JAD-056「開拓の血」
「道がないから、揺れますね」
「まあね……かといって、まっすぐなぎ倒しながらってわけにも、ね」
メテオブレイカーから旅立ってしばらく。
人の気配がない自然の中を、ひた走る。
幸いにも、この辺りはあまり木々が濃くないようで、どうにか進めている。
どうにもとなれば、ブリリヤントハートでなぎ倒すことも考える必要はある。
(騒がしいし、色々引き寄せるから回避したいところではあるけれど)
「衛星からの情報によれば、もうすぐ集落らしきものがあるはずですけど……」
「開けていて、人工物があるらしい、というものよね。カメラの性能劣化で、詳細にはわからないらしいけど」
記憶にあるような、外でノートに書いた文字を読める、なんて精度はもう残っていないのだ。
それでも、まだ生き残っているだけ、上等だ。
通信としても、かろうじて人類が連絡を取り合うことを可能としているのだから。
「それにしても、どうしてメテオブレイカーは地上にいるんでしょう。宇宙のほうがいいのでは?」
「当時のことはわからないけど、一つ言えるのは……人間は、見えないものはいつまでも怖くて、疑うということね」
「怖くて、疑うですか?」
「ええ、幽霊って考え方は知ってるわよね? いるかもしれない、いないかもしれない、そんな存在に人間は際限なく恐怖を抱いてしまうのよ。宇宙という、データ上はわかるけど実際には目に見えない、手が届かない場所に、あんな兵器が浮いている……果たしてあれは、本当に大丈夫な存在なんだろうか?」
事情を分かっているほど、もし誰かに悪用されたらという事態を考える。
事情が分からないほど、本当にそのためのものなのか、疑い始める。
だから、目に見える、手が届く場所に降ろしてしまった。
「地上なら、何かあった時に誰かがどうにかできる、そう考えたんじゃないかしら。案外、隕石砕きは完全に建前だったのかもね。本当は、どさくさに紛れて戦争でも仕掛ける気だったのかも」
「ところが、実際に隕石を砕く実績ができてしまった……と?」
「わざわざ、星の自転や公転周期を衛星情報とリンクして狙撃をするなんて、ひたすらめんどくさい機能がついてるのも、後付けなんじゃないかしら? 本当なら、星の周囲に何機か浮かせるだけでいいのだから」
メテオブレイカー曰く、同型機は後々、ぎりぎり二桁範囲で生産され、星中に配備されたのだという。
残っているのは、数えるだけらしいけど……まだ残っているのかという驚きもある。
「よくわかりません。どうして人はそうまでして互いに……」
「それが人間ってものかもね。悲しいけど……っと、もうすぐかしら」
なんとなく、周囲の景色も変わってきた。
手つかずから、何かが通ることがある感じ、といえばわかるだろうか?
速度を落とし、トラックをややゆっくり目に進める。
林を抜け、小高い丘を登る。
「町、ですかね?」
「そうね。人間って、本当にしぶといわ」
急ごしらえにしかみえない壁、あちこちに見える見張り台。
それらがすべて、この場所で危険が多いこと、最前線だとうかがわせる。
「無線を飛ばすわ。フリーのジュエリストが、偶然やってきたことを」
「了解です。っと、向こうからコンタクト。つなぎます」
『あーあー、聞こえるか? 敵意がないなら、一度止まってほしい』
聞こえてきたのは、渋い声。
嫌な感じということではなく、年を取った声という意味だ。
「わかったわ。一応、JAMを積んでるわ。横にしてるけど」
『だろうな。ジュエリストを騙る奴は時々いるが、車だけで動くにはきつい場所だ。よし、いいぞ。そのまま誘導通りに来てくれ』
「あの光ってる方ですかね?」
うなずき、トラックの向きを変えて進む。
1つ1つの動きに、無線の向こうから視線が突き刺さっているような気がした。
この警戒感は、覚えがある。
ゲームの世界で、だが。
記憶にあるゲームでも、こうしたイベントはいくつもあった。
プレイヤーが介入しないと、壊滅する開拓団。
逆に、介入することで新たな補給拠点として栄えていくのだ。
「さて……何が出るのかしらね」
緊張した空気を感じつつ、久しぶりの会話に胸を躍らせるのだった。




