JAD-050「旅立ちは別れの時」
「物資まで分けてもらって、悪いわね」
「いえいえ、こちらこそ助かりました」
黒騎士たちとの模擬戦を終え、反省会なんてのもこなした後。
近々旅立つ予定を伝えたところ、食料などを融通してくれたのだ。
「ラストピース、いえ、レーテさん。旅の途中、自分には襲い掛かってきてないけど危険なミュータントがいたらどうしますか?」
「? よくわからないけど、よっぽどでなければ倒していくわ。素材も回収できそうだし」
「そうですか、ありがとうございます。やっぱり貴女はある意味、私たちよりずっと騎士らしいですよ」
そう言ってほほ笑む副団長の姿に、よくわからないままうなずく。
笑顔だから、きっと悪い話ではないだろう。
トラックで待っているカタリナのもとへと向かい、次は……宿だ。
「あの子、泣いちゃうかしら」
「どうでしょうね。宿屋の娘ですから、別れには慣れているかもしれませんよ」
言われてみれば、その通りだ。
一晩、あるいは数日でいなくなるのが常である。
なんだかんだ、長期間泊まっていたけど今度こそ、お別れだ。
結構長い間部屋は確保していたし、多少は惜しまれるかもしれないけどね。
………
……
…
(なんて思っていた私がいました、はい)
「いっちゃやだあああーーー」
「またこっちに来たら寄るから、ね?」
思った以上に、大泣きだ。
親も、下手に声をかけると余計に泣くということで困った顔。
ゆっくりと、目線を合わせて説得だ。
「ほんと?」
「ええ、ほんとよ。ちょっとだけ、私もおうちに帰りたいなって思ったの」
「おうちに……うん、おうち、帰りたいよね」
まだ涙ぐんでいるけど、泣きっぱなしは収まったみたい。
気持ちが爆発しないうちに、と出発することにした。
滞在の間のお礼を告げつつ、この町を出る。
向かう先は、ひたすらに南……だ。
「よかったんですか、こっちのルートで」
「ええ。まだ通っていないルートの確認もしておきたかったしね」
カタリナが言うのは、安全性のわかっているルートを通ってから南下してもよかったのでは?ということだ。
確かに、その方が安全ではある。
「色んな町で、色んな依頼を受けて、手掛かりは見つけたいですもんね」
「そういうこと。なかなか色付きダイヤ、その大粒となるとねえ」
記憶によれば、みんな天然ものだとなっているが、いくつかは怪しいものだ。
大きさ自体は、なくはないだろうとは思うけれど……。
思考を遮るように、トラックが揺れる。
「道もだいぶなくなってきたみたいね……」
「こっちには、あまり往来がないみたいです」
比較的自然の回復している土地。
それがさっきまでいた場所だ。
南に進むごとに、徐々にだが荒地が出現してくる。
「不思議よね……植物たちに、どういう違いがあるのかしら」
「なかなか調べるのは難しいと思いますよ。私たちは学者ではないですから」
彼女の言う通りで、見た目にどうかぐらいしか判断できない。
それでも、人が暮らすのは不可能ではなさそうに見えて……難しい。
「そうね。それに、川が細いわ」
時折、大地を切り裂くように川がある。
けれど、それもしばらく滞在するならともかく、町を築くとなると厳しい大きさだ。
集落が大なり小なりなければ、人の行き来もない。
人の行き来がなければ、道も残らない……というわけだ。
「私たちがいたのも、こんな感じの人がいない場所だったわね」
「……はい」
草原をひた走る。
幸い、トラックの燃料はほぼ尽きる心配はない。
どうしてもの場合、JAMを起動して補充すればいいのだ。
「レーテ、もし……もしですよ? 私を作ったのが、悪の組織だったらどうします?」
「はい? 悪の組織? なにそれ」
突然すぎる問いかけだった。
でも、本人はいたってまじめな様子。
先ほどの言葉をよく考えてみると……ふむ。
「戦争に対して何かしようとしてたり、平和のためじゃない目的だったらってことかしら?」
「そうなりますね。何も、覚えてないというか、残ってないんですけど」
「んー、それを言っちゃうと私もそうだしね。潜入作戦や戦場へ乱入して、戦争を長引かせるデザイナーヒューマン!って正体かもよ?」
あえて、笑いながら言う。
結局、自分たちの生まれた理由が何であれ、それは今の自分を縛るものであってはならない。
好きに、生きるのだ。
「なんですか、それ。昔の映像の見過ぎですよ」
これまでに発掘したり、買い集めた映像……映画、とかかな?
そのあたりにありがちな設定だったようだ。
笑い出すカタリナは、悪い子には見えない、絶対にだ。
「大丈夫よ、大丈夫。それより、速度上げていきましょ。センサー出力拡大。岩に当たって止まりました、は嫌だし」
「わかりました。距離は稼ぎたいですね」
いつもの雰囲気に戻ったカタリナにうなずきつつ、ぐんっと増した加速のGに体をゆだねる。




