JAD-072「おかえりなさい」
「靴はここでお脱ぎくださいってことか……」
「明らかにJAM用のハンガーですね」
ドラゴンが巣作りしていた岩山の中、私が目覚めた洞窟の内部。
しばらく進んだ先は、ここから機体では進めない、そんな場所だった。
左右に数機ずつは固定できそうな場所。
長い年月を経ても、まだ形を残すはしごがなんだか妙に気になった。
ここから出る時、もっと言うとブリリヤントハートを見つけた時。
この場所に、何機かあったようななかったような?
そう、いくつかのうち、1機を選んだような気がする。
「空っぽじゃなかったと思うんだけど……うーん」
「色々ありましたからね。ゲーム?の記憶と混ざってるんじゃないでしょうか?」
そう……なんだろうか?
実際、記憶しか頼りにならないのでそれがだめならなんともならない。
武装を身に着け、コックピットから外へ。
ホコリを感じない、澄んだ空気を吸いながら降りる。
不思議と、懐かしさを感じた。
「この見上げる感じは、確かに記憶にあるのよね。細かい装備は変わってるけど」
確かに、現実で見た記憶と、ゲームで何度も見た光景とはよく似ている。
カタリナの言うように、記憶が混じってるのだろうか?
「扉はあれ1つ、行くしかないですね」
「ええ、行きましょう」
ボタンも、カードのスリットも、操作パネルもない。
だというのに、近づくとかすかな音を立てて扉が横にスライドした。
「おかえりなさいってとこかしらね」
警戒をしつつ、前に。
点在する灯りが、扉の向こうの通路を照らす。
作りが似ていることを考えると、ほかの施設と似たような時代のものなんだろう。
何か出てきやしないかと、ビクビクしながら進んでいた記憶がよみがえる。
今の私には、力がある。
だから、おびえる必要もないはずだ。
「私のところは外れでしたけど、こっちはどうでしょう」
「当たりは当たりで、厄介な気がするのよね……」
なにせ、私のような存在が眠っていた場所なのだ。
それこそ、よく見たら私が100人いました、なんてこともあるかも。
口には出さず、そんなことを考えてしまう。
「そうそう、こんな感じで通路に出てきたのよね」
小さい、丸いのぞき窓がある扉。
出てくるとき、悩んだ挙句覗かずに扉を勢いよく開いたのだ。
今回も、別の意味で覗かずに……扉を開いた。
「っ! レーテっ!」
「ええ、感じるわ。何、この石の力は……」
まるで、暖房の効きすぎている部屋に入った時のようだった。
濃厚な、石の力が私たちに吹き付ける。
(扉を開くまで、全く感じなかった……どういうこと?)
山に埋まる鉱脈すら感知する力が、何も感じ取れなかった。
その事実が、銃を握る手に力を加える。
天井から何か落ちてこないかと、気を付けつつ中へ。
やはり、むせそうなほどの石の力だ。
「レーテぐらいのジュエリストなら、なんでもできそうな感じですね」
「下手に力を使えないっていうことでもあるわね」
漂う石の力は、今のところ属性も帯びていない。
ただただ、力が漂っている……そんな感じだ。
「ここで……そう、このコンソールが私の時は生きていた」
沈黙するモニター付きのコンソール。
ボタンをあの時のように押し込むけど、何も動かない。
視線を向けるのは、私が眠っていたポットの場所。
ふたが開き、何も中にはない。
そして、そんなポットは1つだけ。
「少なくとも、ほかにはいないみたいですね」
「だといいわね。石の力は……もっと奥?」
なんだか息苦しさも感じる中、2人して進む。
よくわからない機械や、モニター類を見つつ進んだ先。
いかにもな重厚な扉、それが半ば砕かれるようになっていた。
「耐久年数を超えたってとこか……何かがあけた様子はなし、と」
お約束であれば、目覚めた何かが!というところ。
今のところ、それはなさそうだけど……放置もできない。
どうにかできそうな部分を蹴飛ばしたり、どかして隙間を作る。
そうして見えた先には、この施設の動力源だろう部分。
光を放つシリンダーの中に、青い石が浮いている。
「……もしかして、レーテが目覚めて出ていったから、エネルギーを使う先がなくて?」
「その可能性は十分あり、ね」
このままだと、石の力で山が吹き飛びそうな予感がした。
それは回避するべく、どうにかあの石をシリンダーから出すことにする。
電源を落とすスイッチ的なものがないか、中に入って探す必要がある。
そのことをカタリナと話し合った時だ。
「何か音が……装置に電源が!?」
「一体何がっ」
さっきまで沈黙していたコンソールや様々な機材に灯りがともる。
急に動き始めた装置に驚く私は、光に飲まれた。




