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JAD-029「欲望の釜・前」



「石は……フローライトでいいか」


「売っておいてなんだけどよ、本当に動かせ……おう」


 店じまいをした男、エドガーと一緒に修理を頼んだ工房へ。

 試し撃ちをしたりする場所もあるので、ちょうどいいと思ったのだ。


(間違いない、ゲームでもロマン武器だった生身の白兵戦用だわ)


 エドガーは言うまでもなく、カタリナも目の前の光景に驚いているみたいだった。

 私の手の中で、20センチほどの筒からまばゆい光の刃が伸びているのだ。


「星の力との結合、放射能もない、完全にクリーンなエネルギーによる武装」


 通称スターエンゲージソード、とあるタイプの武装のプロトタイプでもある。

 答えは簡単、人が使える物をJAMでも使いたい、そんな技術者がいたのだ。

 元の技術は、この前拾ったアレとほぼ一緒。


「良く知ってるな」


「簡単よ、JAMのも持ってるから」


 は?と声をあげるエドガーの前で、パステルカラーの刃を振り回す。

 音があれば、記憶の隅にある映画のようだった。

 ターゲットに使うだろうガラクタに斬りつけると、思ったよりあっさりと両断できた。


「いい調子。どこで拾ったの?」


「レーテ、それ発掘品なのですか?」


 データベースに無かったらしいカタリナに頷き返す。

 これもまた、大崩壊前後に作られた、古代の武器だ。

 化石燃料なんかが使えず、電気が怪しい時代を踏まえての物なのだろう。


「そこまで知ってるんじゃ……俺のカンは正解だったな。そこそこで終わろうと思ったけど、全部話す」


 工房の作業音が内緒話をかき消す中、エドガーから話を聞くのだった。


 街の状況、黒騎士たちの動向、そして周囲の火種具合。

 一番興味を引かれたのは、大崩壊前の工場なんかがそのまま埋もれている可能性がある区画の話。

 言葉通り、発掘作業が必要になるようだ。


「騎士様方は、未踏破地域も含めて自分たちが継承者だ!とか言ってるけどな。そんなの、まともに信じてるのは一部だけさ」


「だから、他の土地からもちょっかいがくる、と。面倒な話ね」


「レーテ、顔が笑ってますよ? もう……」


 どちらかというと、平穏が好きなカタリナ。

 私は……どっちだろう? 騒がしい方が好きなのかな?

 ちょっと違うかもしれない。


 イベントがあったほうが、目的が転がり込んでくるかも、だからかな。


「で、だ。本命の場所はともかく、周囲は騎士たちも文句は言えない。そこまでやったら、苦情たっぷり、動けなくなるからな」


「そりゃそうよね、私みたいなジュエリストを含め、開拓・発掘する人が減ればそれだけじり貧なのだもの」


 予想される利益は確保したいが、総ざらいは無理なところ、か。

 正義を前に出しておきながら、なんとも生々しい話である。


「話はわかったわ。修理が今日で終わるから……朝一でご一緒しましょ」


「へへっ、ありがたい」


 連絡先を交換し合い、エドガーとは一度別れる。

 と言っても、宿がどこであるか程度なのだけど。


 その後は適当に時間を潰し、機体を受け取って宿に戻った。

 再びの料理を味わいつつ、翌日。


 約束の場所に向かうと、エドガーも小さいながらトラックでやってきていた。


「それが貴方の?」


「ああ。ちょいと古いが、丈夫な足さ」


 彼の視線は、こちらの機体に向いている。

 トラックの荷台で後ろを向かせて座らせた状態。

 こうしてみると、JAMはやはり巨大兵器だなあと思うのだった。


「期待してるぜ」


「ま、やれるだけはやるわ」


 言外に色々な言葉を織り交ぜ、互いに一言告げる。

 なかなかどうして、ちょっと短気なところもあるようだけど、悪い奴ではないらしい。


「レーテ、見てください」


「え? ふむ……おでかけ、か」


「最近、多いんだよな。境界線で小競り合いも頻発してるらしい」


 視線の先で、騎士風のJAMが数機、どこかへと出ていった。

 エドガーの話の通りなら、人同士の争い。


「争ってる場合じゃ、ないのにね」


 エドガーの返事はなく、私も答えを待たずに機体へと乗り込む。

 トラックはカタリナに任せて、出発だ。


 向かうは山脈、以前は平地だったらしい場所だ。

 道がほとんどないようで、下草をなぎ倒しながら進む。


「話のわりに、出入りがないようだけど?」


『新規ルートだからな。何も出ないかもしれないし、でかいのが出るかもしれない』


 近距離無線から、そんな答えが返ってきた。

 少し話が違うと言えばそれまでだけど、望むところだ。


(最初は、無難なところでお茶を濁すつもりだったらしいものね)


 恐らく、今から向かう場所はエドガーにとっても賭けなのだ。

 その上、初めての私たちを、そこに同行させる。

 だます前提か、案外人がいいのか……さて?


『金属反応多数。でもほとんど鉄くずみたいです』


「この辺に大崩壊前の何かがあったのは間違いないのかしらね」


 カタリナの報告に、周囲を見渡せば自然の風景。

 しかし、よく見るとたまに鉄骨めいたものが突き出ている。

 荒れた場所が、自然に飲み込まれ、隆起や陥没の果てに……か。


 そのまま道なき道を進むこと数日。

 たまの獣を追い払いつつ、たどり着いた場所は小高い丘のように見えた。


『ここだ。地図によれば昔このあたりに……』


「上手い考えね。上下には変化しても、横移動は余りないものね」


 一応防護服のようなものを着こんでいるエドガー。

 私も万一に備え、荷台から機体を降ろす。

 カタリナも念のため、トラックからこっちへ移動してもらった。


 周囲の木の高さは、機体の半分ぐらい。

 どこからか、鳥の声もする大自然の中に私たちはいる。


「ひとまず、視界確保のために少し草刈りするわよ?」


『了解した。頼む』


 すぐそこに森があるというのは、色々と落ち着かない。

 自然破壊をするつもりはないけど、少し材木としても頂こう。


「今日はペリドットでいくわ」


「わかりました。貴石変換……完了。どうぞ」


 輝く、緑色の宝石。

 黄緑に近いその石は、風の刃や雷に相性がいい。

 電源として雷を操ることは出来なかったようだけど……。


「さて、始めますか!」


 風の刃を産み出し、周囲の木々をちょっとだけ切り倒し始めるのだった。




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