JAD-049「人の形である理由」
『そんな……あっさりと……』
動揺に満ちた声が響く。
事故の無いようにと、外部音声をオンにしての模擬戦。
開始直後、一人の黒騎士に突っ込み、人間同士のそれのようにいきなり蹴り飛ばしたのだ。
砂煙を上げて、見事に転がる一機。
「JAMの力は、どこからでも出せるわ。そう、指先、足先からでも」
「レーテぐらいだと思いますけどね……今のところ」
もとは、輸送用コンテナを動かすための動力、JAMはそれを使っている。
スラスターからだけでなく、コンテナ自体の強化にも力は使えるのだ。
であれば、JAMそのものを強化できても不思議ではない。
「獣やミュータントは、牙や爪、体に力を集めるでしょう? それと同じ」
そう告げてやれば、納得したのか構えなおす黒騎士たち。
刃をつぶした状態の鉄剣をこちらも構え、じりりと移動する。
ライフルも、出力は最低で装甲表面が少し溶けるぐらいだ。
ゲームの記憶では、立ち止まることはほとんどなかった対人。
感じることのなかった、敵意といったものをなぜかよく感じる。
「ふふ……」
「レーテ?」
「さあ、行くわよ!」
あえて優しく、そう叫ぶ。
本当の敵は合図なんて送らないし、躊躇だってしない。
かといって、一方的過ぎても鍛錬にはならないだろう。
「ただ剣を振るうだけじゃなく、しとめるつもりなのか、部位を狙うのか、ちゃんと意識っ!」
迫る剣をはじき、避け、重心のかかった足にライフル。
その衝撃だけで、相手は動きを止めてしまう。
そのことを指摘しつつ、3機のJAMを相手に立ち回る。
相手も、さすがにこの土地を守ってきた人たちだ。
徐々に、動きに対応してくるようになる。
「そろそろ交代ね……じゃあこれでっ!」
『うわあっ!』
『JAMが……投げられた!?』
そう、黒騎士の一機に近づいた私は、人の体でそうするように相手をつかみ、投げた。
これは、実際には回避できるはずの行動だ。
どうしても人の形をしたものに乗っているからか、ついつい体と同じようにバランスを考えてしまう。
結果、重心のかけ方などにもその特徴が出てしまうのだ。
「下半身がかつての戦車みたいなのとか、動物を模したJAMなんかもあっていいと思うわ」
『今後、試験採用してみますよ。よし、次の3人!』
私としても、対人戦の経験がつめて非常にいい時間になりそうだ。
見学の最中、色々と考えることがあったようで次の3機は動きが違った。
広場を駆け回り、戦いを続けていく。
何度目かの相手の入れ替え、こちらはそのまま続投。
途中、ちょっとだけ本気になったのは内緒である。
「心拍数上昇。大丈夫ですか?」
「今のところは、ね」
増援の見込めない中、戦う鍛錬にもなって一石二鳥かな?
それはそれとして……。
(何か……見える)
それは光、そして線。
相手のJAMが、ほのかに光っているのが見えた。
実際に、JAMを光らせることはできるがそれとは少し違う。
力の、流れ……だろうか?
『なんであれが避けられるんだよ!?』
「ひたすら戦ってれば、わかるようになるかもね」
経験上、こういうタイミングで撃ってくるだろうな、ということがわかるときがある。
それに合わせて、相手のJAMが光るのが見える。
「私が成長している……?」
外に聞こえない程度の小声。
自分の中にいつのまにか増えたパズルのピース。
それが、ぴたりとどこかにはまった気がした。
「さすがに連戦は疲れてきたから、一度終わらせましょうかっ」
そう告げ、この感覚を試すべくカタリナと目くばせ。
一番いい動きをしている黒騎士へと駆け寄り、鉄剣を投げつける。
『なっ!? 武器を捨て……なにぃ!』
「これがJAMの可能性よ!」
なぜか見える、力の光。
それが一番薄いところに、手刀を叩き込む。
もちろん、ただの手刀ではなく、石の力を注いだ光り輝く手刀だ。
熱したナイフでバターを斬るよりもあっさりと、腕が肩口で切り取られる。
ゲーム通りなら効率が悪いので、いざというときにしか使うつもりのない切り札の1つだ。
「こんなものかしらね……」
なんだかんだ、被弾しているので装甲も荒れている。
深呼吸をすれば、汗がどっと噴き出してきた。
「今まであんな動きはしたことがないはずですよ、レーテ」
「そうね……実際にできるかどうかって、試したのよ」
ゲームの中だった記憶……私が思い込んでるだけかもしれない記憶。
その中での攻撃を、再現したのだ。
コックピットから抜け出て、風に体が冷やされていくのを感じつつ、ぼんやりと山を見つめるのだった。




