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JAD-002「荒野の掟と抜け道」



 砂嵐に遭遇し、その後に不幸にもゴーレムに襲われた商人の親子。

 偶然にも彼らを助けることになった私は、目的地は同じということで護衛を買って出た。


「街の名前はタンセ……この地域でも大き目の場所でしたね」


「うん。大体の物は揃うし、仕事も多い……その分、危険も多いわけだけど」


 愛機であるブリリヤントハートをトラックの荷台に戻し、私は運転席に。

 一応、全部カタリナに任せることもできるのだけど、手持ち無沙汰は回避したい。


「そういえば、ゴーレムどうだった? 私の見立てだと、単価はなかなかよさそうだけど」


「相変わらずの目利きですね。そんな感じだと思いますよ。まるで、元はインゴットだったような」


 数秒の沈黙。


 トラックの走行音と、砂を巻き上げる音だけが聞こえた。


「一応、言っておこうかしらね。知り合った相手が、変なことに巻き込まれるのは後味が悪いわ」


「レーテは優しいですね。だから、噂になるんですよ」


 カタリナからは、反論できない言葉が飛んでくる。

 自分自身の安全が確保できているのなら、言い換えれば余裕があるとようやく人に気を使えるのだ。


 その点、私はどうしても……元の自分の性格が出る。

 記憶にあるゲームでも、おせっかいが好きだった私。

 自然とソロ活動が多くなり、実力も求められる。


 かといって、見返りが欲しくてやるわけでもなく、完全な自己満足だ。

 この世界に生まれ落ちて、自分に何ができるかを把握してからもそれは変わらない。


「不利となれば、依頼の破棄は良くある話らしいですけどね」


「こなせるなら、それでいい」


 どうにも、恥ずかしい方向に話が進みそうなので話題を変えようとする。

 が、ちょうど街が小さく見えて来た。


「テステス。こちらレーテ、聞こえますか」


『ええ、聞こえます』


 すぐ横を走る、商人のトラックとの無線連絡。

 さすがに砂煙がひどいので、窓は開けられない。


「一応後ろを警戒しながら行くので、お先にどうぞ」


 こういう時、一番危ないのは街に入る少し前だ。

 もうすぐ街の防衛戦力の勢力に入る距離。


(街から離れたら管轄外っていうのも、割り切りすぎだと思うんだけどなあ)


 いわゆる崩壊世界とでも呼ぶべき現状だけど、警察組織、軍はある。

 それらは街を統治し、ひいては地域、星を管轄にしている。

 けれども、星は広く、危険も多い。


 基本的には、街の外壁内と周囲だけがある種の安全地帯なのだ。

 さすがに城壁の周囲、つまりは前方には隠れる場所がないので…。


 何かあるなら、通り過ぎようとしているこのあたりに隠れている。


「カタリナ、運転よろしく」


「え? ああ、わかりました」


 まっすぐ進むだけの状況を確認し、私は再び荷台へと移動する。

 戦いの後、ジェネレータは落としていない。

 ブリリヤントハートは、まだ稼働しているのだ。


 こんなこともあろうかと、荷台にうつ伏せにさせている。

 まるでスナイパースタイルだ。


 脇腹にあたるところから乗り込み、機体の姿勢はそのままで、機体を操作する。

 幌がかぶさり、外からは何かがあるとしか見えない。

 モニターに投影される、周囲の光景。


 さすがに緑が増え、覚えている言葉でいうとサバンナに近い景色。

 それでも、隠れられそうな林や、岩山は点在している。

 そんな中の1つに……。


「レーテ、北西300」


「見えたわ。何かある……認識信号無し、少なくとも警察でも軍でもないわね」


 ゴーレムを撃ったものとは違う、実体弾のライフルトリガーに手をかけ、悩む。

 先手必勝とは言うものの、まだ向こうは何かしたわけじゃない。

 と、望遠で覗き込んでいた視界に、動く物が追加。


「運がいいのか悪いのか…良い物見つけたわ」


 それは、街の家畜を襲うことがある狼型の獣だった。

 大きさは、成人男性程とかなりのもの。

 少なくとも、生身では相対したくない。


 ということで……狼を背後の岩場ごと撃った。

 一発だけの音が思ったよりも響き、狙い通りに狼と、何者かが隠れている岩場を砕く。

 隠れていた何者かは、慌てたことだろう。


「これで何か言われても、狼駆除ですが何か?って話よ」


「人間って悪い事考えるなー」


 呆れたようなカタリナの声に笑いつつ、私たちはそのまま街へと向かう。

 大よそ、30メートルはあろうかという防壁。

 けれど、ジュエルアーマードにしてみれば、そう高いとは言えない。


「助かりました。ありがとうございます」


「偶然ですから。あまりお気にせず」


 無事にたどり着けたことに、喜びをあらわにする商人と握手を交わす。

 そうしてる間にも、周囲の喧騒が耳に届いてくる。


 私も、商人たちも街全体で考えれば、特別じゃあないのだ。

 たくさんある人生の、ほんの一瞬。


 連絡先と、振込先を確認し合い、別れることになった。

 ここで普通なら、ちゃんと支払う物を支払ってもらうためについていく人の方が多いのだと思う。


「よろしいのですか?」


「あら、踏み倒されるおつもりでしたか?」


 そう、払わないということも不可能じゃあない。

 けれども、そうしたらどうなるか、それ自体は明白だ。


 笑いながら言ってみれば、納得してくれたようだった。


(ま、在庫処分が出来たという面もあるのよね)


 実際、自分1人とロボ1機の状態では、あまり修理部品もため込めない。

 積み込んだトラックで移動しているとなれば、なおさらだ。


 商人親子と別れ、同業者も多く泊まる宿へと向かう。


 ジュエルアーマードは、5メートルから15メートルと規格に幅のあるロボだ。

 ちなみに、ブリリヤントハートは12メートルほど。

 自然と、トラックも荷台は相当大きな物になる。


「さてと、まずはシャワーかしら?」


「レーテ、私も洗ってもらえると助かります」


 トラックから降りて来たカタリナに頷きつつ、2人して宿に入るのだった。




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