JAD-265「見えていた未来」
「何かしらのフィールドを確認。攻撃が大きく減少しています」
「見た通り、ねっ!」
かなり広い地下空間。
それはまるで、かつての記憶から言うと闘技場のような……そんな場所。
つまり、1対1で戦う分にはいいが、飛び回るには少し狭い。
その状況で、天井近くまで体がある相手を倒す……言葉だけなら簡単だけども。
「あの配管、下手に近づくと危険な気がするんだけど」
「おそらく。がれきをつかんでは吸収してますかね、あれ」
勢いのまま、突撃しようとした私。
でも、嫌な予感に従って今は射撃で距離をとっている。
巨大なアリの上半身に、何かの設備のような下半身。
生き物ままなら、腹があるあたりは、無数の機械でおおわれている。
撃ち込む個所を変えてみるけど、どこにあたっても何かに散らされている。
無数の配管が、意志を持つように動き回る。
(人の姿では限界があるからと、生き物の姿を借りた?)
機械アリに酷似した相手が、どうやって生まれたのかも気になるところだ。
見た目と動きからして、たぶん人の手がなくても惑星の開発なんかをするため。
問題は、現地を開拓し続けるものなのか、資源を回収、打ち出すのか。
「どちらにしても、人間を部品として扱うのは……なしよね」
本末転倒とはこのことだ。
母星へ持ち帰るのか、帰還をあきらめてこの星で暮らすのか。
どの場合でも、人間が無事である必要がある。
だというのに、目の前の存在はそれを放棄しているのだ。
つまりは、人類の敵。
「推定ですが、接触した物体を有機・無機問わずに吸収できますね」
「了解。このまま削りきる!」
ブレードで一気に決めてもいいが、万一がある。
例えば、石の力による刃をそのまま吸収できる性能があったとしたら……だ。
気が抜けない戦いだけど、その分本来の目的が果たせるだろう。
ここで引き付けているほど、外の圧力は減り、人々が合流できる。
なんなら、ここで撃破してしまえばしばらくは安心のはずだ。
「一撃より数で行くわ。連撃用意!」
「わかりました! 肩部砲撃、合わせます!」
女王個体を助けるように、様々な無人機がやってくる。
その中に、機械アリが混ざり始めたことで仮説は確信に変わる。
(あっちの機械アリも、巣を見つけたらそこに人間がいるのかしら?)
細かい相手を一緒に倒しながら、そんなことを考えたのがいけなかったのか。
あるいは、ここに来るときに力を籠めすぎたのか。
天井付近の岩盤が、崩落し始めた。
そして、女王個体につながる配管の一部が、新しく動き出した。
かなりの速度で、触手のようにこちらに迫るのが見える。
「レーテっ!」
「わかって……るっ!」
悲鳴を上げるカタリナ。
本当に人間くさくなったなと思いつつ、迎撃。
ライフルを真上に投げ、その動作の戻りでブレードを抜刀。
伸びる配管を石の力、その刃の光で照らしつつ切りつける。
嫌な音を立て、配管だったものをあっさりと切断した。
「一回飛ぶ!」
言いながら、落ちてくるライフルを回収、そして女王個体を見下ろす形になる。
「あまり時間もかけられないわね。射撃用、ってぇぇぇーーー!!」
クリスタルジェネレータの出力を上げ、改めてライフルたちに力を注ぐ。
たとえ9割減少されようが、それで有効打になるように放ち続ければいい。
地下空間を白く染め上げる勢いで、射撃を始める。
地上にはほぼ戦力が残っていないのか、邪魔は入らない。
地下空間にいる女王個体以外も射線に入ってくるが、それだけだ。
「一部攻撃がフィールドを超えたのを確認!」
「地面まで焼き尽くすぐらいで続けるわっ!」
ここで、やったか、なんて言わない。
少しずつ射線を変えつつ、ひたすらに打ち込む。
燃料的な水晶たちのパワーが、4分の1ぐらいに減ったところで、ようやく止める。
火薬ではないので、今視界を埋めているのは周囲の岩盤たちが砕かれたものだ。
それも、すぐに吹き込む風で流れていく。
そうして、戻った視界には……穴だらけながら原型を残す女王個体と、残骸たち。
「あきれた頑丈具合ね。部品らしきがれきだけになってると思ったのに」
「あれも、つぎはぎされた個体ということでしょうか」
「なるほどね。もとは小さめかもしれないか……」
無人機や機械アリを生むごとに、大きく自分を改良したのかもしれない。
生産設備そのものをお腹に抱えた、ある意味究極の機械生命体だ。
「残ってる無人機たちの動きはどうかしら?」
「観測できる範囲では、動きを止めています。電源は入っていそうですが……」
乱入の可能性がなさそうだということがわかったので、次の行動に移ることにする。
すなわち、女王個体の調査だ。
警戒はしつつ、近づいていく。
このタイプが、ここにいるだけとは思えない。
きっと、何体もいるはず、そう考える方がいい。
対策をとるためにも、データは少しでも収集しないとだ。
「体内? 内部?に、未加工状態の金属塊がコンテナサイズで詰まってますね」
「まさに生きる工場、か」
調べれば調べるほど、何やら既視感。
でも私の場合、本当に覚えがあるとしたらそれはゲームとしての記憶だけだ。
もし、もしそうなら……。
(私やカタリナを設計した存在は、どれだけの未来を考えていたの?)
一体、いくつの可能性があったのか。
順調に物資を回収できた未来や、失敗する未来だって候補にあっただろう。
けれど、サポートするはずの機械が人間に反逆する形の未来まで、あったというのか。
もう生きていない、はるか昔にいた人間だろう科学者、技術者に、思いをはせるのだった。




