JAD-064「出会いの地」
「異常なし……襲撃もなし、と」
「本当に人が住んでないんですね。獣と、時折のミュータントらしき相手ぐらいですよ」
町を出てしばらく。
森を迂回するように平地を進むが、平和だ。
もちろん、問題の少ないようにと回避してるせいもある。
そんな中でも、厄介そうな相手はいないわけじゃあない。
「あんなんがいたんじゃ、そうそうは住めないわね」
「確かに……あれも石、星の力で体を支えてるんでしょうか」
もう距離が離れてるけど、森との境目にいた相手を思い出す。
それは、大蛇……文字通りの、大蛇だ。
作り物のように大きな、丸太より太く、JAMに匹敵する長さの相手だった。
普通に考えると、自重が支えられないだろうし、食料の問題もある。
一番の問題は、生きているということは同じようなのが何体もいるという可能性。
「それはわからないけど、野営で外で寝るのはやめましょうね」
「はい……丸飲みは、少し」
ぞっとしないことを想像しつつ、先へ進む。
岩が転がってるということはないけれど、時折残骸のようなものが。
年月が経ち、風化してしまった……文明の跡。
「あれは、建物かしら?」
「おそらくは? 全部植物で覆われてますね」
見えてくるのは、周りの森より一際突き出た緑の塊たち。
近づくとよくわかるその姿は、崩壊前に植物に覆われたビル群のようだ。
今も、かつての文明は形を残している。
そのことが、なんだかうれしくもあり、悲しくもある。
「何も回収できるものはなさそうね……行きましょ」
「記録によれば、あの山のふもとあたりのはずです」
今、目指しているのは私とカタリナの出会った場所。
わけのわからないままJAMを起動させ、トラックも見つけて……。
この世界がどんな場所か、実感がわいてきたころに出会った。
「懐かしの我が家……でいいのかしら?」
「家って感じはしなかったですね……どちらかというと……」
棺桶、そうカタリナは小さくつぶやいた。
聞こえてしまった私も、わずかに動きを止めつつ、苦笑する。
自分自身、似たようなものだったなと思いだしたのだ。
私も、よくわからないカプセルめいたものの中で目が覚めたのだ。
「無事なら、何か使えるものはあると思うわ」
「それは確かに。物資も少しぐらいあるといいんですが」
あの時は、正直慌てていたからろくに探索もしていない。
カタリナを目覚めさせ、連れ出すだけで精一杯だったのだ。
「仮にも、文明崩壊前後の技術でしょうし……そこの茂みに車止めて」
「何かいました……空?」
機銃を操作するサンルーフ側へと身を乗り出し、空を眺める。
ちょうど、こちらは木々に隠れている状態だ。
耳を澄ませ、集中……来る。
「あれは……ドラゴン?」
「空飛ぶ奴、あちこちにいるのかしらね」
空想の産物そのもののような生き物、ドラゴン。
この間戦った相手は、なかなかに頭がよかった。
大蛇の時も思ったが、生き物として絶滅していないのなら、繁殖しているということ。
(案外、生物兵器として作り出したのが野生化したままとか?)
人体をいじりまくるような倫理観の時代がかつてはあったのだ。
なら、動物をあれこれするのに躊躇するはずもない。
例えばそう、たくさん子供を産む家畜、とかね。
絶滅した生き物を、余分なものを加えてよみがえらせるぐらいするだろう。
「変に見つかっても面倒だし、警戒はしておきましょう」
全力疾走、はやめて進むことさらに数日。
ようやく、目的の山が近づいてきた。
「なんだか、懐かしい気がします」
「人の手が入ってないから、結構変わってるとは思うんだけどね」
言いながらも、自分も実はそう感じていた。
興奮したまま旅立っていたから、どこか記憶にこびりついているのかもしれない。
木々が薄くなり、地面の雑草も減ってくる。
森や平地から、山肌に変化してきたのだ。
「レーテ!」
「ああ、それっぽいわね……」
山のふもと、少し進んだところにこぶがあった。
山に、大きな大きなボールがめり込んだような岩肌。
こうしてみるとよくわかる。
あれが、カタリナの眠っていた昔の施設、その建物だと。




