JAD-063「別れは再会の約束」
「星の破片かぁ……ご苦労さん。俺たちじゃ、往復に結構かかる距離だったみたいだな」
「まあね。旅をするのに、便利な能力よ。燃費も悪くないし」
戻ってきた私たちは、隕石の正体は隠したまま、回収した岩石のうち有用そうなのを引き渡した。
もちろん、有料ということで色々と引き換えだ。
JAMの燃料にもなる石英や水晶の結晶に、保存食諸々。
「それにしても、あんなにこっちに有利な交換でよかったんですか?」
「お嬢ちゃんも正直だね。なあに、こっちもいい取引ができた。あれなら、JAMを1機か2機増やせそうだ」
内部の金属部分を除いても、隕石破片は宇宙からのものに変わりない。
それは、JAMに使われるジェネレータ、その殻に使えるようなのだ。
「弾薬や銃も数がようやくそろってきたからなあ。開拓先を広げる日が来たのさ」
「応援だけはしてるわ。私は反対方向に行く予定だから参加できないけど」
こういった出会いは、焚火を一晩共にするようなもの。
こだわりすぎず、あっさりしすぎず。
(まるで、ゲームで共闘してるような……気分)
手作り感あふれるお酒を祝い代わりに差し出され、それを飲む。
クセが強いなとは思いつつ、悪い気分ではない。
「東や南か……一応、こっから先には開拓が入った記録はない。何があるかわからんからな、気をつけろよ」
「忠告感謝するわ。さて、機体の調子でも見てこようかしら」
「お供しますよ。ごちそうさまでした」
町についたままで放っておいたので、荷物を下ろした以外はそのままだ。
男に手を振り、体のほてりを感じつつ機体とトラックのもとへ。
「こうしてみると、結構汚れたわね……」
「森を抜けて、戦闘もしましたからねえ」
傷はほぼないけど、見た目が少しよろしくない。
かといって、ここで宝石と星の力で洗車ならぬJAM洗いは少し、ね。
目立っちゃうし、水浸しにするのは迷惑かもしれない。
「トラックはどこかで預けて、機体だけで移動がいいのかしらね。そのためには、バックパックとか必須だけど」
「戦闘時にどうするか、ですよね。データにだけはある四次元ストレージがあればいいんですが」
「あったわねえ、そんなの。せいぜいコンテナ1つぐらいだって聞いてるわよ? それでもまあ、十分か」
ゲームといえば、お約束の1つ。
持ち物とかの重量と容積の問題を解決する設定。
メテオブレイカーの記録からも実在はしたようだけど……。
「現存してるかどうか、よねえ」
「まったくですね。案外、どこかの洞窟に施設ごとあるかもしれませんよ」
笑いながら言うカタリナに、私も笑いを返す。
こういう冗談が言えるのは、彼女ならではだろう。
ひとまず、搭乗口周辺の掃除だけはしておく。
そうこうしてるうちにいい時間になったので、宿代わりの家で就寝だ。
「お姉ちゃん、じゅえりすとってやつなんでしょ? お話聞かせて!」
「こら、お疲れなのよ」
「少しなら大丈夫。ありがとう。そうね……いろんな場所に旅をしたわ……」
厄介になる家で、子供に捕まったのは予想外だったけど。
余分なことを考えることなく、時間は過ぎ、結局その子と一緒に寝ることになる。
ぐっすりと眠り、朝はその子の寝返りで起こされるまでがセットだった。
「またね!」
「ええ、また」
元気な子供は、それだけで貴重だと思う。
未来が決まっていない、可能性の塊。
まあ、私だって未来はまだまだわからないのだけど。
「さて、挨拶はして出発を……あれ?」
「人が何人もいますね」
機体のもとに向かうと、人だかりではないけど、人がいる。
梯子とかを使って……洗ってくれているようだ。
「よう、もう起きたのか」
「ぐっすり眠れたわ。これは?」
見ての通りさ、と言われてしまう。
なんでも、世話になったから、だそうだ。
「こちらは仕事みたいなものなのに、ありがとうございます」
「なあに、このぐらいはさせてもらいたいね。いろいろ助かったよ」
「開拓の無事を、祈ってるわ」
しっかりと握手して、別れの合図だ。
機体をトラックに乗せ、運転席に乗り込む。
気が付けば、ほかにも見送りの人が増えていた。
「じゃあな、お前さんたちの旅路に、希望があることを」
「ありがとう。頑張ってね」
走り出したトラック。
ミラーで見た人々は、仲間にそうするように、手を振ってくれていた。
「いい気分ですね、レーテ」
「ええ、悪くない……悪くないわ」
自然と笑みが浮かぶのを感じながら、道なき道を進み始める。




