JAD-043「聞こえない声」
「貴方があの施設の関係者、その子孫かどうかはわからないけど……」
町に戻った私たちは、その足で酒場へ。
事前に決めておいた報告をして、夢は夢だったということにした。
一応、お墓の場所を聞いてお墓参りといったところだ。
買っておいたお酒を、墓石代わりの石碑にかける。
そこに、名前は特に刻まれていない。
祈りの言葉が、あるだけだ。
「土地が限られているから、火葬しきってしまうんですって」
「墓石も、まとめてだものね」
外が危険な世界。
人が暮らせる土地はそう広くない。
ずらっと墓石や墓標を並べるほど余裕はないのだろう。
合理的……といえば聞こえはいいのかな?
墓参りができるだけ……さて、私には親がいたんだろうか?
こうしてどこかに眠る親を、訪ねたことはあるのだろうか?
「……行きましょう」
「私は最後まで一緒にいますよ」
多くは口にせず、そっと手を握ってくれるカタリナ。
彼女の手を、排熱が体温のように暖かいその手を握り返しつつ、歩く。
人間だろうと思いたいけど、詳細が不明な自分。
人間ではないとわかっていて、どこか人間らしさが際立つカタリナ。
滑稽な姿だろうか? それとも……。
「少し、のんびりしますか?」
「どうかしらね。いい話があれば、出向きたいところよ」
しゃべりながら酒場につく頃には、元気が出てきた。
いつものように、私が半歩先。
後ろにカタリナの気配を感じつつ、だ。
相変わらずの喧噪。
その中を進めば、いくつかの視線が絡んでくる。
私がどんな人間か、知っている視線だ。
「よう。墓参りは終わったかい」
「ええ、問題なく。何かネタはある?」
「そうさな……今のところはでかいネタは……ん?」
適当に注文しつつ、話を聞き始めてすぐ。
入口付近が騒がしくなった。
「誰か駆け込んできたみたいですよ」
「ふーん……って、ずいぶん焦った感じね」
飛び込んできたらしい人は、全力疾走してきたとばかりの姿。
知り合いであろう男から、水を受け取っている。
何やらしゃべりだすと、周りがさらに騒がしくなる。
「JAMの群れに出会ったとか言ってるみたいですけど」
「群れ? 変な表現ね。マスター、一杯頂戴。おごってくるわ」
「あんたも好きだねえ」
こんな世界で……こんな世界だからこそ、お酒は重要。
グラスにぬるい蒸留酒を蓄えて、騒ぎのもとへと歩いていく。
「だからー、無人機だったんだって!」
「うそこけ。なんでわかるんだよ」
「ちょっといいかしら? これでも飲んで、話を聞かせて頂戴」
「お、おう……ぷはー……あんた……JAM乗りか。えっとだな、外で探索をしていたらよ、出会ったんだよ。JAMの集団に。整備はろくにされてない感じだったから逃げられたけどよ?」
アルコールが、のどを滑りよくさせたようだ。
椅子にどかっと座り、語り始めた内容。
それは、驚きのものだ。
荒野を、無人のJAM……その群れが徘徊していたというのだ。
JAM、ジュエルアーマードが複数あるのは十分考えられる。
この町も、そろえているからだ。
問題は……。
「最初は残骸が残ってるって喜んで、近づいていったら撃ってきてよ。せっかくのJAMが片腕吹き飛んじまった。修理代がかかるぜ……。武器の1つでもひろえりゃ、儲けになったかもしれないけどよ」
「ご愁傷様、ね。ってことは北西方面なのね。どうして無人だってわかったの? あれ、誰かが乗って動力を引き出さないとだめでしょう」
「ああ、俺もそれは知ってる……知ってるんだが……なぜだか、人が乗っていないって感じたんだ」
(人が、乗っていないと……感じた?)
嘘を言っているようには見えないというか、嘘をつく必要がない。
であれば、本当のことだと仮定して話を組み立てる必要がある。
「なるほどね。ありがと。参考までにだけど、どんな印象だった?」
「印象? うーん……そうだなあ、軍隊……規律ある集団って感じだったな」
酒場の喧噪の中、その一言は不思議と鮮明に聞こえた気がした。




