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JAD-258「見定める者」



 空に浮かぶ、青白い体躯。


 絵画から抜け出してきたような、翼ある巨体、ドラゴン。

 風の抵抗を受けにくいようにか、思ったよりは細身ではある。

 大きさそのものは、こちらの数倍は軽くある。


(最初の攻撃以外、様子見?)


 一定の距離を保ったまま、ホバリングしている。

 ただ……羽ばたいてるか飛んでいるわけじゃないことにも気が付く。


 ここは海上。周囲に石の力が、ほとんどないからだ。


「相手の飛翔方法は、こっちとほぼ同じ。自分の体内から力を放出してるんだわ」


「それも、設計された能力でしょうか」


「どうかしらね。生き物をそこまで設計できるとは思えな……私たちがいるか」


 かつての機械だって、大型で技術が整ってから小型化が進んだはずだ。

 いかにもな大きな生物で実証し、それが人型へと小型化した?


 全くないとは言えない話だ。


「見つめあってるわけにもいかないわね。ゆっくり動くわ」


「了解。新大陸へ向けて徐々に移動します」


 私たちの狙いは移動であって、ドラゴンの撃破ではない。

 そのことが相手にわかるかどうかは別なんだけど……。


 なんとなく、野生動物と一緒で背中を見せて一目散、は危険な気がする。

 高度を上げながら徐々に……何か口に、ブレスの予兆。


「どっかの氷をつかんだんじゃなく、あいつが生み出してたのね。普通なら当たって終わり、か」


 幸いにも、弾丸のような動きではなく、石が打ち出されているといった感じ。

 回避自体は余裕だけど、これが続けば次は直接迫ってくることも考えられる。


 空中にいると、いつのまにか吹き荒れる吹雪が邪魔で、回避しにくい。

 ゆっくり今度は降りていくと、逆に見えてくるものがある。


「攻撃の頻度が下がった?」


「はい、明確に違いがありますね。上にいるときは結構しつこかったんですけど」


 なんとなく見えてきた気がする。

 あのドラゴン……同族か、それに近い飛べる存在、つまり技術のある存在を止めようとしている。

 向こう側にではなく、行き来を止めたい、みたいな。


「もしかして、ドラゴンって楔、防衛装置みたいなものなのかしらね……」


「どういうことです?」


 氷上をすべるように進めば、視線は感じるけど攻撃はほぼない。

 やはり、飛んでいない存在は脅威と認識しないようだ。


 飛ぶというのは、かなり高度な技術だ。

 かつての人類が、空を飛ぶことで世界を狭くしたように。


 ドラゴンの設計すべてを知ることは難しい。

 でも設計思想が、まだ彼らの中に残ってるのかもしれない。

 調停者、絶対的な壁、技術進歩過剰による暗い未来への蓋。


「人が、どうして星を出ることになったかを知ってる人は知っていた。人がまだ見ぬ星でまた増えた時、同じことにならないかを危惧した人もね。技術は失われるけど、生命は思う以上にしぶとい。だからかなあって」


「面白い考えですね。私たちもそうなるかも、しれません」


 話しながらも、後退するように後ろ向きに大陸へ進む私たち。

 不思議と、ドラゴンは攻撃の手を止めた。


 あたかも、見定めは終わったといわんばかりだ。


「人の体なだけで、もう私たちもドラゴンそのもの、か……」


 一機で大抵の戦力と渡り合う。

 流星さえ砕く、特別な力。


 一歩間違えれば、私たちも人を傷つけ続けることになってしまうかもしれない。

 もし、ドラゴンたちが私たち……いや、私をそう見定めたら?

 おとなしく止まれるといいのだが。


「考えても仕方ないことかもですよ? レーテ、陸地が見えてきました」


 思ったよりも早い到着。

 ただまあ、そうじゃなきゃあの人らも渡っては来れないか。


 ドラゴンも姿を見せなかった可能性もあるからね。


 いつの間にか遠くになったドラゴンを見つつ、最後に大きくジャンプ。


 着地した時、すぐに感じた。


「周囲の調査開始。確かに、違うわね……」


 石の、星の力。

 その流れが、少し違う実感があった。



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