JAD-262「機械の国」
「最初は、ただ便利だという認識なのだと思う」
「そりゃ、そうよね。無人機に疲労なんてなさそうだもの」
提供されたしばらくぶりの食事。
温かいそれに、緊張がほぐれるのを感じる。
味も、申し分ない。
重い話をしていても、雰囲気が悪くならないほどのものだ。
「俺のひいじいさんぐらいの話になるが、無人機を配下にするコードが見つかり、利用し始めて大陸は変わった」
「獣を蹴散らし、ミュータントを追いやり、自然を切り開き、ですか?」
「本当の開拓時代の幕開けだって感じね」
わざと軽く言ってみるけど、何とも言えない不気味さがある。
たぶん、最初はうまくいってたんだと思う。
人的資源は節約し、敵を味方に、ひたすらに開拓できる。
ミュータントがいかに厄介でも、事実上無限の兵力を前には無力だ。
よほど大きく強力な相手でない限り、いつかすりつぶせる。
そうして、人類の勢力圏を広げていったわけだ。
大陸を渡るのが難しい現状だと、やはり各大陸で文明の復興具合が大きく違う。
「俺は行ったことがないが、中央は人がいないらしい。正確には、働いてる人がいないんだとさ」
「全部無人機に? それにしたって、生活があるでしょう……」
「……本当に、人間がいるんですかね」
言われて、思い出すことがある。
ゲームとしての記憶で、建物内部で他の人間という想定の相手に出会った記憶がほぼない。
サポーターとしてのあれは、機械だ。
生身の相手、通信ではたくさんの人間としゃべったが、あれは人間だったの?
もしかして……あれらはカタリナとは違う意味で……。
「人も、資源……か」
「あいつらを見ると、そう思うよな」
嫌な想像ばかり膨らみ、しかもそれが大外れではなさそうで嫌になる。
どこかで、無人機、その勢力ともいうべきものに、人間の一部が逆襲を受けた。
人間に機械が奉仕、従うのではなく……逆。
ただ、問題となるのは無人機の目的だ。
飛来した隕石からということであれば、資源回収か、現地での受け入れ準備。
どちらにしても、戦争をしかけるようなものではない……はず。
「前は、まだ話が通じたんだ。人が相手だったからな。ただ、その時から少しおかしかった。どんな家族が住むか、なんてことも指定してきた」
「明らかに計画ありきで、実態を見てないですね」
「何かの都市計画をそのまま使ってる感じかしら」
なんとも、まさに機械的というやつだ。
その計画を拒否すると、追い出しにかかってきたという。
だんだんと、話し合いをすることもできなくなり……気が付けば大陸の半分はそんなことになっていた。
そのころになり、ようやくまだ人類である側は抵抗を開始したのだ。
「あいつらは無人機という戦力がある。下手に抵抗するよりは土地を移っておこうって思ったんだ」
「なるほどねえ……時間かせぎでしかなかったわけね」
誰も好き好んで、戦争なんかしたくはない。
決断した時には、かなり不利な状況になっていたのは間違いないけれど。
不思議と、人が住んでいる地域に無人機は集まり、自然のままの場所はスルーとのこと。
多分、石の力を使ってるのを感じ取ってるのだと思う。
「逆に、戦力を集中させて迎え撃つという手もありそうね」
「ああ。考えてはいる。だが、相手の増援がどこからどの程度来るかを考えるとなかなかな」
もっともな話だ。
包囲されてしまうようじゃ、本末転倒だ。
「じゃあ、私から提案は2つ。1つは、どこか合流したいけどできてない勢力の救出や支援、もう1つは、私たちが囮になって時間を稼ぐ。適当な元集落に突撃して、無人機とあの奇妙なJAMの数を減らすわ」
食料と、水晶結晶があればなんとかする、そう添えて告げてみる。
正直、この状況だと仕事っていう場合ではない。
個人的にも、物言わぬ機械相手に暮らすつもりもない。
そう、カタリナぐらい生き物と一緒な存在じゃないと、ね。
(目的、本能と呼べるかもしれないことに忠実という点では一緒かもね)
返事を待つ間、そんなことを考える。
どちらを依頼されるにしても、私たち自身はやることは大きく変わらない。
「複合、でお願いしたい。今言われたように、勢力同士の分断が問題なのだが、相手側の拠点が邪魔でな……」
「了解。ダメ元って思っておいて。何もなければ、大口叩いたやつが消えたってぐらいで」
まずは実績を示し、より細かい話はその後だ。
目的地となる元集落の座標を聞き、翌日すぐに出ることにする。
案内された宿代わりの部屋に、カタリナとともに2人。
「いいんですか?」
「厄介なのは確かね」
カタリナの手伝いを受けながら、ストレッチ。
どうも、こっちに来てから感覚が少し違う。
敏感すぎるというか、不思議な感じ。
「私はレーテが好きなように動けばいいと思ってます。それがきっと……」
「星のために、人間のためになるって? 買いかぶり……とも言えない感じか」
最初考えていた状況とは、全く違う。
もっとこう、大陸制覇! 人類は1つになるのだ!
こんな独裁国家のようなものを覚悟していたのだけどね。
まさかまさかの、機械の国が誕生しかかっている、とは。
「本当に人間がああやって利用されてるのなら、解放してあげたいわ」
つぶやきに、返事はない。
その代わりに、そっとカタリナが寄り添ってくれるのだった。




