JAD-076「営みの違い」
ついに、視界に生きた人工物が見えてきた。
長めの野外生活が、終わりを告げる時が来たのだ。
「やっとね……場所はわかってても、なかなか進めないんだもの」
「かつての人類が鉄道や船、車を手にするまでの交易や旅路のようでしたね」
汗や垢の出ないカタリナにしても、ずっとの野外生活は少々ストレスだったんだろう。
私は言うまでもないけど、彼女の顔にも笑みが浮かんでいる。
人間そのものにしか見えない彼女は、アンドロイドだ。
文明崩壊前後の技術で生み出された、その意味ではヴィンテージでありながら、最先端。
様々な能力により、事実上外からのエネルギー摂取は最小限でいいと聞いている。
(そう考えると、私は不便よね)
ハンドルを握る手に、汗がにじんでいる。
人間というくくりに収まるであろう私も、作られた存在だ。
石の、宝石の力を使い、星の力を引き出すための調整者。
記憶も、果たして経験したものなのか、刷り込まれたものなのか。
ただ確かなのは、今を生きようというこの気持ち。
「町についたら、補給よりも前にベッドで寝たいわ」
「あははは、確かに」
山を越え、平野を走ってしばらく。
大きな川が向こう側に見える土地で、街並みが見えてきた。
おおよそ、JAMよりも高いビルもあったりして、意外な光景だ。
事前の情報によれば、この地域は軍が残っており、国家のような形を保っていそう、とのこと。
「レーテ、町から通信。共通コードですが、どうします?」
「出るほかないでしょ。あーあー、こちらフリーのジュエリスト、聞こえますか」
『聞こえる。聞かない声だな、よその者か?』
「信じてもらえるかわからないけど、西側から来たわ」
正確には南西、だけど間違ってはいない。
ここと西側に、ルートが全くないわけではないのは、確認済みだ。
といっても、かつての人類が旅路で消えていったような、危険なルートだけど。
『そうか……嘘を言う必要もないだろうな。郊外にまずは止めてくれ』
「了解。感謝するわ」
町に近づくなと言われないだけ、助かったといえる。
おそらくそこで、検査なりをするのだろうから。
トラックを町の壁の外側、タイヤ痕が無数にある場所に向ける。
そこに到着するころには、壁に開いた入り口から数台の車両が。
この距離でもわかる、ちゃんと整備された動き。
どうやら、近くに工場が残っていたか、技術の復興を果たしたようだ。
「武装はするけど、下は向けたままでね」
「ええ、もちろん」
女2人ということで舐められる恐れはあるけど、騒ぎ立てる必要もない。
やってきた車両から降り立ったのは5名。
意外なことに、3名が見るからに女性だった。
赤毛の長髪で、ラフな格好だがよく鍛えられている。
鋭い目つきは、戦士だと感じさせる。
「ようこそ、でいいのだろうな。西側からは10年以上来客がないそうだ」
「それは光栄なことかしらね? フリーのジュエリスト、ライフレーテ・ロマブナン。レーテとでも呼んで」
「私は助手のカタリナです」
一通りのあいさつの後、ざっくりとした質問コーナーだ。
目的は、お金儲けや動力の石集め、大体なんでもやれること。
生身でもそれなりに戦えることも、正面から告げる。
「マネーカードの履歴も確認が取れた。しっかりネットワークに残ってるから、安心してくれ」
「衛星がまだ生きてて、ほんとうれしいわ」
人と物の行き来は難しくても、空を通じてのデータ、ネットワークは生きている。
だからこそ、私の西側での活動が読み取れたわけだ。
こっちは獣相手はあまりないぞ、なんて雑談を交えつつ、町へと招かれる。
進む道も、舗装された立派なものだ。
「土地が違うと、こんなに生活が違うものなのでしょうか?」
「まあ、ね。そんなもんよ。それこそ、昔は狩猟で生活していた人々と、本を作れるような人々が、同時に存在したりしたのよ?」
記憶からわかるそんなことを話しながら、町の中を進む。
そうして案内された先は、大きな建物。
駐車場には、多くの車両が止められ、いかにもな人々が行き交う。
「ここは……」
「ジュエリストのたまり場、職業あっせん所ってとこかしらね」
先導してくれた車両から、先ほどの女性が下りて手招き。
私たちも、それに従って建物へと向かうのだった。




