JAD-048「組織の表裏」
案内された先の食堂。
そこは、多くの人でにぎわっていた。
「なんだか、懐かしいわね」
「ラストピースも軍属の経験が?っと失礼。探るようなことをしてしまいました」
「気にしないで。雰囲気が、そんな感じだっただけよ」
デジャブ……という奴だろうか?
いろんな人が、思い思いに歓談している場所。
酒場とは違う、組織としての集団がなんだか……うーん。
(記憶がないのは、こういう時には不便よね)
気を取り直して、食事にする。
おすすめだというメニューは……肉野菜炒め?
何の肉だか書いてないのはどうかと思うけど、まあ悪くはなさそうだ。
すぐに出来上がったプレートを受け取り、食事を始める。
なんと、しっかりしたパンがついている。
「小麦とかは畑が別にあるのね」
「ええ、そうなんですよ。町の外になりますが、我々の土地となります」
「どうして……ああ、護衛もかねてなんですね」
不思議そうなカタリナの問いかけに、うなずく黒騎士の人。
農家、といっても外は獣たちがいる。
都度護衛を頼んでたのでは間に合わないわけで。
「本当は管理めいたことはしたくないんですが、そうでもしないと食料が危険ですからね」
なんとなく、町での黒騎士、その立ち位置などが見えてきた気がする。
詳しく知らなければ、食料を握って好きにしているように思えてしまうのだろう。
「水源維持に、土地の防衛……終わりがないわね」
「そうなんですよ。時折、ミュータントどもも集団で押し寄せてきますから。ああ、でも……」
ちらりと私とカタリナを見た後、相手はなぜか微笑んだ。
隠し事が、というよりは……。
「おかげさまで、あの空飛ぶ奴らも、近場の脅威も減りましたからね。しばらくぶりに、拡張ができますよ」
「今のうちに、ってことですね。私たち、畑仕事は向いてませんからね?」
けん制めいた発言をするカタリナ。
といっても、私たち……正確にはブリリヤントハートは色々できる。
結果的に土を掘り起こしたりといったことは簡単だ。
(下手にやれば、ずっと手伝う羽目になるからやらないけどね)
そうこうしてるうちに、出されたものはほとんど胃に収まる。
シンプルながら、満足いくものだったといえる。
これを守るためには、頑張らないとという感じはするだろうな。
「もし、お仕事をお探しなら外部の方に依頼したいことがあるんですけど」
「中身によるわね。あまり時間のかかるものはちょっと」
「土いじりも、ですね」
女三人集まればとはいうけれど(1人はアンドロイドだが)、その通りだ。
雑談を交えながら案内された先は、広場。
状況からして、練兵場……ってとこかしら?
「穴なんかは、逆にそのままにしてあります。見ての通り、JAMを動かして鍛錬するところです」
「十分な広さね。射撃をするには……ああ、あっちの山に向かってか」
コの字型で、そっちには壁がないといえばわかるだろうか。
実際、すでに何名かは鍛錬のためかJAMを動かしている。
ドラゴンと、その眷属を相手にした時にも思ったが、動きは悪くない。
悪くないけど……うん、そういうことか。
「格上相手に粘る、そういうことをしたいのね?」
「さすがですね。そこまで見抜きますか。ええ、その通りです。修理費用は持ちますので」
「事故がないように気を付けないとですね。じゃあこちらもトラックを……」
10分もしないうちに、こちらもトラックを呼び寄せ、黒騎士関係者も集まってくる。
やっぱり、こうして集まってみると同じ意匠というのは雰囲気があるなあ。
統一感というのか、つながりは強くなると感じる。
(だからこそ、か)
自然と、鍛錬時もなかなか仲間意識が抜けないのだろう。
良い競争相手、が関の山かな。
「何人相手で、どこまでやっていいの?」
「再起可能であれば、なんでも、何人でも」
そんな言葉に、副隊長!?と叫び。
どうやら応対してくれたのはそういう立場の人だったようだ。
「隊長が離れている現状、我々はより強く、より守る力を得ないといけない。皆もわかっているでしょう?」
静かな声に諭され、動揺の声が静まっていく。
統率は、基本的にはとれているようだ。
「最初は3人……から増やすか減らすかしましょう」
1対1から、とは言わない。
そのことが相手のプライドを刺激するのをわかったうえで。
「レーテも、優しいですね」
「別に……実際には気分が整うのを待ってくれないのが世の中だもの。最初から気合入れてもらわないとね」
ブリリヤントハートを起動させつつ、そんな会話。
トラックを隅に寄せ、3機並ぶ姿に自然と笑みが浮かぶ。
「私のことは、JAMを使って好き勝手するミュータントだと思いなさい」
それだけを告げ、開始の合図を待たずに正面につっこむのだった。




