JAD-028「正義の意味」
謎の襲撃に機体を損傷させ、街の工房で修復を依頼しようとしている私たち。
朝早くから賑わう工房で……何とも言えない現実が突き付けられた。
「装甲の修復と、背面のブースターも2基増設か。悪いが、うちでやると少し高くつくぜ」
「ええ、元より覚悟の上だわ。発掘機だもの」
むしろ、正直に修理費用がかかると告げてくれるだけ、良心的な工房だ。
時には、碌に調べもせずに受け、後から言ってくるところもあったのだから。
「やっぱりか。強度が違うと思ったんだ。量産を考えてない、エース用の造りだ」
「それに恥ずかしくない仕事が、出来ているといいのだけど」
会話の間、カタリナは周囲を興味深そうに見ている。
修復中の車や、JAMを見れば、どんな戦いがあったかがなんとなくわかる。
私もちらりと視線を向けた先では、黒騎士な機体が1機、修復中だ。
「あれ、綺麗に斬られてるのね」
「ん? ああ、さすがの騎士様も、挟み撃ちにあったんじゃ大変だったみたいだな」
その後は見積もりを出してもらいつつ、工房の隅で作業を見つめる。
昼には出来上がるらしいから、市場でも冷かそうか。
「レーテ、少しいいですか?」
「どうしたの?」
買い物してくるーと軽く告げ、カタリナを引き連れて外へ。
トラックに乗り込んでカーテンをかければ、簡単な内緒話部屋の出来上がりだ。
「どうも、JAM同士の争いが多そうです。撃たれた跡とか、斬られた跡が多いですよ」
「……ふむ」
考えてみれば、ありがちなことだ。
生き残ることが出来て、生活にその意味では余裕がある。
となれば、なぜか人同士で争い始める、それが人間だ。
復興した後の主導権争いみたいなのもあるのかもしれないけども。
「となると、騎士とかも少し気を付けたほうがいいのかもね」
「何もなければそれでいいんですけど」
頷きながらも、無駄になりそうな予感で一杯だった。
なんだかんだ、新顔は目立つ。
その上、私たちは見た目が若いし、機体も特殊だ。
「ひとまず、いつでも出れるように備蓄だけは買い込んでおきましょう」
保存食等を買いに、市場へと向かうことにした。
ここから遠くないので、トラックは置いていく。
少し歩けば、この前宿の子と来たように賑わっている光景が広がっていた。
「干し肉も種類がありますね」
「他にも思ったより……ええ、予想以上だわ」
先日来た時もそうだったけど、賑わいがかなりのものだ。
ここだけ見ると、いつかの時代にタイムスリップしたかのようだ。
でも、建物の中には、妙に近代的と感じる物もある。
大崩壊で生き残った建物を修復して使ってるのだろう。
不思議な感覚を抱きながら、必要な買い物をしていく。
「これでひとまず……ん?」
「喧嘩、ですね」
すぐそこで、男性同士、何やら言い合っている。
他の野次馬同様に、見守ってしまう私たちだ。
チンピラ風だけど、悪党ってほどでもなさそう……もう片方は……なるほど、あれが騎士か。
薄れた記憶にあるような、革鎧にマント、長剣を鞘ごと身に着けている。
手甲やらなんやらも装備して、そのまま歩兵として戦いそうなぐらいだ。
「カタリナ、下がってて」
「レーテ?」
自慢じゃないが、私は元男だ。
正確には、そう思ってるだけかもしれないけれども。
人間じゃないからと、カタリナを前に立たせたままではちょっと気になるのだ。
なぜなら、騎士のほうが刃物を持ちだしたからだ。
いわゆる、抜いたな!って状態。
「刃物を出せばビビると思ってんのか? 大体、なんでてめえらの許可がいるんだよ。勝手だろうが!」
「適正な価格で販売していない。君たちは、治安維持に不適格だと判断した。それだけだ」
そんな話が聞こえてきて、周囲の会話も聞く限り……やや歪な街の情景が理解できた。
黒騎士、騎士団が警察のようなことをしているのは間違いない。
そのうえで、どうもただガラが悪いだけで追い出す傾向にあるようなのだ。
(厳しすぎないか?とか聞こえてくるぐらいだもんね)
チンピラの露店らしいものを見た限りでは、そうぼったくりとは思えない。
多少、高いような気もするけど商売の自由だと思う。
けど、騎士様にはそれはこの後の不穏の種だと感じられたわけだ。
どっちが正しいかっていうと悩むけど、チンピラも別に悪党ってわけじゃなさそう。
それに、ちょっと興味を惹かれる物もある。
「てめえ、いい加減に!って、なんだよ嬢ちゃん」
「それ、いくら? というか、本物?」
ざわめきを背中に、私はチンピラのお店、並んでいる中でも金属製の筒を指さした。
自分の記憶が正しければ、あれは生身での……。
「お、おお……俺には動かせねえが、本物だと確信してる。交渉してもいいんだが……」
男の視線は私の後ろ、騎士様に向いている。
まあ、そりゃあそうだ。
「ねえ。別にこの人が、犯罪者ってわけじゃないんでしょう?」
「む? それは……」
言いよどんだところへ、こっちが畳みかける。
力を示すのはいいことだが、威圧が脅迫につながることだってあるのだと。
少しも高く売ってはいけないというのは、商売を衰退させる、と。
「どうせ、値切ろうとした相手に、この人が乱暴な言葉遣いをしたとかなんでしょう?」
「うっ……」
図星も図星らしい。
男も、バツが悪そうに頭をかいている。
(まったく、男ってやつは……)
本来の自分の性別もわからないのに、大げさにため息。
気が付けば、ぴりぴりした空気は霧散し、周囲の人々も思い思いに解散し始めていた。
「コホン。問題は起こさないようにな」
「言われずともわかってるよっ」
捨て台詞を残し、剣を収めた騎士が去っていく。
すぐにカタリナが、呆れた顔で近づいてきた。
「レーテったら……」
「ごめんごめん。おっと、それで、売り物なの、それ」
「そのつもりだ。本当はこのぐらい貰いたいところだけど、これでどうだ」
にやりと男が示してくる値段は、迷わないお手頃価格だった。
さすがに、話が良すぎると男を睨むように見つめる。
「そう睨むなよ。条件が2つある。1つは、使うところを見せてほしい。あこがれだからな。もう1つは、一緒に採掘しないか?」
男の提案に、苦笑しながら頷く私だった。




