JAD-077「洗礼」
扉をくぐったとたん、鼻に届くのは確かなアルコールの匂いと、たばこの香り。
私自身は喫煙しないけど、やっぱりなくてはならないのだろう。
様々なストレスから、心を守るために文明崩壊以前からのお約束の1つだ。
建物は半分事務用、もう半分は食事処といったところか。
まあ、噂や情報を集めるのに、適したスタイルではある。
「ウェイトレスの面接か?」
「こんな武器を構えてやれるのがあるなら、ね。顔出しと仕事探しよ」
JAMにも乗ってる、そう事務側の受付であるおじさんに告げ、案内してくれた女性のほうを向く。
相手もわかっているとばかりに、うなずき返してきた。
「西から来たての、ほやほやだそうだ。何かあったか?」
「西から? なるほど。ちょうど朝一で間引きと回収の定期依頼がありますぜ」
「間引き?」
どうやら、案内してくれた人は有名で、それなりの地位のようだ。
受付のおじさんも、女性にはどこか丁寧な対応だ。
聞こえてきた仕事は、間引きだという。
でも……。
「獣相手は少ないとおっしゃってましたよね?」
「そう、さっきそう言ってたわ」
「ええ、だから……獣ではない」
見た方が早い、そういわれて外へと連れ出される。
建物に併設された、大きな倉庫のような建物の中へ。
そこには、無数の機械の残骸がまとめられていて、絶賛作業中、といった状態だった。
修理しているというよりは、解体している。
「ここは……もしかして、これが獲物?」
「その通り。この辺には、不定期に無人機械の集団がうろついてる。そいつらを間引いて、資材にするわけだ」
「狩猟……にしてはずいぶんと荒っぽいですね」
まったく、カタリナの言う通りだ。
でも、覚えのある行為でもある。
ゲームの中で、修理資材や小銭を稼ぐのに似たようなことをした。
無限湧きする機械を相手に、スコアを稼ぐのだ。
いかに耐久を節約し、無駄弾を撃たないか。
「これは武装なし……こっちはライフル……対人から、対機械まで、色々いるのね」
「うむ。だから基本はJAM相当の戦力が必要だな。修理して継ぎ合わせて、武装に使ってる輩も多いが」
指さす先には、比較的大型の機体を直したのだろう。
有人操作にしたらしいものを動かす人がいる。
なるほど、JAMを操作する能力が足りてなくても、動かせるわけか。
つまり、この機械本体はそういう量産を前提としたもの、ということだ。
「主に北の山付近と、南の川と海付近。どっちでも好きな方を選べ」
「一つ、聞きたいのだけど……どうして、出現地域を制圧してしまわないの?」
「戦力的な問題もあるが、私たちではこれらを一から作れないということがあるな」
あっさりと、ぶっちゃけてくれた。
どうやら、公然の秘密とか言うやつのようだ。
であれば、何かするということも難しい。
ここで私が一気に吹き飛ばしたりすると、いろいろと問題だろう。
(まずは様子見ってことでいいか……)
「よくわかったわ。じゃ、川のほうに行くことにするわ」
「レーテ、トラックの置き場所とかを確認しないと……」
「ああ、そうだったな。宿も必要だろう? おすすめに案内しよう」
何から何まで、と感じるが相手も取り込みに必死なのだろう。
どうも、相手も私の力をある程度感じてる感がある。
実力を測っている、といえばいいだろうか。
「よろしく。そういえば名前を聞いてなかったわ」
「おっと。リンダ、そう呼んでくれ」
明らかに偽名だけど、本名を聞き出す必要も感じない。
昔から現場に出て戦っていたんだろうと感じる雰囲気に内心驚きつつ、リンダの案内についていく。
そうしてたどり着いた先でトラックを預け、挨拶もそこそこに部屋に入る。
掃除の行き届いた部屋に感心しつつ、早々と明日に備え、休むのだった。




