたいね。頑張るのよ」


 言うほど私も、見た目は年上かというと怪しいところ。

 それでも、出来るだけ大人ぶって見せるのがこういう時のお約束だ。


「うん。お姉ちゃん、ジュエリストだったんだね。すごいなー、俺もいつか乗れるかな?」


「かもね。今はしっかりと働きなさい」


 仕事に行くから、と別れて歩きだす。

 少年には、ああは言ったものの……。


「素体が見つかること、稀ですよね」


「ええ。基本、古代のを発掘するか、現代のを手に入れるか、ジャンクでくみ上げるか……」


 どのパターンも、問題は多い。

 私のような、古代のをというパターンを除いた2つ。


 現代で、生産されているジュエルアーマードは……まあ、廉価版というべきものだ。

 出力も上限があり、戦力としては並。ジャンクとなれば言うまでもない。


「この前のラエストエイトを改造する? うーん、無理ね」


 トラックに乗ってからも、機体の事を考えていた。

 暇つぶしと言えば、その通り。


 機体の製造方法は、知っている。


 何らかの素材で本体や手足を作り、それをしっかりと組み立てる。

 その中に、ジェネレータを設置、何かでつなぐ。

 石英を中心とした鉱石を燃料として放り込み、素質ある人間が力を注ぐだけ。

 

 逆に言うと、本体、コア部分さえ無事なら手足は何でもいい。

 最悪、戦場で相手の手足をもぎ取ってくっつけるなんてこともできる。

 その意味では、完全なロボというよりは生体部品のようなイメージに近いかもしれない。


 ジュエルアーマードの別称は、ブロック玩具。

 ジェネレータと配線さえつながっていれば、なんでもいいのだ。

 なにせ、動力伝達用配管は勝手に成長し、末端までつながる。


(よく考えると、とんでもない話よね…今さらだけど)


「ゲーム通りなら……大量に同種の宝石をつぎ込めば、コアは複製できるはずだけど……」


 割に合うかは、何とも言えない。

 実際に出来るかも、わからないからね。


 この世界に産まれてから、集めてきた宝石はかなりの物だ。

 天然が6割、4割が合成だけども。

 願わくば、ゲームの時のように宝石を使い捨てるような戦いには遭遇したくない。


「いくらでも時間があれば稼げるゲームとは違うのよ、ゲームとは」


 そんな私のつぶやきに、カタリナはツッコミを入れてこない。

 一番最初に、私がゲーム世界なのか!?と散々喚いたからだ。

 結局、認めざるをえなかったのだけど、ね。


「レーダーに感。どうします?」


「えっと……襲ってくる感じはないわね。スルーで」


 道中、見つけたのは馬にも見えるミュータントの群れ。

 草食動物の姿をしているが、中には雑食の種もある。

 今のところ、襲われてないのでどちらかはわからない。


「皮をはぐとか、面倒ですもんね」


 少しでも稼ぐなら、獲物は丸投げより少しは自分で加工すべきだ。

 とはいえ、その稼ぎが大きいかは別。

 今は、そこまで手間をかける状況ではないのだ。


「私は休むわ。悪いけど、よろしく」


「ええ。休みなく働ける、それが私たちの利点ですからお気にせず」


 言外に、普段人間扱いしてる自分がレアケースだと、カタリナに苦笑された気がした。

 それを確かめることなく、後部座席という名の仮眠場所で横になる私だった。



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