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JAD-057「人間の刃」


 集落に入っての第一印象は、思ったよりにぎわっている、となるだろうか。

 防衛用の壁はあちこちで作業中で、畑も結構あるように見える。

 

 これなら、十分に町と呼べるだろう。


「レーテ、これは……どういう場所なんでしょう?」


「開拓だと思うわ。住む場所を広げるための……それに、あれが気になるわね」


 誘導された先へとトラックを移動させる途中、目に飛び込んできた建物。

 周囲とは明らかに違う……技術的に、別物だとわかる。


「開拓が可能になる条件は、水場が確保出来て、人間が住める環境であることが第一。あとは獣やミュータントから防衛できるか、よね」


「なるほど……あ、あそこみたいですね」


 誘導された先は駐車場用なのか、ずいぶん広い空き地だ。

 何人か立っている人間が、武装しているのが目に入る。

 対人、あるいは普通の獣相手なら十分そうな小銃のように見える。


「ひとまず、降りましょ。警戒はしつつ、ね」


 こちらも武装してることがよくわかる状態で、トラックを降りる。

 視線に戸惑いが混ざるのがわかり、思わず苦笑を浮かべてしまった。


「ずいぶん若いな。声でも感じたが」


「まあね。これでも結構あちこち、仕事してるのよ」


 正面に立ったのは、強面の男性。

 いかにも、な感じで集団のリーダーといったところか。


(衣服を整えるだけの余裕はある、と)


「ここまで来たんだ、疑うことはないさ。ようこそ、最前線の1つへ」


 鍛えられた太い腕が差し出され、比較すると細腕の自分と握手。

 と、鼻に届くこの香りは……銃関係?


「ずいぶん、銃を撃ってるのね」


「ああ、まだまだ敵は多い。隠すことでもないからな、案内しよう」


 ぞろぞろと住民を引き連れた状態で、町中へ。

 驚いたことに、老いも若きも……といった感じだ。


「開拓の最前線、ならもっと戦闘要員ばかりかと思ったのだけど」


「本当の最初はそうさ。だが、これが見つかったから状況は変わった」


 歩いて数分。そんな場所にあった気になる建物。

 開いている扉の中身は……工場だ。


「……よく残ってましたね。これ、生産工場では?」


「そっちの嬢ちゃんもわかるか。ああ、崩壊前に建てられた工場さ。見つけた時は、周囲をよくわからないもので覆われていてな。それをはぎ取ったら……」


 かつての文明は、一度ほろんだ……正確には、途切れたというべきか。

 あちこちにある生産拠点も、その供給先とのラインが途絶える。

 結果として、こうして眠りについてしまう場所もあるわけで。


 何かの理由で、再稼働できるように封印された工場、となるんだろう。


「この場所を守り切れるようにして、拠点へと武器を輸送する。そういう場所なのさ」


「なるほどね、よくわかったわ」


 ある意味、ゲーム通りといえるんじゃないだろうか?

 記憶をくすぐる状況に、どこか心躍る自分がいた。


「仕事は……物納になりそう?」


「まだまだ、そうなりがちだな。マズイか?」


「私たちは大丈夫ですよね、レーテ」


 私が答えるより早く、カタリナの自信満々の声。

 事前に打ち合わせしたつもりはないけども、私たちの流儀といえば流儀。


 ただ働きはしないけど、報酬に貴賤はつけない。

 たとえ、指先ほどの石英だったとしても、納得できるなら受ける、そんなことをしてきたのだ。


(もらえる時は、もらうけどね)


「できれば、石が手に入る依頼がありがたいわね」


「おお、それならいくらでも、だな。何せ、周囲の連中ときたら……っと」


 耳障りというほどでもないけども、気になる音が響く。

 てきぱきと、何人かが動き出すところを見るに……襲撃。


「さっそくのようだ。獣かミュータントか……何者かが北に出てきた。参加するか?」


「ええ、顔合わせにはちょうどいいんじゃない?」


 ほほ笑み、トラックへとカタリナと走る。

 すぐに荷台のカバーを取り、機体へと乗り込む。


 地面にブリリヤントハートを立ちあがらせたときには、すでにこちらも戦闘モードだ。


「ジェネレータはダイヤとルビーのまま、飛ぶわ!」


「北方に反応多数。思ったより多いですよ」


 町の人間を刺激しすぎないよう、一度高度を上げてから外に向かって降下。

 見えてきたのは、町の外で相手と向かい合う男たちと、いくつかのJAM。


「データ確認、オオカミの類だと思われます」


「鼻先に叩き込んでやるわ」


 飛翔したままライフルを構え、動力をルビーとして力を放つ。

 赤い光がボールのように飛び、地面に着弾、そして大きな焚火ほどに燃える。


「いくらかは逃げてますね……」


「逃げてない奴がいるってことは、慣れてるってことね」


 獣が火を恐れる、これはずっと人間が持ち続けた常識で、武器でもある。

 とはいえ、相手も慣れるもの……なんとかなるとわかっていれば、おびえない。


「横合いからつつくことにするわ。正面に立つのはどうかと思うし」


 メインの防衛は町の人間に任せ、援護に徹することに。

 こちらに向かってくる相手は蹴り飛ばす勢いで、そうでない相手には炎を打ち込む。

 運悪く直撃した相手は、すぐ黒焦げだ。


「すぐに終わりそうですね」


「ええ、本当に。うーん……」


「何か気になることが?」


 大したことでは……ないのだけど……。

 こういう状況だと、気になることはある。


「変な話だけど、食べられるのかしらね、この子たち」


「……聞いてみるしかないのでは?」


 あきれたようなカタリナにうなずきつつ、逃げていくオオカミを見送るのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 狼か 黒焦げじゃなかったら食べられそう 犬を食べる地域もあるし 食べたくは無いけど背に腹はかえられぬって言うしなぁ
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