表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

263/278

JAD-262「機械の国」


「最初は、ただ便利だという認識なのだと思う」


「そりゃ、そうよね。無人機に疲労なんてなさそうだもの」


 提供されたしばらくぶりの食事。

 温かいそれに、緊張がほぐれるのを感じる。

 味も、申し分ない。


 重い話をしていても、雰囲気が悪くならないほどのものだ。


「俺のひいじいさんぐらいの話になるが、無人機を配下にするコードが見つかり、利用し始めて大陸は変わった」


「獣を蹴散らし、ミュータントを追いやり、自然を切り開き、ですか?」


「本当の開拓時代の幕開けだって感じね」


 わざと軽く言ってみるけど、何とも言えない不気味さがある。

 たぶん、最初はうまくいってたんだと思う。


 人的資源は節約し、敵を味方に、ひたすらに開拓できる。

 ミュータントがいかに厄介でも、事実上無限の兵力を前には無力だ。


 よほど大きく強力な相手でない限り、いつかすりつぶせる。


 そうして、人類の勢力圏を広げていったわけだ。

 大陸を渡るのが難しい現状だと、やはり各大陸で文明の復興具合が大きく違う。


「俺は行ったことがないが、中央は人がいないらしい。正確には、働いてる人がいないんだとさ」


「全部無人機に? それにしたって、生活があるでしょう……」


「……本当に、人間がいるんですかね」


 言われて、思い出すことがある。

 ゲームとしての記憶で、建物内部で他の人間という想定の相手に出会った記憶がほぼない。

 サポーターとしてのあれは、機械だ。


 生身の相手、通信ではたくさんの人間としゃべったが、あれは人間だったの?

 もしかして……あれらはカタリナとは違う意味で……。


「人も、資源……か」


「あいつらを見ると、そう思うよな」


 嫌な想像ばかり膨らみ、しかもそれが大外れではなさそうで嫌になる。

 どこかで、無人機、その勢力ともいうべきものに、人間の一部が逆襲を受けた。

 人間に機械が奉仕、従うのではなく……逆。


 ただ、問題となるのは無人機の目的だ。

 飛来した隕石からということであれば、資源回収か、現地での受け入れ準備。

 どちらにしても、戦争をしかけるようなものではない……はず。


「前は、まだ話が通じたんだ。人が相手だったからな。ただ、その時から少しおかしかった。どんな家族が住むか、なんてことも指定してきた」


「明らかに計画ありきで、実態を見てないですね」


「何かの都市計画をそのまま使ってる感じかしら」


 なんとも、まさに機械的というやつだ。

 その計画を拒否すると、追い出しにかかってきたという。


 だんだんと、話し合いをすることもできなくなり……気が付けば大陸の半分はそんなことになっていた。


 そのころになり、ようやくまだ人類である側は抵抗を開始したのだ。


「あいつらは無人機という戦力がある。下手に抵抗するよりは土地を移っておこうって思ったんだ」


「なるほどねえ……時間かせぎでしかなかったわけね」


 誰も好き好んで、戦争なんかしたくはない。

 決断した時には、かなり不利な状況になっていたのは間違いないけれど。


 不思議と、人が住んでいる地域に無人機は集まり、自然のままの場所はスルーとのこと。

 多分、石の力を使ってるのを感じ取ってるのだと思う。


「逆に、戦力を集中させて迎え撃つという手もありそうね」


「ああ。考えてはいる。だが、相手の増援がどこからどの程度来るかを考えるとなかなかな」


 もっともな話だ。

 包囲されてしまうようじゃ、本末転倒だ。


「じゃあ、私から提案は2つ。1つは、どこか合流したいけどできてない勢力の救出や支援、もう1つは、私たちが囮になって時間を稼ぐ。適当な元集落に突撃して、無人機とあの奇妙なJAMの数を減らすわ」


 食料と、水晶結晶があればなんとかする、そう添えて告げてみる。

 正直、この状況だと仕事っていう場合ではない。

 個人的にも、物言わぬ機械相手に暮らすつもりもない。


 そう、カタリナぐらい生き物と一緒な存在じゃないと、ね。


(目的、本能と呼べるかもしれないことに忠実という点では一緒かもね)


 返事を待つ間、そんなことを考える。

 どちらを依頼されるにしても、私たち自身はやることは大きく変わらない。


「複合、でお願いしたい。今言われたように、勢力同士の分断が問題なのだが、相手側の拠点が邪魔でな……」


「了解。ダメ元って思っておいて。何もなければ、大口叩いたやつが消えたってぐらいで」


 まずは実績を示し、より細かい話はその後だ。

 目的地となる元集落の座標を聞き、翌日すぐに出ることにする。


 案内された宿代わりの部屋に、カタリナとともに2人。


「いいんですか?」


「厄介なのは確かね」


 カタリナの手伝いを受けながら、ストレッチ。

 どうも、こっちに来てから感覚が少し違う。

 敏感すぎるというか、不思議な感じ。


「私はレーテが好きなように動けばいいと思ってます。それがきっと……」


「星のために、人間のためになるって? 買いかぶり……とも言えない感じか」


 最初考えていた状況とは、全く違う。

 もっとこう、大陸制覇! 人類は1つになるのだ!

 こんな独裁国家のようなものを覚悟していたのだけどね。


 まさかまさかの、機械の国が誕生しかかっている、とは。


「本当に人間がああやって利用されてるのなら、解放してあげたいわ」


 つぶやきに、返事はない。

 その代わりに、そっとカタリナが寄り添ってくれるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ