JAD-036「生き物に習え」
「これでしばらくは、襲われることもないでしょうね」
「こんなにたくさん、近くに住んでたんですね……」
機体を降り、見つめる先では回収されていくミュータントや獣たち。
そのほとんどは、全身を材料や食料にされる。
文明崩壊前の工業と、自然の恵みを利用するものとが混在するのが、今だ。
今の技術では作れない構造の物が、獣たちの何かで代用できることもある。
「こちらでしたか」
「町長さん、町の被害はどうですか」
壁なんかはさすがに痛みがあるみたいだけど、撃破された機体は無かった様子。
色々ありそうだけど、自治組織の面目躍如、かな?
それにしても、黒騎士というのは少々どうかと思うけども。
「ええ、おかげさまで。そうでした。空飛ぶトカゲたちの、素材分配の立ち合いをと思いまして」
「分配? ああ、なるほど……わかったわ」
案内を受けながら、仕分けのために集められた場所へと向かう。
慣れたと言っても、やっぱりあまり気持ちのいい光景とは言えない。
むせかえるような、獣とその死体としての匂いだ。
「どうも、これらは翼と牙の一部が宝石質になっているようでしてね」
「でしょうね。でなければあんな行動、出来ないでしょう。火を噴くのよ、とんでもないわ」
いちいち指摘するの面倒だけど、そもそも空を飛べること自体がおかしい。
鳥と比べれば、その筋肉量は明らかに少ないのだ。
行動のために石で星の力を引き出す必要がある。
それはまるで、生きたJAMのようで……気にしすぎだろうか?
「細かいのは1割も貰えればいいわ。問題はあのでかいのよね」
「体は真っ二つに綺麗に分かれていますが、肝心の部分は無事でした」
それは運がいい、と言っていいのだろう。
咄嗟の斬撃だったけど、生身の部分だけを切り裂いたらしい。
トラックの荷台に乗せられた巨体へと、ミニドラゴンたちの脇を抜けて……。
「うわああ!?」
「生きてる奴がいたぞ!」
すぐそばで、叫び。
視界には、血まみれになりながらも暴れ始めたミニドラゴン。
当然、周囲の人間は生身のままで……ええいっ!
「どきなさいっ!」
気合一閃、腰に下げた金属筒を手に駆け寄る。
SFにありそうな光の刃、スターエンゲージソードがミニドラゴンの首に吸い込まれ、切断。
焼き切る、というのが正しい武装なので血も出てこない。
そのまま、重い物が落ちる音がする。
「次からは、とどめを確かめてからにすることね」
「あ、ああ……」
ひらひらと手をふって、カタリナの元に戻ると……抱き付かれた。
驚いて彼女を見ると、少し震えている。
「無茶はしないでください……レーテ」
「まあ、気を付けるわ」
生身で大きなミュータントと戦うのはなかなか厳しい話だ。
だからこそ、早く対処したかったけれど、それはそれ、かしらね。
人間を相手にするように撫でてなだめつつ、肝心のドラゴンの元へ。
「鱗がそのまま使えそうな感じね……後は……」
「レーテ、あれ……」
横にくっついたままのカタリナ、彼女が指さす先はドラゴンの心臓だ。
そこに、何か小石のようなものが……近づくと、小石というのは間違いだと気が付く。
原石の時点で透明度がとんでもないうえ、かなりの輝きだ。
「宝石ね……原石のようだけど」
生き物の体にあったのだ、当然カットされているはずもない。
近づき、良く確かめると……力を感じる。
(この感じ、なかなかね)
「それは、まさか……ダイヤですかな?」
「輝きはいいけど、ジルコンでしょうね」
青く、まばゆい輝き。
上手くカットしていけば、相当なものになるだろう。
元の……記憶にある世界でも、この世界でも、ダイヤの代用品としてよく使われる。
力がよく似ているのだけど、価値は大きく違う。
「こっちの報酬はこれでいいわ。素材ばかりもらっても使い道はないし……ね」
「確かに、補修部品としてストックするのにも限界がありますからね」
私たちのトラック、その余裕を考えると修理は町でその時その時の方が都合がいい。
もちろん、万一を考えて予備をストックしておく必要もあるけれど。
「何から何まで、さすがラストピースですな」
「そうでもないわ。余裕がなければ、本命を掴むこともできないからよ」
ごまかしながら、ドラゴンの心臓からジルコンの原石を切り取る。
町に上手くカットできる人がいると話が早いけれど……どうかしらね。
その後は、具体的な分配量の確認にうつり、解散となった。
「どうします、旅立ちのほうは」
「それよね。どうにも……まだここにいた方が面白い気はするのよね」
運命めいた色んな流れ。
期日の特にない旅だし、予定変更は自分が決めればいい。
「あ、お姉さん!」
「やっほ。やっぱり、今日も泊まれるかしら」
もう馴染みと言っていいような宿の前に乗り付ければ、元気な声。
聞いてくる!と駆けだす姿に思わず笑みが浮かぶ。
お別れといいながら、またしばらく滞在することに決めたのは、ちょっと格好がつかないけど。
「元気ですね……」
「子供はあのぐらいが一番よ、本当に」
手のひらで原石を転がしながら、心の底からそう答える私だった。




