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JAD-276「後片付け」



 宇宙から飛来してきた隕石……いや、小惑星。

 ほとんどの部分は、砕いたか吹き飛ばすことができた。


 そう、ほとんどは。


 空を、破片たちが彩っていた。

 細かい部分は大気圏で燃え上がっている最中だ。

 

 自然ものじゃない、何かしらの作為を感じるものだった。

 自然の小惑星が、転移してきてたまるか!というやつである。


「さすがにこの合体攻撃は、封印対応としましょう。地上に向けて撃つのは絶対にダメね」


「そう、ですね。山が削れるどころではないでしょうね」


 メテオブレイカーの動力と、ブリリヤントハートの動力。

 片方だけでも敵がほぼいないものを、同期・共鳴させたのだ。

 そこから生まれたエネルギーは、言うまでもない強さだ。


 それに、次も無事とは限らない。

 メテオブレイカーはあちこち白煙を上げているから、しばらくは動けないだろう。


「機体ダメージはあまりありませんけど、力の通りが良くなりすぎですね。しばらくは休ませた方が」


「そっか。そういう感じなのね。効率が良すぎるのも考え物か」


 いうなれば、ホースの口がいきなり太くなったようなものだ。

 もともとの量も増え、強さも上がった状態でホースが太くなれば……調整が難しいわけだ。


 いつの間にか上がっていた息を整えつつ、周囲を見る。

 空にいたいくつもの無人機はいないし、地上からの砲撃も止んだ?


「攻撃、状況は?」


「外部からの接続攻勢も急に引っ込みました。砲撃、ありませんね」


「どこかに親玉がいるはずなんだけど……」


 まさかどこかで倒してしまった、ということはないと思う。

 となると、ダメージを受けて休息しているか、逃げ出しているか。


 ブリリヤントハートを移動させ、ビルの屋上みたいな高さから周囲を見渡す。

 さんざん好きに暴れたからか、あちこちで煙と火事。

 残骸と、無事な部分とが戦いの荒々しさを表現していた。


「レーテ? 残った砲台から攻撃が来るかもしれません。危ないですよ」


「カタリナは感じない? この妙な感じ……」


 言いながら、自分でもはっきりとしない感覚に戸惑っていた。

 何かセンサーで感知できるものでもない。

 実際、彼女は何も感知していないのだから。


 でも、何かある。


 色々と思考を巡らせ、たどり着いたのは……記憶。

 私の設計者は、よほど疑り深いか、心配性だったらしい。


(ゲームの後半戦、そこにあったイベントの1つ、なんてね)


 つまり、終わったと見せかけて本番、そんなやつだ。

 そう……本番というか、親玉がいない。


「広範囲で探査開始。街並みに不自然な部分、ない?」


「ええ? 始めますっ!」


 自分自身も、モニターの表示を次々切り替えながら、見ていく。

 煙の色、崩れた建物、動かない無人機たち。


 そして……見つけた。


「北西800! 戦艦らしきものが地上に固定されています!」


「こっちでも視認。飛ぶわ」


 出力と実際の動きが思った以上に敏感なのを感じる。

 自分ではちょっと飛び上がったつもりが、かなりの距離を飛びあがる形になった。


 驚きつつも、そのまま降下しつつそこへ向かう。

 ブレードを構え、警戒しつつ近づき……ぞわりと、何かが襲い掛かってきた。


「周辺に出現する何かあり! 砲台、それにJAM!?」


「戦艦自体、下に隠しておくべきだったわね」


 まるで、戦艦を守るように無数の砲台、JAMたちが地面からせりあがってくる。

 様々な種類があり、むしろ統一性が全くないようにも見える。


 それらが吐き出す攻撃を、軽快に回避していく。

 必死、そう感じる動きだ。


「残って復活されても厄介だわ。つぶしていく!」


 叫び、目立つ相手から順々に狙撃を開始。

 敏感になっているクリスタルジェネレータは、私の予想よりも早く、多くのエネルギーを生み出す。


「今の稼働状況は10分ぐらいで戻る試算です。やれますかね?」


「やれるかじゃない、やるのよ」


 地上にある戦艦というなじまない光景の前で、光が交錯する。

 砲台はともかく、JAMは動いても良さそうなのだが……あれは、試作機なんだろうか。


「こうなるまでに、試行錯誤はしたってことか。それで、人はいらないと結論付けて……でも、結局最後に自分を守らせるのは人型ってのは、滑稽ね」


「敵戦艦、マーキング完了。いつでも! いえ、目標に高エネルギー反応!」


「切り裂くっ!」


 多くの砲台、JAMを撃破し、主要な目標は戦艦のみ。

 それも、沈黙していたのでオブジェ同然かと思っていた。


 その動かないように見えた巨大な砲台がこちらを向き、暴力的な光を携えている。


 轟音を伴うような光のの柱が飛んできた。

 それに対し、確信をもってブレードをふるう。


「こんなものでっ!!」


 わずかな抵抗感の後、光の柱は左右に散っていく。

 これでわかった……もう、相手が限界だ!


「色々聞きたいところだけど、共存は無理そうだから。さよなら」


 その声が届いたわけでもないだろうけど、周囲に何か広がるのを感じた。


「相手から無線、多数の周波数で何か……まともな内容ではなく、叫びというか暴言というか」


「そ。了解。多分、理解しない愚か者めとかそういうノリね」


 先ほどの砲撃は切り札だったのか、相手からの攻撃はない。

 ブレードからライフルに持ち替え、離れた場所から……狙い撃った。


 全体が爆発し、戦艦はガラクタと化す。


 そうして、ある意味あっさりと、無人機の野望めいたものは、止まった。


「周辺設備の停止確認。都市内部の電源が消失していくのを感知。この町は、もう死んでしまった感じですね」


「今度こそ、終わり……かな?」


 機体を立たせたまま、コックピットで深呼吸。

 じわじわと、胸に飛来する感情は……安堵と、喜び。


「数日はここで散策。それから……戻りましょ。人間のもとへ」


「はいっ!」


 こうして、私の目覚めた世界で好きに生きる旅は、大きな区切りを迎えたのだった。



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