JAD-031「盾であり刃であること」
「遠距離持ちは援護を絶やさないで! 盾持ちはとにかく並ぶ、隙間を作らない!」
その日、まるでゲームプレイの時のように、ひたすら叫ぶ私がいた。
不幸な黒騎士たちとの出会いの後、ひとまずの解決となった発掘仕事。
売る物を売り、いくつかの仕事をこなし、懐も温かい。
宿の子を遊びに連れていくぐらいは、長く滞在している状態だ。
「外に出払ってる奴の救出? そっちでやりなさいよ!」
「レーテ、敵増援確認」
このまま、しばらくは稼げるかなと思った時のことだ。
街から遠い、緑がてっぺんに無い山が……火を噴いた。
火山だったのだ。
それから数日、街をミュータントや獣が襲い始めた。
噴火からの退避と、縄張りの変化が原因だ。
黒騎士たちは、言うだけはあって連携した動きをすぐに開始した。
それでも、彼らへの反発を抱えている面々もいるわけで。
「私が一発入れる。後は任せるわ」
『了解した、ラストピース』
かといって、何もせずに街がどうにかなるのを眺めてるのも問題。
そんな状況で、私は例のごとく飛び出し、戦い始めた。
そのついでに、煽ったのだ。
守られ、立ちすくんでるだけかしら?と。
そうなれば、売り言葉に買い言葉。
気が付けば、私の事を知っているジュエリストを仲介に、集団が出来上がっていた。
「数は減っている……なんとかなる」
ピークは過ぎただろうという感じがある。
街に近づく獣、ミュータント、どちらも少しずつ減っているからだ。
あちこちに、倒れた獣たちがいるのは、少々問題になるかもしれないけどね。
『デカブツが来た!』
「もうあれ、岩山でしょ……」
周囲が騒がしくなり、鉱脈が刺激されたのか、天然ゴーレムのお出ましだ。
ざっくり、ブリリヤントハート数機分はありそうだ。
こちらより大きな、まさに巨人。
と、そんな巨人が左腕を真っすぐこちらに……まさか!
「避け……駄目、街がある。ええい、ダイヤモンド、ダブル!」
「貴石変換開始、完了!」
ジェネレータから、ダイヤとペリドットにしていたのをもう1つのダイヤと入れ替える。
ダイヤモンドは、石の中でも力の強いタイプだ。
2つを同時に扱える機体は、恐らくごく少数。
(目立つのは……今さらよね!)
構えたライフルの先が、上下に開き準備が始まる。
ブリリヤントハートのあちこちから、余剰の光が輝きとなっているのがわかった。
「光集い、敵を穿つ閃光となれ!」
宝石を、力とするジュエルアーマード。
引き出された力は全身に専用の配線で分配され、非常にクリーンなエネルギーだ。
逆に言えば、壊れてもオイルが噴き出すようなことはない。
その力を、攻撃として放つ、必殺技。
「ダイヤの閃光、ジェーマレイ!」
ロボアニメで見るような、光の暴力が突き進む。
それは飛んできたゴーレムの腕に突き刺さり、砕き、溶かしていく。
「まだまだぁ!」
放出したまま、両手で構えたライフルを動かし、光で薙ぎ払う。
巨大ゴーレムは、体を斜めに切り取られ、瓦礫となって倒れ込んでいった。
「なんとか……なったかな」
さすがに全身を脱力感が襲う。
気絶するようなことはないけど、戦闘は出来ればしたくない。
そのままゆっくりと下がり、後は支援に徹することにした。
「戦闘の終結を確認。ミュータントたちが、散っていきますよ」
「もう、赤字も赤字だわ!」
『違いない。でも、今日は奢るぜ、ラストピース!』
八つ当たり気味に叫べば、まだ無線は繋げたままだった同業者から声が返ってきた。
機体に、それらしい挨拶をさせれば向こうも盛り上がる。
安全確認もかねて、肉の確保に向かう人もいるだろうけど、私は先に戻ることにした。
馴染みとなった宿に到着し、いつものようにお出迎え。
突撃してくるあの子を、受け止めるまでがお約束だ。
「お帰りなさい!」
「ただいま。良い子にしてたかしら?」
こちらも怪我はないか?なんて聞かれたら、笑顔の1つも浮かぶというものだ。
やっぱり、子供は笑顔がいいと思う。
こんな世界だし、いつどこに不幸が転がっているかわからないからだ。
今日は早めに休もうか、そんなことを考えながら宿に向かう。
宿の主人からサービスと珈琲を受け取り、味わっていると来客。
泊りの客ではなさそうだった。
なぜなら、私を見つけるや近づいてきたからだ。
「フリーのジュエリスト、ラストピースは君のことで間違いないだろうか?」
「違うって言って見逃してくれるの? ま、お話は伺いしましょ」
泊り客が打ち合わせをすることも想定されているホールで、相手の話を聞くことにした。
顔は見たことはないけど、どうもどこかで会ったような気がしたからだった。




