表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/278

JAD-034「竜には竜を」



 霧の日に、人間を誘拐するという子供を脅かす話がこの土地にはあった。

 大人の嘘だろうと思っていたけれど、実在したのだ。


 その正体は、かつての人間の罪。

 遺伝子操作による異形の生物、それが環境汚染等でさらなる変化を遂げたものだった。


─ 空飛ぶ異形……通称ドラゴン


 それが、私の遭遇した相手だったわけだ。

 なんとか撃退したお礼を、と町長に呼ばれているのが現状。


「まずは、街を守っていただきありがとうございます」


「成り行きよ。それに、追い返しただけで狩れたわけではないわ」


 ドラゴンからの攻撃による衝撃、その重さを思い出せば、運がよかった。

 当たり所が悪ければ、かなりの苦戦をしていただろう。


 この場にいないカタリナには、トラックの管理と、機体の整備をお願いしている。

 とはいえ、ブリリヤントハートを直すなら、ある意味なんでもいいのだが。


「私どもでもよくある話です。この土地は自然にあふれ……そう、あいつらもたくさんいます」


「遺跡レベルの施設を中心に、防衛の集落を作って何とか、というわけね」


 城壁のような壁があるのはただのカッコツケではないわけか……。

 やっぱり、復興して来てるように見えて、実際の生活はタンセとどっこいどっこい、と。


 人間が生き抜くには、どちらも厳しい環境なのだ。


「修理が終われば、旅立たれるのですかな?」


「そのつもりだけど……可能なら、あの1匹ぐらいは仕留めておきたいわね」


 そう言いながら、嫌でもそうなるだろうと感じる。

 あのドラゴンには、頭の良さを感じた……そう、私をちゃんと認識していたと思う。

 手負いの獣、というわけだ。


(ここから去って、街が代わりに襲われるのも少し、ね)


「そうですか……経験上、後数日するとまた霧の日がやってきます」


「そういうことね。ええ、間に合わせるわ。別に討伐依頼として受けるつもりはないから」


 儲けは欲しい。けれど、しがらみはいらない。

 いざとなれば、発掘品なんかを売り払えばいいだけのことだ。


「では情報ぐらいは受け取っていただきたい。北西に真っすぐ進むのだけはおやめなさい。かつての戦場跡に、今も動く影があると言います」


「ありがとう、よく考えるわ」


 その後はこまごまとした話をし、カタリナの元に戻ることにした。

 ライフルの回収は……確か出来たと思うけど、落下してるから曲がってるかな?


 整備工場に送ってくれるというので、お言葉に甘えて軽トラックのような車両で工場へ。

 見覚えのあるトラックが泊っているのを見つつ、中へと入る。


「ああ、レーテ。ちょうど相談したいことが」


「何? 問題が起きた……それ、ドラゴンの足よね」


 修理を待つ状態のブリリヤントハート、そして機材たち。

 そんな中の1つに、私が切り取ったドラゴンの足らしきものがある。


「おう、こいつを嬢ちゃんが? やるねえ、若そうなのに」


「なんとかね。ええっと、これが使えそうってこと?」


 近づくとその異常さがよくわかる。

 形は生物だけど、見た目はJAMと同じような光沢だ。

 それも、戦闘用の装甲材と同等のもの。


「そのままだと微妙ですね。でも……材料としてはいけます」


「後は乗り手が、そういうのを嫌かどうかだけだ」


「ふむ……これがねえ……」


 悩むふりをしながら、鱗のように見える1枚の板切れを手にする。

 実のところ、ゲームとしての記憶でいうと……アリ、だ。

 全身をそういう素材で硬め、生物もどきな格好の機体もあった覚えがある。


 この世界でも、その通りにデメリットがほぼないか、が問題だろうか?

 とはいえ、やらないとわからない。


「いいわ。やりましょう」


「任せときな。すぐ終わらせるからよ」


 言うが早いか、周囲に指示が飛び、作業が始まる。

 変な料金を請求されなければいいのだけど……。


「今の、親方さんなんですけどね。昔、親戚がさらわれたそうで」


「復讐代わり……か。まあ、勝手にやるだけだわ」


 機体は任せるとして、ライフルの具合はどうか。

 トラックの荷台に回収されているというので、見に行く。


 人間から見ると、製材前の丸太のような大きさだ。

 幸い、目視でわかるようなゆがみはないようだ。


「腕が直ったら、一回持たせてみないとね……」


「武装も、予備を考えておかないといけませんね」


「問題は、出物があるか……なければ、取りに行くしかないか」


 頭に浮かぶのは、町長が言っていた戦場跡。

 整備をしないといけない物ばかりだろうけど、そうじゃない物もあり得る。

 戦線への補給物資、あるいは移動式の整備工場。


 まるで発掘をする気分だけど、それも悪くない。

 まあ、まずはドラゴンの相手が先決、か。


「霧の日まで、大人しくしてようかしら……」


 つぶやきは、工場の喧騒に消えていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ