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JAD-005「掘り出し物を掘る者たち」


「わかってると思うけど」


『ああ。言いふらすような奴は1人もいないはずさ』


 念のため、私のことは言いふらさないようにお願いした。

 今さらだが、あまり目立てば余計な物も舞い込んでくるのだ。


 沈みかけた気持ちを振り払うように作業を見つめる。

 残ったゴーレムの残骸を前に、カインのところの従業員が動いている。

 まともな部分は残っていないと思うけど、素材として回収するらしい。


(残しておけばよかったかな? でも、本命は別だもんね)


「レーテ、岩山ばかりですね」


「たぶん、わからないように隠してあるか……そもそもガセか」


 ちらりとカインを見つつ、問題の地図を確認する。

 座標的には、合ってるみたいだけど……。


「? カタリナ、反応が妙に多くない?」


「ええ、そういう組成なのか、金属反応だとちょっと厳しいですね」


 山の中に鉱石類、鉱脈があるのか……な?

 それにしては、この反応は……。


 自然の物では、ないとしたら?


「そういうこと……カイン、トラックに戻って下がってなさい。引きずりだすわ」


 疑問を浮かべるカインたちを、半ば無理やりトラックに戻す。

 自身も、その間にマップを操作していく。


 今回見るのは、金属反応ではなく、ブリリヤントハートのような、機体の反応。

 即座に予想通りの反応が返ってきた。

 見えているのはただの岩山じゃあない、色んな残骸が、バラバラに山に埋まっているんだ。


 そう、まるで化石が一か所でいくつも見つかるかのように。


「上部を吹き飛ばす。連射用意!」


「了解。下肢固定、射撃準備開始」


 移動しながらではなく、射撃だけを狙う姿勢になり、準備を始める。

 宝石を動力源とするジュエルアーマード。

 正確には、何か別の力を宝石を仲介して抽出しているのだという。


 その中の1つには、搭乗者の力がある。


(感情が力になるなんて、それこそ、魔法のようだわ)


 風を起こすエメラルドなどを使う機体は、結構自由を好む気質が多いとか。

 力を引き出すには、自然とそうなっていくらしい、と聞いている。

 私の場合は……全色問題ない。


 それは恐らくプレイヤーとしての能力であるのだけど、この世界ではズル、チートのようなものだ。


「レーテ、切り替えますか?」


「そうね。砂煙もひどくなるし、水でいきましょうか」


 ケースから、1つの宝石を取り出す。

 親指の先より大きな、武骨なカットのアクアマリン。

 それを、専用口に投入するとコックピット内の光も変わる。


 真っ白な輝きが、段々と青白く。

 そうして、代わりにとダイヤモンドだろう石が飛び出てくる。


「コンバータに問題なし。貴石変換完了です」


「よーし、行くわ!」


 機体にライフルを構えさせ、キーワードを呟く。

 青白い光が銃身に集まり、そして打ち出される。


 それは洪水、圧縮された水の暴力だった。

 何発もそれが打ち出され、岩山が段々穴だらけになっていく。


 元々が、重い岩山だ。

 少し頭が重く、疲労を感じ始めたころには十分だ。

 そうして、ついには自壊が始まった。


「ふう……どう?」


「反応大! 地下に何かいますね」


 隙間が増えたことで、実際にカタリナも確認できるようになってきた。

 なんでわかったのか?って言われたら、お約束と答えておこうかな。

 古代のあれこれが、自然の経過で岩山とかの下にあるのは、お約束だ。


 岩塊の影に、何かの金属片が混ざっているのを見て、確信する。


「こちらブリリヤントハート。恐らく古い倉庫を発見。何かいる。撃破からあさるか、被害を前提に確保するか、任せるわよ。もし、機体だった場合、コアの宝石は貰うわ」


『こちらカイン。了解した。出来るだけ確保の方向で、被害が出そうな相手なら撃破で構わない』


 臨機応変、柔軟性を持ってってね。

 甘いと言えば甘いけど、私もそのつもりだったからちょうどいい。


 岩塊の隙間から見える、明らかな人工物である扉。

 上向きにあるということは、格納庫ではなさそうだ。


 けれど、間違いなく動いている。

 たぶん、さっきまでの動きで休眠状態から、目覚めた。


「対JAMルーチンで行くわ。回避優先よ」


「わかりました。出力、上げておきます」


 無言でうなずき、近づいていく。

 何発かライフルを放ち、細かい岩塊を砕いていく。

 そして、属性の相性を考え、もう1本のライフル、実弾の物に持ち替えた。


 空いているほうの手で、見えたハッチを掴み……ひねる。

 わずかな音を立て、中から昔の物と思われる空気が噴き出て来た。


「酸素がかなり少ないです。長期保存環境用の……っ!?」


 彼女の言葉より早く、私は機体を後退させた。

 わずかに遅れて、さっきまでいた場所を下からの砲撃が吹き飛ばした。


「武装が生きてる!?」


「解析開始! 射線に出るわ!」


 穴の開いた場所を睨みつつ、敢えて機体を上に躍らせた。

 そうして、相手の攻撃を誘いつつその姿を確認する。

 ざっと見えただけでも、丸っこい機体の左右に、キャノン砲が8門。


 周囲には、色んなコンテナがあるけど、機体はあれ1機。

 防衛用か、それとも……。


「冗……談っ!」


 思考と動きを、かつてのアバターだったころに戻すかのように集中する。

 手足を目まぐるしく動かし、機体の制御。

 そのおかげで、かすっただけで済んだ。


 扉の上側を旋回していると、次々と撃ち込まれる。

 見た限り、実弾だ。

 やっぱり、中に人がいないから光学兵器は撃てないみたい。


「私のデータベースにありませんよ!」


「大丈夫。知ってる! 下げながらの左旋回が遅い!」


 急加速によるGに、顔をゆがめながら一気に急降下。

 一気に相手の懐へ舞い降り、相手がこちらに砲身を向ける前に、連射。

 左右4門、後付けしたという設定だったはずの相手に叩きこみ……装備を分断。


「ブレードっ!」


「はいっ!」


 後で回収するとライフルは投げ捨て、ブースターを吹かせながらブレードを握る。

 そのまま相手を飛び越えるようにして、背後に回り込み……ジェネレータのある位置を切り取る。


 残心……そんな言葉が浮かぶ中、ブレードを構えたままの姿勢で、相手が倒れ込むのを見守った。

 拠点防衛用ジュエルアーマード、ラストエイト。

 無人運用が前提で、よくゲームでも倒した相手だ。


「簡単に探索後、カインたちを呼ぶわ」


「わかりました。良いのありそうですねえ」


 周囲を見渡すと、ここはまるで大きなビーカーの底の様だった。

 いつの時代のものかはわからないけど、それなりにお金になるに違いない。


「しまった……調子に乗って撃ちすぎたわね。石英残量が怪しいわ」


「カインさんたちに補給を依頼しましょうかねえ……」


 戦いの代償、その証拠である赤くなったゲージを見ながら、ため息交じりの吐息が漏れる。

 手元を見れば、鍛えられてはいるけれど女性のそれとわかる腕。


(私の体は……どうだった?)


 自問しても思いだせない。

 生き抜き、戦うほどに思うことがある。


 ゲームで見た、ゲームのとおりだ……記憶がそれしかないことに。

 名前も、あったであろうゲーム以外の生活、家族のことも。

 きっかけがあれば、水が湧き出るように言葉が浮かぶが、それは覚えていると言っていいのだろうか?


 私は……記憶にそうあるだけで、ただの人間ではないのだろう。


「レーテ?」


「なんでもないわ。なんでも」


 眠っていたのか、作られたのか。

 どちらにしても、今の私は私、そう言い聞かせるのだった。



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