JAD-045「心の隙間を撃て」
「機械音を感知!」
「JAMを起動、迎え撃つ!」
もうすぐ夜明け。
多く生き物がまだ眠っているころだ。
そんな時間の異常……早めに起きていた私たちは、それを感じ取った。
「夜討ち朝駆けはどこの世界も基本よね!」
「相手にそんな知能が!?」
トラックはオートで下がらせ、機体にはカタリナも搭乗。
あえてブリリヤントハートの全身から、余剰動力を光源として放つ。
薄暗い明け方の闇に、人型がくっきりと浮かんだことだろう。
遠くの暗闇から、何かの発射光。
「周囲に呼びかけ! 亡霊が出たと!」
「了解! 反応増加、これは……相手は10機を超えています」
「10? あの人、良く生きて帰ってきたわね……」
よっぽど運が良かったのか、腕も良かったのか。
荒野を滑らせるように進むと、銃弾が後を追いかけてくる。
「動力交換、ペリドットからサファイア……イエローで」
「了解。ダイヤはそのまま、サブをイエローサファイアに入れ替えます」
相手はまだ暗闇の中。
発砲の光から、大体の場所はわかるけどそれぐらい。
ジェネレータに、黄色い石が滑り込む。
サファイアはサファイアでも、黄色いほうのサファイアが。
宝石にも、決まった色だけのものと、複数の色が存在するものがある。
その場合、色によって引き出せる力も違ってくるのだ。
「変換完了」
「おっけー! 照明弾……ばらまくわ!」
構えさせたライフルから、光弾。
マシンガンのように連続して放たれたそれが周囲をスタジアムのように照らし出す。
「スキャン開始! 私の記憶が間違ってなければ、だいぶ古そうだけど!?」
「実際、古そうですよ。改良がされてますけど、ベースは崩壊前の量産機です!」
黒い海のような荒地を動く、機械たち。
見た目は明らかにJAM、ただし……なるほど、これは無人だ。
ジュエリストだからこそ感じる、おそらくは石、星の力の波動。
そこに、自分たちのような心がない。
「宇宙でのコンテナと一緒か……」
「攻撃、来ます!」
考えている間に、相手もこちらを認識したようだ。
実弾、あるいは光線が飛んでくる。
「古いといっても当たりたくはないわねっ!」
テンポよく回避していると、背後からの発砲。
ほかでもない、ついてきていた私たち以外の人間だ。
すぐに乱戦が始まっていく。
ついてきただけあって、覚悟ができている人間のようだ。
危なげなく戦いが動いていく。
「種がわかれば、こんなものかしら」
「不意を打たれたら、危険でしたね」
「ええ、まったくね。こうしてると思い出すわね……研究施設の制圧の時も、こんな風に……」
頭をよぎるのは、ゲーム(だと私は思っている)の記憶にあるクエスト。
無人機が守る施設を制圧し、報酬を得るというある意味単純なもの。
そういえば、あの時も結構苦労したんだっけ。
なぜかといえば……。
「周辺を広域サーチ! 伏兵がいるわ!」
「っ! いました! 北に1㎞!」
「そこっ!」
ライフルの動力をダイヤに切り替え、照明弾の灯りをさらに切り裂くような光線。
それはこちらの男たちに迫っていた弾丸を溶かすように進み、遠くに着弾した。
「人が死ぬのは、油断、心の隙間ができた時……」
「危うく撃たれるところでしたね」
「本当だわ……でも、この感じ……おかしい」
居場所がばれたためか、スナイパーとして潜んでいたJAMが立ち上がる。
整備されていないのか、むき出しになったコックピットには……人?
「スキャン完了。いいえ、レーテ。あれは私のようなものです」
「カタリナの? ということは……」
拡大された映像にはっとする。
古ぼけ、あちこちが傷む人の姿。
古い時代のアンドロイド。
その今にも壊れそうな口が紡ぐのは、どんな言葉だろうか?
「どうして目覚めたのかはわからないけど……」
あえて、機体に隙を作る。
それを罠と判断する能力も失われたのだろう。
相手は吸い込まれるように動きを変え……私はカウンターを決める。
「アンドロイドにも心はある……だから、隙間を撃たせてもらったわ」
「レーテ……」
少し離れた場所で、戦いの音が終わる。
モニターで見る限りは、人間の勝利だ。
「さて、あっちはあっちで報酬の話をして、そのあとは……ま、どうにかしましょ」
朝日が大地を染めるころ、地面に伸びる影に、どこか心揺れる私だった。




