JAD-268「けじめをつけに」
もうすぐ完結です
町の中は静かで、不気味なほどに綺麗だった。
もちろん、戦いの跡はあるわけだけど、それ以外がきれいすぎる。
観察する余裕ができた私の目には、まるで片付けられたようにも見える。
がれきがそのままだし、そんなはずはないのだけど……。
(誰かが住んでそうなのに、住むのは無理だと何か感じるのよね)
「食器、ですね」
「そうね、食器だわ。人間サイズ……でも変ね。これじゃあ使えないわ」
どこにも、コンロや水場がない。
これでは炊事ができないのだ。
男たちを生産設備だった場所に案内して、私たちはそのそばの探索中。
家屋に見える場所に、機体を降りて入ってみたのだ。
「建物の高さなどは人間サイズですね。でも確かに、あちこちがおかしいです」
「ええ、真似してるだけ……」
言いながら、記憶がちらつく。
ゲームとしての記憶でも、生活らしい生活をした覚えがないぞと。
視界の情報としてはいろんな部屋、設備はあったように思う。
でも、それらを利用した記憶はあいまいだ。
例えばそう、食堂で調理をする、したものを食べるといった行為。
ほかのことでもそうだ。
機体の何か以外で、買い物をした記憶は?
パーツの購入以外に、何か支払いをしたか?
「ふぅ……どうやら私の設計をした人格も、おそらく人間の文化、生活情報は一部劣化していたようね。それは無人機の親も同じみたい」
「だからどこか変だと? そうまでして再現したのはなんででしょう?」
それには答えず、机と椅子だけど、座ることができない形の家具を見る。
人間の生活を再現しようとしたのだとわかるけど……実際はどうなんだろう。
生身という人間じゃなくてもいいのではないか、と考えているように思う。
生活のためにというより、安定のため……。
「環境を再現するのは、人としての人格がおかしくならないため、じゃないかなって。全く変わり映えしない生活環境は、どこかで歪みを生むと思う。ほら、だいぶ前にずっと命令を待っていた子がいたでしょ」
「それは確かに。でもそうなると、体は人じゃなくてもいいということでは?」
だからよ、と言って寝室も何もないがらんどうの建物を出る。
見た目はきれいな町。
けれど、ここでは人は暮らせない。
少なくとも、そのままでは。
「無人機、機械アリだと考えていた相手は……新人類、人類の形……かもしれない」
「私としては、管理AIの暴走に一票です。自分たちが成り代わろうと考えたっていうほうがやりやすいですよ」
彼女の意見はもっともだし、私もそう思いたいところだ。
問題は、相手と話すことはおそらく難しいだろうということ。
時機を見て、滅ぼさないといけない相手だからだ。
(それも、時間の余裕はあまりない)
「カタリナ、次の季節は味わってる余裕がないかもしれないけど、大丈夫?」
「いつでも、どこでも。貴女とならば、大丈夫ですよ」
言外に、危険へと飛び込むことを告げる。
返答は、はっきりとした承諾だった。
そのことをうれしく思いつつも、無事に帰ることを考える。
そう、中央に突撃し、無人機の親……機械体でこの星を制圧しようとしてる存在との対決を。
「考えてみれば、ゲームみたいなものよ。人類に仇なす存在を排除、平和を取り戻す」
「レーテならできますよ」
微笑みつつ、機体へと乗り込み、少し移動。
生産設備たちの探索は終わったようで、男たちが出てきた。
表情は明るいので、色々なことがどうにかなりそうなんだろう。
その後も、彼らについて回り町の探索は無事に終わった。
流用できそうなものは、数多いようだ。
報酬として、物資を受け取りつつ、今後のことについて話す。
「俺たちはここを拠点化、引っ越す予定だが、どうする?」
「好きに動くわ。そのためにこっちに来たんだもの」
多分、一緒に行動するだとか、依頼があればと告げれば、そうなったと思う。
けれど、そうはしない。
記憶は誰かに刷り込まれたものではあるけれど、選択は自分でしてきたのだ。
たとえ、夢のような眠った状態での判断と記憶だとしても、それは私のものだ。
であるならば、自分の判断、やりたいことをやろうと思う。
記憶でそうしたように、人類の手助けをする。
自分1人……いや。
機体を操作する私の後ろには、今も慣れ親しんだ気配。
「終わったら、旅に行きましょうね」
「はい。食べ物は摂取できます。色々食べに行きましょう」
周囲の警戒をしてくれているカタリナを感じつつ、東に進路をとる。
目指すは、大陸中央。




