JAD-059「自然の力」
「自然にできたものでは……ないわね」
「何かこう、規則性を感じますよ」
何がいるかわからない以上、機体から下手に降りるのは危険だ。
そこで、カメラ越しの映像で確認中。
湖から川へと続く流れをせき止めるもの。
いろんな大きさの木材が積み重なった……ダムのようなものだ。
「なんだったかしら? こういうのを作る動物がいたような気がするわ」
記憶でははっきりしないけど、カタリナの中にはそういうデータがあるかもしれない。
それを検索してもらおうと思ったとき、相手から出てきた。
「獣、ですね。前歯がすごい発達してます。あ、あっちにも、こっちにも!」
「ずいぶんと数がいるものね……」
上空で、何かいると思ったのは彼らなんだろうか?
茶色い毛並みの、四本足で歩く……獣。
水辺か水中で暮らすらしく、その濡れた毛並みが光っている。
それだけなら、可愛らしさも感じなくはない。
ないのだが……。
「結構大きくない?」
「ええっと……町で迎撃したオオカミより……はい」
映像越しだからか、見た目の感覚と大きさがどうも一致しない。
一つ言えるのは、降りてなくてよかったということだ。
こちらが暴れないとわかったのか、隠れていた獣がまた一匹、また一匹と……。
「こんな数、どうやって生きてるのかしら……とりあえず、適当に凍らせるわ」
「了解。ライフルチャージ問題ありません」
じりじりと近づいてきてることに気が付き、慌てて青い光を放つ。
逃げ遅れた獣たちに直撃した光は、相手をまとめて氷の彫像と化した。
悲鳴のようなものを上げ、距離を取る獣たち。
半分以上が、湖と川にある堰へと逃げ込んでいった。
「あれは彼らの巣? だとしたら、今初めてってわけじゃないわよね……どういう……」
「水量は、そのうち戻るって言ってましたよね」
そう、減っても戻る、と。
だからこそ、あまり深刻な感じではなかった。
どういうことかと考え込んだ時、ひらめきのようなものが走る。
「飛ぶわ!」
「え? はいっ!」
説明は抜きにして、一気にブリリヤントハートを飛翔させる。
草を揺らし、水面も波立たせ……この感覚は!
「湖に何かある!」
「中央底面にエネルギー反応!」
とっさに横にスライドするように機体を滑らせる。
わずかに遅れて、水底から光の帯。
まるで、強力な噴水が出てきたかのような力だ。
様子をうかがう中、謎の光は獣たちの巣も直撃する。
粉々に砕け散る、獣たちの作った堰。
「原因は、あれね。何かの砲台のような……」
「不定期か定期的に、壊されてるんですかね?」
たぶん、そうだと思う。
懲りないというべきか、慣れたのだろうというべきか。
問題は、今の攻撃だ。
「データベースにヒットあり。投下式迎撃装置? なんですか、これ」
「実際に見るのは初めてだけど、上空から攻略地点に投下、あとは中身の力が尽きるまで設定した相手に向けて攻撃をしたり、侵入者を迎撃したり、そんな感じね」
とある出来事を参考に、人類が再現した兵器……だったはず。
湖の底からということで、かなり威力は減っている。
威力は兵器としては弱い方で、歩兵相手には強いが、JAMのような相手には何発も当てないとだめ。
今の私でも、立ちっぱなしで直撃を続ければ……かな?
「コスト的には優秀で、一度に2、3連射が限界だけど……周囲からエネルギーを取り込む仕組みだったはず」
「ああ、だからあの堰が不定期に壊されるんですね」
正体がわかったところで、どうするか。
私たちには大した脅威じゃないけれど、この辺りで人間が活動しようと思うなら、邪魔。
「潜るわ。他にミュータントでもいないか気を付けつつ、ね」
「わかりました。久しぶりの潜水ですね」
軽く笑みを浮かべ、先ほど攻撃のあった場所へとまっすぐ沈んでいく。
連射が効かないのは、わかりきっているからだ。
透明度の高い湖を沈み続け、底が見えてくる。
「金属反応大」
「あれね。ひとまず回収しましょうか……」
大きさは大人一人分ぐらいの球体。
ここで壊すのは問題がありそうなので、そのままつかんで地上へ。
遠巻きに、獣たちがこちらを見ているのがわかる。
「うまく解体して、町の防衛に使えないかしらね?」
「機能は停止させて、あちらに任せたらどうでしょう」
もっともな提案に同意し、湖畔で簡単な解体作業。
動力と砲台部分だけ切り離せば、ただの金属の塊だ。
これだけ時間がたっているのに、まだ外観を保っているのは奇跡的だ。
対腐食対策がされているものがあったのかもしれない。
「これがなくなったら、堰はどんどん大きくなるのかしら……まあ、そこは町が考えることか」
「あの獣なら、毛皮とかも取れるんじゃないですかね」
収穫としては小さすぎる球体を手に、空を飛ぶ。
次はどんな依頼が待っているだろうか?
(何もなければ、目的地へ行けばいいのだけど……)
すぐに見えてくる町並みに、そんなことを考える。




