JAD-074「目覚め、生まれなおす」
「きっと、これを取るとこの施設も終わりよね」
「ええ、放っておいてもダメでしょうけど」
恐らくは、私の……私のような、宝石の力に適応した人間を生み出すための研究・生産設備。
ほかの土地にもあるかもしれない、そんな人間の闇の1つ。
データをいまさら見ずとも、見つけたモノたちが私にそう教えてくれた。
危うく、もう一度とばかりに色々と書き換えるように調整を受けるところだった。
でも、カタリナとの思い出が、私を戻してくれた。
いうなれば、生まれ変わったかのようだ。
「ありがとう、カタリナ」
「よくわかりませんけど、どういたしまして」
青白い光が周囲に漏れる中、笑いあう。
そうして覚悟を決めて、自然と手をつなぎあって。
動力が暴走しそうになっている部屋に入り込む。
「ああ、そういうことね……本当に使う先がないから溢れてきてるのか……じゃあ、一時的に私につなげてっと」
部屋中にあふれる力が、私に何かを伝えてくれる。
引き出すだけ引き出しておいて、どこに行けばいいのだ、と。
石の力を、引き出すのはこの施設の電源設備ではなく、私。
そういう形で割り込みをかけ、つなげた。
「うくっ……さすがにでかいわね」
「早く出力を抑えないと……」
シリンダーの中は、JAMのコアのように文様めいた配線が無数に走っている。
その仕組みを、なぜか理解できる私。
意識し、力を弱めていく。
そうして、徐々に青白い光は消えていき、部屋に暗がりが迫る。
と、カタリナが放ったであろう光が新たに部屋を照らし始めた。
「よしっと……うん、確保したわ」
「よかったです。その石は、ダイヤですか?」
「違うんじゃないかなあ。うん、このネオン感は違うわね」
記憶から浮かんでくる名前は、アパタイト。
生まれ故郷に探し物が眠っているというオチはなく、こんなものだ。
でも、その大きさはほかの追随を許さないクラスだ。
両手のひらに収まるかどうかという、巨大なカットされた宝石。
「行きましょ。他に何か隠れてる様子もないし……」
「結果的に、上のドラゴンがいたから漁られなかったんでしょうか」
「かもしれないわね。だとしたら、攻撃を仕掛けたのは謝らないといけないかしら」
言葉が通じないし、近づけば食われる、そんな相手っぽいけれども。
シリンダーのある部屋を抜け、動くものがなくなった空間に出る。
照明も落ちており、ぎりぎり残っている非常用バッテリーからだろうものが光っている。
「何人いたかは知らないけど、アンタたちの分まで、生きるから」
誰もいないだろう空間に、そう告げる。
過去との決別かもしれないし、自分を納得させるためのものだったのかもしれない。
それでも、何かが答えた気がして、笑みが浮かぶ。
何か言いたそうなカタリナを連れて、出口へと。
「レーテ、今私のセンサーに……」
「いいのよ。何もなければそれで。あったとしたら、みんな私が持っていくわ」
気が付けば、色んな記憶がよみがえっている。
といっても、刷り込まれた記憶なのか、本物なのかはわからない。
いろんな昔の常識、知識、そんなものも沸き上がる。
「人はね、怖かったのよ。自分たち以外の生き物が地上を支配することが」
「自分たち以外、ですか……」
帰り道、そんなことを話しながら歩く。
覚えていること、メテオブレイカーから教えてもらったことなどを頭の中で組み立てた。
かつて、人類は地上に落ちてきた隕石から、力を得た。
でもそれは、地上に住む人類以外の何物かの力だったのだ。
おそらく、人類は恐怖した。
自分たち以外の、知性ある生命と争う可能性と敗北に。
「だからこそ、急激に研究が進み、利用のための手段も乱立したのよ」
「なるほど……」
全部推測でしかないけど、ある程度は当たっていると思う。
かといって、私のすることに変化はないのだけれど。
と、通路に出てきたところで外に反応。
「あのドラゴン以外の何かが来てるわね。崩れるといけないわ、急ぎましょう」
「了解!」
固定しておいた機体に乗り込み、通路ではあるけれどできるだけ急ぐ。
滑るように高速で通路を突き進み、開いたままの扉から外へ。
一気に舞い上がろうとした私の前に、巨大な何か。
「ドラゴン!? 別個体!?」
とっさに横に回避させた私。
ブリリヤントハートがいた場所を、新手のドラゴンからのブレスが襲う。
それは先ほどまでいた洞窟の入口へとぶつかり、がれきで洞窟の入り口がふさがるのが見えた。
「ここにいたドラゴンは……」
「いました! あっちで無事ですよ」
無事、という言い方もどうかとは思うけれど。
もしかして、番か?と思いきや、外れだ。
もともといたドラゴンがにらむのは、私ではなく新手だった。
「はんっ! 他人か、捨てられたってとこね? 未練がましいのよ!」
「レーテ、ドラゴンにそんな人間めいたことはきっと……ううん、そうでもないのかな?」
混乱した様子のカタリナの声を聴きながら、新手のドラゴンと対峙するのだった。




