JAD-255「意志に力を乗せて」
私はあまり深く人付き合いをしない。
知り合うぐらいはいいけど、それぐらいだ。
どうしても旅に出るし、相手が次に出会ったときに生きていないこともあった。
それ自体は世の中の常、と言ってしまうこともできる。
一番の問題は、自分たちが成長も変化もしないことだ。
髪を切ったりしたら、元の長さに戻っていくので回復はしてるのだが。
不老不死、とまではいかないと思う。
「変な意味じゃなく、設計した通りの仕様に戻ってるってことよね?」
「私の場合はそうかもしれませんけど、レーテのはどうなんでしょうね」
荷物を片付けながらの時間。
声かけの1つぐらいはと思い、この後あいさつ回りの予定だ。
忘れ物は……あっ、肝心なものを忘れていた。
「私の方も寿命はわからないし。そうだ、スミスおじいちゃんからダイヤを受け取っていかないと」
「大事なことじゃないですか。とっくに受け取ってると思ってましたよ」
「ぎりぎりまでカットの調整をしたいって言ってたからね」
無色(に近い、だと思う)のダイヤ、イエロー、グリーン。
カットがつるんとしたブルー、そして原石のレッド。
まるで伝説の装備のようであるダイヤを、ついに5色手にしている私たち。
そのうち、カットが違うブルーとレッドを、おじいちゃんがカットしてくれるというのだ。
持ち逃げされることもないだろうと判断し、好意に甘えることにした。
その結果のブツをまだ受け取ってはいなかったのだ。
「じゃあさっそく……宿は引き払いつつ、ね」
「わかりました。大陸を移動したら、戻ってこれないかもしれませんね」
「かもね。でも、それも人生だわ」
もともと私たちに家族はいない。
家……も、家と呼ぶには微妙な境遇だ。
であれば、もう今をどう生きるかしかないだろう。
少しばかりの寂しさと、身軽であることへの割り切りを胸に、外へ。
向かった先で、スミスおじいちゃんはなぜか普通に待っていた。
「そろそろかと思ってな。ほれ、ブルーはできるだけハイパワーになるように細かく、レッドは原石の形状からローズカットにしておいた」
「何から何まで、助かるわ。次があれば、また見せに来るから」
「死ぬまでの楽しみが増えるのは歓迎じゃ」
ちなみに、カット時に出る破片や粉も使い道は十分あるそう。
代金はそれで十分だというので、そこで話は終わり。
陽光に透かしたブルーは、空と海の青。
そしてレッドは、炎、マグマのような情熱の赤。
「性能は不明。気をつけてな」
「ええ、本当にありがとう」
付き従っているカタリナと一緒に頭を下げ、ほかの人にも挨拶をしていく。
リンダは……今日はいない。
そのうち旅に出るとは伝えてあったので、そういうことだろう。
彼女もまた、出会いと別れに慣れているはずだ。
また生きて顔を見せるのが、何よりの土産なんだろうなと思う。
何人かの見送りに見守られつつ、ブリリヤントハートに乗り込み、起動。
本体はダイヤ、イエロー。バックパック側にはグリーンダイヤ。
使う核を分けることで、機体への負担も減ることは実験済みだ。
今の機体なら、以前のようにダイヤ3連でも使いこなせることだろう。
「エラーなし、順調に起動しています」
「了解。じゃ、行きましょ」
外部スピーカーで、出立を告げて飛翔。
ふわりと浮き上がる感覚に微笑みつつ、斜め上に飛んでいく。
すぐに小さくなる街。
そして見えてくる遠くの景色。
「目標は北方の海峡、あるいはそれに近い場所。別大陸からの移動ルートを確認していくわ」
「目標設定しました。途中の探索も込みですね?」
「当然。ああいった無人機の集団がいたら、ちょっかいは出しておかないとね」
余計な騒乱は、持ち込まれたくはない。
こちらに来ているのは逃げてきた集団だろうことは予想できる。
こちらの人間とともに暮らすのならよし、もし乗っ取ろうというのなら……ね。
比較的ゆっくりとした速度で、かつてのビルたちぐらいの高さを飛んでいくのだった。




