JAD-004「宝石の力」
日間乗った記念に。
竜騎兵。
大体どこの子供でも知っているだろう、おとぎ話にも出てくる奴だ。
文明崩壊前の、最強の兵器。
ゲームプレイヤーが、最終的に入手を目指す武装、とも言い換えることができる。
事実、ゲームじゃなければあんなもの、下手に戦えば周辺の地形が変わる。
「この星が、こんなになった理由の1つだっていうあれでしょ? 嘘か本当か、海の向こうは一週間で焼かれたとか」
「そう、それさ。動力源も他とは違う。大きいものだと、10以上のジェネレータを抱えてたっていう」
問題は、そこだ。
私のブリリヤントハートも、ジェネレータは今のところは1つだ。
コアとなる宝石を再結晶化し、動力源にしている。
戦い方により、相性のいい宝石は大体決まっている。
ルビーなどなら、炎を放射したりすることができるようになるし、機体の出力も単純に上がる。
そんな代物を、10以上も抱えた兵器。
果たして本当に存在してたのか、そう疑う人がほとんどだ。
でも私は、知っている。それが本当にあった世界を。
「最終的にはそれが原因でパイロットも消耗したって話ね。それで?」
「ああ。先日、ジャンク品に記憶媒体があってね。古い、本当に古い奴だ。趣味で復元したところ、地図が出て来た」
続きを聞かずともピンとくる。
むしろ、これで予想が出来ないようじゃ、生きていけないだろう。
どちらかというと問題は…どうして?だ。
「なんで私に? 自分達だけで行くべきネタでしょうよ」
そう。本当に竜騎兵のネタだと信じているのなら、利益を減らす真似はしない。
逆に、信じてないのならこうして話に出すこともない。
「まあね。俺も本当に竜騎兵があるとは思っちゃいない。けど、もしもそのぐらい古いものだった場合に、お宝をお宝とわからないかもしれない」
「だからレーテを? この子、そういうのに詳しいですからね」
「知ってることしか知らないわよ」
実際、私の知っていることは、ゲームだったころの話だ。
細部どころか、前提が違ってきている可能性だって十分にある。
「それで充分さ。というわけで、一緒に採掘に行ってほしい。護衛依頼という形で、追加は出来高」
「じゃあ最初から機体でついていけばいいのね? 護衛以外で機体を出すことになったら、経費はそっち持ちよ?」
経費の確認をして、詳細に移る。
彼自身が言ったように、竜騎兵に当たるとは考えていない。
でも、ゲームの竜騎兵は、何度も見て来た。
そのジェネレータに、何色もの宝石が使われていることも知っている。
知識のある私でも、今は一石ずつが限界。
この世界での竜騎兵、そのデータが取れればブリリヤントハートも強化が……甘いか。
「しばらくゆっくりしてもよかったのだけど、お仕事があるなら仕方ないわね」
「レーテ、それ聞いたら怒る人たくさんいますよ?」
カタリナに言われずともわかっている。
日々の仕事にあぶれ、狩りでぎりぎりのジュエリストも多いのだ。
今のは、少しばかりの恨み言ってやつ。
(甘味が、恋しいなんてなあ……)
割り切ったつもりでも、まだ自分の中には前世…物に溢れた時代の記憶がある。
食事という点では、やはりどうにもしがたいものがある。
「じゃ、いきましょうか。そうそう、名前は?」
「カイン。よろしく頼むよ」
がっしりと握手し、微笑んで見せる。
それで顔が赤くなるんだから、買取相手……カインもまだ若い。
カタリナに言わせると、あざといとのことだけど、アナタも人外でしょうよと言いたい。
トラック2台と一緒に、教えられたポイントまで移動を始める。
私とカタリナは機体に乗ったままなのはしょうがないとして……。
なんと、カイン本人もついてくるというのだ。
「そりゃ、こっちに乗せるのも問題だけど、従業員が来ると思ったんだけどなあ」
「彼の中では、何かしら重要な物が見つかった時が怖いんでしょう。それより、ジェネレータはダイヤのままで?」
ほぼホバーのような移動のまま、頷きを返す。
この世界に降り立ってから、ずっと一緒のブリリヤントハート。
真っ白な中、金を中心としたカラーラインが入ったシャープな機体だ。
ジェネレータには、ダイヤを再結晶化した状態。
使う宝石により、機体の性能が変わってくる中、万能性のあるセッティング。
そして、コックピットには私しかいない。
カタリナは、機体の制御AIでもあるのだ。
出歩くための義体の姿も、こうして機体の中にいるのも、同じ彼女。
「何があるかわからないし、ルビーで一緒に吹き飛ばしたり、アクアマリンで水浸しもまずいでしょ」
「それもそうですね。ではこのままで」
ちらりと見るのは、宝石が多く収められたケース。
必要に応じて、ジェネレータの宝石を交換するのだ。
(理屈は未だにわからないけど、わかりやすくはあるのよね)
そんなことを考えながら、タンセからトラックで数日。
道から逸れると、すぐに岩山ばかりになってきた。
山の間を縫うように、ゆっくりめに進む。
『モニターにマーカーが出てる山が、地図のポイントだ』
「了解。警戒を始めるわ」
警戒をと言っても、ただの護衛、採掘なら警戒するぐらいしかない。
隠れ棲むのは獣ばかり。
そう……思っていたのだけど。
山間に、大きな音が響き渡る。
人ほどの大きさもある岩が転がる音。
そして、ブリリヤントハートたちがたてる音。
「人型ゴーレム4!」
「こっちに注目を集める! シュート!」
ポイントに近づいた私たちを待っていたのは、獣たち。
さらには、つい先日みたようなゴーレム体だった。
そこらにある岩を抱え、投げてきたのだ。
幸い、こちらの被害はコンテナが少しへこんだぐらい。
このままだと、それ以上の被害が出そうだけど、ね。
「着弾を確認! 反撃、来ます!」
原始的な投擲だけど、こう狭い場所だと厄介だ。
さらに、あまり上空に飛んではトラックを狙い始める可能性もある。
「カイン! ひきつけてる間に少し下がってくださいよ!」
『ああ。了解だ!』
カインのトラックが、ゴーレムの投擲から隠れられる場所まで移動したのを確認。
後は相手を片付けるのみ、なのだけど。
「弾丸は節約しましょうか。一気に決める!」
「了解。キーワード承認開始!」
宝石を、力とするジュエルアーマード。
引き出された力を、全身に専用の配線で分配され、動かしている。
逆に言えば、壊れてもオイルが噴き出すようなことはない。
そんな力を、攻撃に使う武装が、ライフル等で放つ光学兵器であり、ブレードだ。
ただし、それらは大体の人が問題なく使える出力。
限られた組み合わせのジュエルアーマードだけが使える武装も存在するのだ。
「光集い、敵を穿つ閃光となれ!」
かちりと、自分の中の何かと、機体とが重なった気がした。
お腹の中から湧きあがるような力、それは機体も同じだ。
腰に下げた専用のライフルを握り、前に突き出す。
砲身が上下に開き、根本付近に光が集まっていく。
「ダイヤの閃光、ジェーマレイ!」
わずかな反動を残し、巨木ほどの光線が放たれた。
それは周囲の岩山を白く染め上げ、固まっていた数体のゴーレムの内、一体に直撃。
「なぎ払う!」
そのまま、私は機体ごとひねり、残りのゴーレムも光線に巻き込んだ。
「ゴーレムの沈黙を確認。久しぶりに使いましたね」
「本当は目立ちたくないからねえ。ここなら、カインぐらいしかいないし」
機体をゴーレムがいた場所へと移動させる。
えぐられた岩肌、そしてゴーレムの残骸。
儲けることはできないけど、安全は買えた形だ。
「依頼主が戻ってきましたよ」
「ふふ、驚いてるかな」
何が起きたか、わけがわからないと反応するのか。
それとも、状況からそれなりに推測してくるのか。
少し楽しみになりながら、迎えるのだった。




