JAD-272「代理の刃」
「結局、人間としてどこを目指すか……だったわけよ」
「そういうことなんですかねえ?」
シリンダーで培養されていた人間らしきもの。
それらを焼却という形で救って数日。
持ち出した無人機から吸い出した情報は、ある種拍子抜けするものだった。
つまりは、彼らの設計をした人間は、生身の人間だけでは限界があると、あきらめたのだ。
機械生命体による管理を目指し、人間という肉体は資源と見なしたのだ。
それが、最初からだったのか、星の海を旅する間にそうなったのかはわからないけれど。
「私にはわからない考えだけど、それだけ限界だったんでしょうね」
「どこかで、寿命を迎えた星があるってことですね」
「そうね。今から向かう中央にいるのは、もう人間が絶滅寸前だったとかじゃないかしら?」
町と町の間。
まだ自然が十分に復活していない土地で、敢えて野営している。
やせた林、という感じで焚火が目立つが、森のそばも危険度は似たようなものだ。
(どこに、相手の手が伸びてるかわからないものね)
朝起きたら、木々が絡みついてましたとかは遠慮したい。
このぐらいなら、そうなる前にわかるだろうと判断した。
「その割に、動物とかは見逃すというか、謎が多いです」
カタリナが見るのは、すぐそばを流れる小川。
水汲みをしたときに、魚が結構いるのが見えたりした。
私にも不思議な光景だけど、機械の魚が泳いでるよりはマシかな?
地域によって、どこかチグハグなのは……正常ではないからかな?
「知っても、ぶつかるだけね。私やカタリナの設計者は、人間が元の人間として生きることを前提としている。あいつらはそうじゃない。共存は難しいところね」
生身と機械という違いはあれど、生存競争なのだ。
本当は、私じゃなくこの星で生きている人間がやることなのかもしれないけどね。
私がやりたいことを、やるだけだ。
勝手に代理になったおせっかいだとしても、ね。
「そうなると、全部は無理としても上流個体は停止させないといけませんね」
「そうね。何体いるのか、そもそも地上にいるのかもわからないけど」
悩みは尽きないけど、できるだけ早い方がいいと感じる。
空を見上げると、黒。
焚火の明るさに負けない星々の輝きが見える。
文明が栄えていた昔だと、もっと空は暗かったのかなとは思う。
「私たちの知るメテオブレイカーからの何か連絡は?」
「緊急は今のところ。前に教えてもらった相手のアカウントへは、送金済みです。何かあればそこからメッセージが添えられてくるとは思います」
心配していることは2つある。
1つは、今向かっている無人機、その親玉への対処だ。
そしてもう1つは……。
「データとしてもらった巨大隕石……それらしいもの、見つかったのよね?」
「はい。まだ衛星からも十分探査できない距離と角度ですけど」
長い時間で、衛星のいくつかは機能を停止。
残りも、今動いてるのが奇跡ともいえる。
そんな空の目は、これまでに何度も隕石を捉えている。
今は、その目が頼りではあるのだけど……。
「空の上だと、速度がいまいちわかりにくいのよね。手遅れになる前にわかるといいわね」
「戦闘以外の時は、できるだけ注意しておきますね」
椅子代わりに出しておいたコンテナに背を預け、空を見上げながらの会話。
先ほど、まだ範囲外同然ということだったが、私には感じる。
空の向こうに、何かいると。
「お願いね。私が……何人もいないとだめかもしれないけど」
胸に感じる感覚、それは石の力。
でも、この星で感じるソレとは違う、どこか異質なもの。
無言で薪を追加してくれるカタリナを感じつつ、思考の海に沈む。
どこから、最初の石の力、星の力は来たのか、と。
そうしていると、いつの間にか眠っていたらしい。
次に気が付いた時には、毛布をかけられた状態で寝ていた。
空は、白くなり始めている。
「こんな寝方でも大丈夫なのは、ありがたいわね」
横を見れば、座ったままの状態で目を閉じるカタリナがいる。
眠ってるように見えて、周囲の警戒をする部分は起きているはずだ。
あまり刺激しないように立ち上がり、周囲を観察する。
他の場所のように、自然あふれる、とは言えないけど……こちらのほうが不自然さがない。
「自然に任せた感じが、安心できる気がします」
「そう、ね。やっぱり……誰かの手が入った森だと、すぐわかるわよね」
いつの間にか彼女も目を覚ましていた。
簡単に朝食を済ませ、機体に乗り込む。
今日は、事前情報で確認できた……中央、おそらく相手の本拠地に接触する日だ。




