JAD-277「自分らしく、好きに強気に」
約2年間、お付き合いありがとうございました。
空、宇宙、光る星々。
無数の輝きが、何かを語るように瞬く。
それらが、大気によるものだとわかっていても、空想せずにはいられない。
「あの中に、母星があるのかしらね?」
「私たちはこの星で設計されましたからね。母星はここでいいのでは?」
それもそうかと思い直し、空を見渡す。
周囲は、暗闇だ。
今いるのは、無事だったビルの屋上。
一応警戒用のセンサー類も設置してある……けど、問題はなさそう。
なにせ、町中で動いてるものが私たち以外にいなさそうだからだ。
火災には、ひたすらにアクアマリン等で氷漬けにすることで対処した。
飛びながらやれば、そんなに時間もかからなかったのだ。
そうして、戦艦だったものに戻ってきた私たちが見つけたのは、あの攻防でも無事だったコンテナ。
明らかに年月の経過を感じる古ぼけた姿は、前文明、あるいはさらに前の物だと示していた。
「コンテナ、中身はごっちゃごちゃでしたね。あれは集めたんでしょうか」
「たぶん、そんな余裕や、結論が出ないままにひとまず打ち出されたんだわ」
コンテナはかなりの大きさで、中にはたくさんの恐らく記憶媒体や生体再生用の有機物。
そして、機能を停止した操作機械があった。
中身は、きっと人間のそれをコピーした、AIのようなAIでないもの、だ。
かろうじて読み取れたあれこれは、混乱の極みだった。
「あきらめる者、生身の人間にこだわる者、人間に連なってさえいればよい者、様々ね」
これまでに遭遇した無人機や隕石の中身、目的は様々だったけど……。
集団ごとの目的ははっきりしていた。
けれど、今回のはそのあたりも決まっていない状態。
だからこそ、大陸のあちこちで、方針が違うというか、層のようになっていたんだと思う。
その時その時、優勢な考えをもとに、色々と実行していた。
「人間の生身であることにこだわらないグループが、最近優勢になったんですね」
「それまで、きっとたくさんの人が生きていたんでしょうに……お墓も作ってあげられない」
嫌な考えでしかないけれど、どこかで多くの人間が処理されてしまったのだ。
もっと早く来ていればと思うのは、傲慢なのだろうか?
あるいは、私を設計したAIがそういう想定をしていれば……いや、もしもはやめておきましょう。
「レーテは、よく頑張ったと思いますよ。私が保証します!」
「ふふっ、ありがと。カタリナに言われるなら、納得できるわ」
この世界で、きっと彼女だけが私と一緒にいられる。
同じように設計されて、奇跡的なものを乗り越えて、この世界に誕生して。
こうして一緒に生きていけるのは、様々な運命のような何かがあったからだ。
星の光と、ぼんやりとした薄明かりが照らす屋上で二人寄りそう。
適当なブロックを背に、二人で空を見上げる。
感じる重みが、どこかほっとするのは気のせいじゃない。
起きているような、寝ているような時間は空が白くなるまで続く。
そして、朝。
「メテオブレイカーを戻したら、高高度から大陸を出るわ」
「了解です。自分で修復は……作業機械は停止してるだけでしたもんね」
頷き、機体に乗り込む。
そうして向かう先は、岩で覆った状態のメテオブレイカー、その制御区画。
結構な重量があるそれを、なんとか元あった場所へと運ぶのだ。
場所さえ合っていれば、あとはブリリヤントハートで接続したように、配線を整えるだけ。
クリスタルジェネレータに火を入れるように、力を注ぎこむ。
「ジルコニア5連の再稼働確認。エネルギー、上昇しています」
「さあて、説得がいるかしらね?」
しばらく様子を見ていると、制御区画のあちこちが点灯し始めた。
どこかなじみのある、力の気配が広がっていく。
「通信、来ます。一応警戒しておきますね」
「ええ、お願い。つないで」
『接続を確認。動力炉波動認証……まずはお礼を。私を取り戻せました』
どうやら、大丈夫なようだ。
知れず、力が入っていたことに気が付き、手を開く。
「いいえ、大丈夫。自己修復は可能そう? 作業機械は各所で休眠、停止処理をされているようだけど」
『肯定。破損、計画外の増設が認められますが、十分可能でしょう。なあに、周りに資材は多くあるようです。機能を取り戻し次第、人間でいうところの……供養を実行します』
こちらのメテオブレイカーも、なかなかに人間味のあるAIのようだ。
この短期間で、状況を把握したようだ。
自分たちが旅立つことを伝えてもよさそうだ。
「そう。ならよかった。じゃ、私たちは自分たちの故郷に戻るわ。また、いつか」
「先輩、何かあればこのアドレスに衛星を経由して送金を」
『感謝。歓待を行えないのがさみしいですが、それはまたの機会に。そのころには……復旧しているでしょう。いろいろと』
通信に割り込んできた映像は、私たちの知るメテオブレイカーにも似た、執事風。
深々と頭を下げる映像に、こちらも頷きを返す。
巨人と子供のようなサイズさがどこか面白いなと思いつつ、向かいあう。
再会は、半年後か一年後か、もっと先か。
いずれにしても、その時にはここが人間であふれてるといいなと思う。
「じゃあね。私は好きに生きることにしてるから……」
『肯定と歓喜。設計者が望むのは、まさにそうでしょう。人間らしく、人間として。好きに強気に。それでこそと。お土産をたくさん、期待します』
思ってもみなかった返事に、驚きつつも感情のままに笑う。
そのまま、ブリリヤントハートのブースターを展開。
翼のように広がったそれに力を注ぎ、勢いよく空へと舞い上がる。
どんどんと小さくなる地上の風景。
「どこかでドラゴンに当たりますかね?」
「さあ? ま、振り切ればいいわ。さあて、まずは……あっちのメテオブレイカーに遊びに行きましょか」
「はいっ!」
空の上、星の丸みがわかるほどの高度。
どこまでも広がる青い空に、ぽつんと白い月。
そのまま空に溶けてしまいそうな感覚の中、力の波を感じ取る。
星をめぐる、石の力。
気流にも似たそれに、星の声を聞いたような気がした。
「じゃあ、出発!」
空に、2本の白い線を描きながら飛んでいく。
目指す先に、次は何か面白いことが待っているかなとワクワクしながら。




