JAD-051「人が住む理由」
「今日も異常なし……と」
日記代わりに、適当にレコーダーへとそんなことをつぶやく。
ブリリヤントハートにつながっており、音声は記録される。
もちろん、映像だっていけるのだ。
動力は、宝石。
石英、水晶の結晶体あたりを燃料にしたロボ、JAM。
コンテナの輸送動力から始まったらしいそれは、開発当初はまさに鎧だったのだとか。
最終的に、今のように巨大なロボとしても扱えるようになったわけ。
「ジェネレータに刻印されている配線、何かの儀式みたいで笑えるのよね……」
何度も見たことがあるけど、昔の配線パネルのように意味がありそうに見えてしまう。
実際には、たまたまそういう様相になっただけ、ということらしいけど。
「案外、星の力を引き出すための儀式なのかもしれませんね」
「記憶領域の整頓は終わった?」
「はい、おかげさまで。ここしばらく、色々ありましたから」
助手席にいたカタリナの声はいつも通り。
たとえ、先ほどまでは眠るように目を閉じていたとしてもだ。
彼女は、時折こうして睡眠という形で自己成長を果たしている。
「そうね、色々あったわ。さて、今のところは異常はないわ。時折森林があるけど、迂回してる」
「このトラックで森林を突っ切るのは大変ですからねえ」
なんだかんだ、小さくはないトラックが移動手段。
荒野や草原はともかく、木々の合間を縫ってとは難しい。
多くの獣、多くのミュータントと遭遇したけど……。
「集落がないのよねえ、この辺」
「大きな川や鉱山もなさそうですし、工場跡もないですね」
文明が崩壊してかなりの年月が経過している。
人間は、かつての力……武器工場跡を補修し、力を得ている。
あるいは、鉱山から資源を掘り出し、技術ある人間が武器を作っている。
そのどちらもないのであれば、定住には向かないといったところか。
「未来は明るい、そう言える日が来るといいのだけど」
口にはしてみたものの、なかなか難しそうだ。
このまま、南下していけばいつか海にたどり着くとは思うけど……。
「海に出る前に、あの山があるか……」
「私たちがいたのも、山でしたもんね。山沿いに沿って動いてみますか?」
「見るぐらいならそうね……」
進路を調整し、近くの山肌から確認しながら進むことに。
実質、睡眠のいらないカタリナのおかげで、ほぼ一日中移動している。
おかげで、遠いように見えてあっさりと山は近づいてくるのだ。
自然の復活してきている山は、逆にまだまだな平地と比べてどこか異質。
案外、目に見えない何かが大地にはしみ込んでしまっているのかもしれない。
「木々が邪魔でうまくスキャンが……んん?」
「どうしたの? って、あれは……」
ちょうどこの向きではわからなかった山肌に、ぽっかりと木々のない部分が。
とはいえ、山の地肌は見えず、何か建物らしきものが見える。
その前あたりには、なんだかがれきのような、岩たちがごろごろしている。
自然の中にある建物。でもこの距離で、この大きさ……あれは。
「要塞……? あれ、軍事施設跡よね」
「そう思います。本体の施設の周囲に、立派な壁もありますよ」
車を止め、望遠で確認する。
防衛施設は……生きてる。
(でもあちこち傷んでるわね……それに……)
「動く人がいない……」
「どうします?」
返事は、ゴーだ。
生きるだけだったら、別に立ち寄る必要はないけども。
私の目的、目標からはああいう施設は逃せない。
カラーダイヤは、JAMの動力としては最高ランクなのだ。
「どこかにトラックを置いて、JAMで山のほうから回り込みましょう。正面はどう考えてもきついわ」
「了解。ポイントを割り出しします」
そうして、太陽がてっぺんに来る頃には、トラックを隠せた。
荷台に走り寄り、機体の中へ。
「動力をダイヤと……ペリドットにして起動」
「貴石変換完了。どうぞ」
森林の中、やや暗い場所に光が走る。
ゆっくりと荷台から機体を動かし、森の中へ。
「さあて、ミュータントが出るか護衛が出るか……」
「平和っていう選択肢はないんですか?」
「うーん……たぶん、ないわね」
掛け合いを楽しみつつ、軍事施設跡らしき場所へと近づいていく。




