JAD-065「機械と人と」
山のふもとに見つけた、明らかな人工物のふくらみ。
建物というより、シェルターのようなものを大地が覆った、というのが正しいだろう。
最初に見つけた時もこうだったはずなのに、記憶にあまりない。
それだけ、あの時は必死だったんだろうか?
「入り口は閉まってる……」
「レーテが最初に来たときはどうだったんですか?」
まだそんなに昔のことじゃないのに、もうかなり前のように感じる。
入口らしき場所にも、カード用スロットや、パスコードを押すようなものもない。
ただ大きな2枚の板が、閉じている……そんな見た目。
「どうだったかしら……確か、この辺りに……」
自分でも、なんだか不思議な気分だった。
思い出すようにしながら、扉の脇へ。
そこには、ぽっかりと開いた穴。
20㎝ぐらいの穴で、手を突っ込める。
(ああ、そうだ。蛇がいるかもなんて考えず、とりあえず手を突っ込んだんだ)
念のために穴の中を照らし、先客がいないことを確認。
奥に見えたレバーらしきものを握る。
「これ、JAMと同じだわ……石の力が、感じられる」
「え? じゃあこの場所はまだ生きて……」
レバーを握る手に力を籠めると、力が流れていくのを感じた。
それは扉全体に伝わり……音を立てて開いていく。
わずかな風が、砂埃となって中に入っていくのが見える。
ぽっかりと、巨大な空間が広がっていた。
「……行きましょう」
「私がトラックは運転しますので、レーテは機体に」
うなずき、ブリリヤントハートを起動。
ゆっくりと中へと入っていくことにする。
人工的な空間が、同じく人工的な灯りで照らされる。
「全体的に維持されてるわね」
『つい先日作られましたって言っても信じそうですよ』
以前見つけた採掘場らしき場所より、なんだかそれらしい空間だ。
あちらと違い、こっちは……最初からJAMでの移動を前提にしてる気がする。
「生体反応なし……熱源……もないわね」
『気のせいでしょうか? なんだか懐かしいです』
「そりゃそうでしょう。ここから出ていったんだもの」
言われて、自分も懐かしさを感じていることに気が付く。
最初は、何が出てくるかとおびえながらだったはずなのに、だ。
そうこうしてるうちに、まっすぐの通路が突き当りに。
分厚いと感じる、重厚な扉だ。
なんとなく、ゲートという言葉が浮かぶ。
『通信を探知。どうですか』
「何か来てるわね……資格情報の提示を求む? ふむ……」
確か、最初の時もそんなことを言われて……。
わけがわからなくて、怒ったんだ。
そして、ぶち破るとばかりにライフルを構えた。
『レーテ!?』
「見てなさいって」
手加減した光の一撃。
それが扉の中央にある球体のオブジェに突き刺さり……。
「貴石反応の照合確認、なるほどね」
宝石、星の力を引き出して力とする。
その能力には、個人差、個体差がある。
そして、それにはなんらかの波長のようなものもあるようなのだ。
「関係者、あるいは当事者が入れるってわけよ」
『なるほど……』
慎重に先に進むと、さらに扉。
これも同様に開いていくこと、3回。
ついに、目的の場所にたどり着いた。
コックピットから降り、念のために小銃と光剣を装備。
明るいながらもどこか不気味な空間へ。
「ああ、確かに見ただけだと棺桶に見えなくもないわね」
『ですよね。よくこれを開けましたね、レーテ』
視線の先には、20ほど並んだ長方形の箱。
無数のケーブルがつながっており、ほとんどが崩壊している。
ケーブルもちぎれているのが多い。
唯一、左端の箱だけが無事で、そこにカタリナがいた。
「よく見ると端末があるわね……」
警戒しつつ機体から降り、そちらに向かう。
人間サイズの端末の電源は生きており、起動もした。
手早く内容を探り、何か有用な情報がないかを確かめる。
使ったことがない端末なのに、なぜか使い方も、大体のデータの構造もわかった。
(これは……あとで考えましょ)
自分のことながら、不気味とも言える。
でも今は、それは大事ではない。
「カタリナたちのことが書いてあるわね……疑似生命を目指した、宝石運用のための存在……」
「機械だけだと、ジェネレータにしかならなかったんでしょうね……」
周囲の警戒は忘れずに、読み込みを進める。




