表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/278

JAD-056「開拓の血」



「道がないから、揺れますね」


「まあね……かといって、まっすぐなぎ倒しながらってわけにも、ね」


 メテオブレイカーから旅立ってしばらく。

 人の気配がない自然の中を、ひた走る。


 幸いにも、この辺りはあまり木々が濃くないようで、どうにか進めている。

 どうにもとなれば、ブリリヤントハートでなぎ倒すことも考える必要はある。


(騒がしいし、色々引き寄せるから回避したいところではあるけれど)


「衛星からの情報によれば、もうすぐ集落らしきものがあるはずですけど……」


「開けていて、人工物があるらしい、というものよね。カメラの性能劣化で、詳細にはわからないらしいけど」


 記憶にあるような、外でノートに書いた文字を読める、なんて精度はもう残っていないのだ。

 それでも、まだ生き残っているだけ、上等だ。

 通信としても、かろうじて人類が連絡を取り合うことを可能としているのだから。


「それにしても、どうしてメテオブレイカーは地上にいるんでしょう。宇宙のほうがいいのでは?」


「当時のことはわからないけど、一つ言えるのは……人間は、見えないものはいつまでも怖くて、疑うということね」


「怖くて、疑うですか?」


「ええ、幽霊って考え方は知ってるわよね? いるかもしれない、いないかもしれない、そんな存在に人間は際限なく恐怖を抱いてしまうのよ。宇宙という、データ上はわかるけど実際には目に見えない、手が届かない場所に、あんな兵器が浮いている……果たしてあれは、本当に大丈夫な存在なんだろうか?」


 事情を分かっているほど、もし誰かに悪用されたらという事態を考える。

 事情が分からないほど、本当にそのためのものなのか、疑い始める。


 だから、目に見える、手が届く場所に降ろしてしまった。


「地上なら、何かあった時に誰かがどうにかできる、そう考えたんじゃないかしら。案外、隕石砕きは完全に建前だったのかもね。本当は、どさくさに紛れて戦争でも仕掛ける気だったのかも」


「ところが、実際に隕石を砕く実績ができてしまった……と?」


「わざわざ、星の自転や公転周期を衛星情報とリンクして狙撃をするなんて、ひたすらめんどくさい機能がついてるのも、後付けなんじゃないかしら? 本当なら、星の周囲に何機か浮かせるだけでいいのだから」


 メテオブレイカー曰く、同型機は後々、ぎりぎり二桁範囲で生産され、星中に配備されたのだという。

 残っているのは、数えるだけらしいけど……まだ残っているのかという驚きもある。


「よくわかりません。どうして人はそうまでして互いに……」


「それが人間ってものかもね。悲しいけど……っと、もうすぐかしら」


 なんとなく、周囲の景色も変わってきた。

 手つかずから、何かが通ることがある感じ、といえばわかるだろうか?


 速度を落とし、トラックをややゆっくり目に進める。

 林を抜け、小高い丘を登る。


「町、ですかね?」


「そうね。人間って、本当にしぶといわ」


 急ごしらえにしかみえない壁、あちこちに見える見張り台。

 それらがすべて、この場所で危険が多いこと、最前線だとうかがわせる。


「無線を飛ばすわ。フリーのジュエリストが、偶然やってきたことを」


「了解です。っと、向こうからコンタクト。つなぎます」


『あーあー、聞こえるか? 敵意がないなら、一度止まってほしい』


 聞こえてきたのは、渋い声。

 嫌な感じということではなく、年を取った声という意味だ。


「わかったわ。一応、JAMを積んでるわ。横にしてるけど」


『だろうな。ジュエリストを騙る奴は時々いるが、車だけで動くにはきつい場所だ。よし、いいぞ。そのまま誘導通りに来てくれ』


「あの光ってる方ですかね?」


 うなずき、トラックの向きを変えて進む。

 1つ1つの動きに、無線の向こうから視線が突き刺さっているような気がした。


 この警戒感は、覚えがある。

 ゲームの世界で、だが。


 記憶にあるゲームでも、こうしたイベントはいくつもあった。

 プレイヤーが介入しないと、壊滅する開拓団。

 逆に、介入することで新たな補給拠点として栄えていくのだ。


「さて……何が出るのかしらね」


 緊張した空気を感じつつ、久しぶりの会話に胸を躍らせるのだった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ