JAD-027「不意打ちの影」
「これで4つ!」
たとえ話をしましょう。
あなたが森を歩いていて、自分より何倍も大きな相手が出てきました。
どうする?って、逃げるわよね。
「ターゲットの氷結を確認しました」
「とどめを刺して、積んじゃいましょ」
そう、狩猟に来たのはいいけれど、獲物はすぐに逃げる。
そりゃあ、JAMが相手だと、そうなるわよね。
本当は血抜きがどうとかあるのだけど、凍らせてしまえば大体いいらしい。
というわけで、動力をアクアマリンとダイヤにして、凍らせることをメインにしている。
「さすがにJAMで追いかけっこは、ねえ」
「効率が悪すぎますね。木々をなぎ倒してとか、やりたくないですよ」
森の手前でトラックを止め、周辺を移動しての狩猟だ。
小さいの相手だと、オーバーキルもいいとこだと思うけど、しょうがない。
若いのも、大きいのもそれぞれに肉質が違うらしい。
だから、依頼でも頭数か重量でクリアとなるわけだ。
「さてっと……」
もう少し狩りたいところ、と周囲を確認した時のことだ。
少し、違和感があった。
これというものが目に入ったわけじゃないのだけど、気になったのだ。
「レーテ?」
「カタリナ、荷物を固定。トラックに乗って」
あくまでも狩りの続きの警戒、そう思わせる動きをしながら、気配を探っていく。
経験からくるものなのか、私のこの世界での能力なのかはわからない。
けれど、宝石の力を感じた。
(何かいる……人間? それとも……)
一見すると、自然豊かな山だ。
とても、一度世界が崩壊の危機に瀕したとは思えない。
幸い、気候変動は限られた地域にだけ影響があったようだけど……。
『生体センサー、出しますか?』
「止めておきましょう。感知するミュータントも、世の中にはいるわ」
口にしてから、自分がどっちがあり得るかを決めていることに気が付いた。
そう、この雰囲気は……人ではなく。
「っ! そんなっ」
持っていかれた。
最初にそう言葉が浮かんだ。
森の中から、何かが飛び出て来たかと思うと私の反応より早く、機体を襲ったのだ。
その上、よけきれなかった攻撃が左肩を襲い、見事に装甲が剥ぎ取られた。
JAMの攻撃でも食らわない限り、破損しないだろう防御を誇る装甲が、だ。
「撤退するわ。あっちもどこかに行ったようだし……」
感じた気配は、山奥に遠ざかっていく。
正体は不明、カメラでうまく撮影できているといいのだけど……。
『生身だったら、終わりでしたね』
「ぞっとしないわ。首がぽーんって飛んでるわよ、あれだと」
念のために、トラックの荷台で射撃姿勢を取りつつ、森から離れていく。
幸いにも、その後襲われることはなかった。
「そいつは、シャドウパンサーだな」
「シャドウパンサー……獣かミュータントってこと?」
納品後、かろうじて写っていた映像と共に役場で聞いてみる。
すると、もうすぐおじいさんな相手があっさりと名前を告げてくる。
「だろうな。でも、ここ10年は討伐記録がない。積極的に襲われることもないからな」
「たまたま縄張りに入ったか、行動範囲にぶつかったか……か。厄介ね」
今のところ、森の中でしか遭遇例がないというのは慰めになるのかどうか。
このあたりは、思ったより自然が多くて森だらけなのだから。
映像は、鳥ではなく四つ脚の獣らしきものがぎりぎり写っている。
大きさは、大型バイクぐらいはあるからかなりの物だ。
「噂じゃ、白いのもいるらしいぜ」
「聞きたくはない話だったわ。ありがと」
肉を一部、引き取る交渉をしつつ、役場を後にする。
情報収集をしてくれているカタリナと合流し、同じ宿へ。
「お帰りなさい!」
「ただいま、でいいのかしらね。これ、よかったら夜に出してほしいのだけど」
お肉!と喜ぶ姿に、確保してよかったなと思うのだ。
甘いと言われるかもしれないけど、子供はこうあるべきだと、心から思う。
宿の主人でもある父親に、改めて説明と依頼をする。
そこそこの量があるので、他の客にも振る舞っていいか聞かれ、頷いた。
また狩りに行けばいいのだと思ったが、今日の出来事を考えると……。
受ける仕事については、少し考える必要があるかもしれない。
明日は、修理を依頼しないといけないからね。
「レーテ、ある程度は自己修復は効かせられますけど、今回はこのまま?」
「あまり目を付けられたくはないわ」
そう、設定上大崩壊前の機体であるブリリヤントハート。
色々な機能を持つが、その中の1つには自己修復がある。
強力な物ではないけれど、装甲ぐらいなら可能だとも知っている。
個人的には、そういうのは切り札的にとっておきたいのだ。
「レーテがそれでいいなら……じゃあ、お話ししましょう」
「ええ、そうね。夜は長いし、今後のこともあるものね」
そうして、食事を挟みながらこの先のこと、機体の改造プランなどを話し込むのだった。




