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JAD-270「お手本のような町」


 計画された区画、その通りの町。

 外敵の侵入に備えるような防壁。

 車両が走りやすそうな道路。


 各所に見える、警戒設備。

 そして、バランスよく育つ木々。

 お手本通りの、立派な町だ。


「これは……怖いわね」


「何か強力な兵器が見つかりましたか?」


 ブリリヤントハートのコックピット内。

 私の声に、少し離れたバックパック側のカタリナが答える。


 ほんのちょっとの距離だけど、指先の緊張がバレないのは、よかった。

 抱いた恐怖を、ゆっくりと飲み込む。


「そっちは大丈夫。そうね、整いすぎてるわ」


 この大陸に来てから、しばらくは自然がたっぷりだった。

 もちろん、まだ過去の戦争跡らしい個所もあったけど、逆に言えば自然のままだ。


 それに対して、今見えている光景はどうだ……。


(まるで都市モデルのパンフレットでも見ているかのようだわ)


「整いすぎている……なるほど?」


「結局、この星の文明は一度滅ぶ……大きく後退してるわ。なのに、この映像の中身は、ちゃんとしすぎている」


 映像をあれこれいじってみるけど、やっぱりおかしい。

 もし自分が町を設計するなら、こうするだろうなみたいなのがそのままだ。


 ここが、全部荒野だったなら妥協して、受け入れよう。

 けれど、おそらくはそうではないと思う。


「元の環境を丸々除外してまで、この光景を作り出してるなら、異常だわ」


「そういうことですね。レーテ、上空に何か飛んでいます」


 今いる場所は、町から離れた、まだ自然のままの森の中。

 規則性が何もない、自然のままに復興したと感じる場所だ。


 でもここも、よくよく見ると……自然に任せていたらこうなるだろうというわざとらしさがある。

 都合がよすぎる、といえばわかるだろうか?


「大きさはかなり小さいわね。警備……とも少し違うか」


「決まったルートを飛行してるようです。どうしますか?」


 落とすのは最終手段だ。

 とはいえ、私の目的を考えるとそれもありかな。

 映像をズームし、観察を続ける。


 不思議なことに、中央に近づくほど……街並みに違和感は消えて行っていた。

 ちぐはぐな家具であるとか、建物のいびつさ。

 そういったものが、消えていく。


 その代わりに、まるで機械が人間であるかのように町中を動いている。


「やることは一緒よ。生産設備、指揮官個体を倒す」


 人間の代わりに機械が地上の支配者となる。

 そう宣言しているような光景。


 もしかしたら、もしかしたら中身は人間の保存された思考を再現した存在なのかもしれない。

 だとしたら、今やっているのはただの人間同士の争いだ。


 そして、もし中身は人間じゃない、機械のAIでしかないのなら。

 どちらかが生き残る、生存競争といえるんだろう。


「映像から優先順位設定完了。行けます」


「了解。一気に上空から仕掛けるっ!」


 私の攻撃行動は、ほぼ同じパターン。

 上空から角度を取り、複数個所に射撃、制圧、だ。

 相手に対空武装、対空行動がないからやれることだと思う。


 両手にそれぞれ構えたライフル、両肩の砲から無数の光が降り注ぐ。

 構図だけなら、人間の住む街を襲撃する悪役だ。


 けれど、眼下には人間は1人もいない。


「8割以上が直撃、有効です。一部、何かにはじかれました」


「そこがさらに重要ってことね」


 こなしてきた無数のクエスト。

 ゲームとしての経験だけれども、そこで培った手法は現実でも有効だ。

 こちらからの攻撃を防いだ個所へ、急降下。


「砲台出現!」


「見えてるっ!」


 ようやくか、はやくもか。

 視界に出現する、多数の砲台。

 一見するとただの町だったのに、ここだけはまるで要塞だ。


「ただ撃ってくるだけじゃっ!」


 実戦経験は蓄積されていないのだろう。

 飛び込んでくるこちらに、正面から攻撃が放たれる。

 光る弾丸、石の力を使った攻撃だ。


 動きを機体に伝え、ブースターをほぼ真横に。

 襲い掛かるGに耐えながら、横っ飛びだ。

 正確には、斜め前にとなるだろうけど……。


 モニターの横を、砲台の攻撃が通り過ぎる。

 こちらが左右に移動するという可能性を、考慮できていない攻撃だった。


「ブレード……貫くっ!」


「フィールド確認! 半減しています!」


 カタリナの報告を聞きながら、機体にブレードを震わせる。

 石の力には石の力。

 光の刃を鞘のようにまとった一撃が、ドーム状の何かを切り裂く。


「通ったならいいっ! ダイヤ、ルビー!」


 素早く石を切り替え、片手でライフルを構える。

 フィールドを貫き、無防備な状態になった相手施設。

 その中に向けて、炎と光の暴力を叩き込んだ。


 瞬間、嫌な感じが背中を走る。


「っ! 障壁!」


 火薬か、それに近いものでも保管されていたのか。

 こちらの攻撃が吸い込まれてすぐ、大きな爆発が生じた。


 ブリリヤントハートは、その爆風を障壁で防ぐことには成功。

 その代わりに、上空へと弾き飛ばされるように移動する羽目になったのだった。



 

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