JAD-252「翼持つ者」
新生ブリリヤントハート。
その姿は、翼を背負った人というのが一番似合うものだった。
本来は変わらず、これまでブースターや背面武装があったあたりに、大きなバックパック。
それには、左右3連の大型ブースターがくっついている。
これはそれぞれに微調整が可能で、鳥の翼のように広げられる。
そして、JAMの腕ほどはある長い砲が1門ずつ。
可動式で、左右どころか真後ろにも向く。
逃げながら、追ってくる相手をなんてこともできるだろう。
戦艦の兵装から、予備部品をそのままいただいた形だ。
そしてそれらが付くバックパックの中には、芋虫から取り出した核。
「コックピット後ろが、つながってるわけね。一応つなぎ目が扉にはなってるけど」
「ここが壊れるときは、もうダメな時と一緒ですよねえ、これ」
もともと、多少は物が置けたコックピット後ろ。
そこからバックパックの核がある付近へと移動できるつくりだ。
で、カタリナには普段そっちに行ってもらう。
「近いけど離れてる。だけどすぐそば。ちょっと不思議ですね」
「これからも頼りにしてるわ」
起動テストを兼ねての稼働中。
いったい何と戦うんだと言わんばかりの重装備である。
自然、人目を集めてしまうが、想定内だ。
「武装とのリンク調整中。どちらでも操作できますが、普段はこっちだけにしておきますね」
「ええ、そうしてちょうだい。手持ち武装はほぼ変わらず、か」
増やす必要もないといえばないので、ちょうどいい。
これまで通りの手持ちライフル2丁、ASブレードに予備ブレード1本。
そのほか使い捨ての投擲や、スモーク的なものがあるぐらいだ。
「データ取得開始、いつでもどうぞ」
「了解。じゃあテスト開始っと」
貸し切り状態の空き地で、様々なポージングを試す。
仮想敵を相手に、回避や攻撃、距離を詰める、取るなど。
移動や姿勢制御には背面のブースターも存分に使っていく。
結果として、人の体では不可能な動きも実現可能だった。
「誤差修正も順調です。これならドラゴンともがっつり戦えますよ」
「いろいろ知った今となっては、できれば戦いたくはないけどね」
砂塵舞う空き地で、晴れた空を見る。
振り返れば、まだ噴煙は収まっていないのか、どんよりとした空。
今のところは、火山は平穏を取り戻したように見える。
感じる力も、おとなしい。
そして、あれから芋虫はさらに追加で2匹、といったところ。
改造に使ったもの以外は、おじいちゃんに預けた。
「それで、どうしますか。気が付いてると思いますが、今のブリリヤントハートは……」
「そうよね。今の世界では一番竜騎兵に近い存在でしょうね」
実質、4つ以上の石を同時に稼働する機体。
メテオブレイカーを除けば、それが可能なのは過去においても竜騎兵ぐらいだ。
強くなりすぎた矛は、世界中の盾を貫けたという。
ゲームとしての知識でも、理不尽の象徴のような登場だった。
最終的には、戦う相手なのだが。
「強いけど、ロマンすぎる機体ね。ただ、戦力としては他が5なら、50や80みたいな話。だからこそよく考えないと」
「レーテがその気なら、世界はまた広くなりますよ」
「そのつもりはないわ。ひとまず、行こうと思うわ。北へね」
世界を滅ぼそうと思えば、簡単だという。
正確には、人類の文明を後退させるならば、か。
そうなれば、きっと世界の人々は隣人しか知らない世界がやってくる。
でも人は、知ってしまった。
もう、知らなかったころには戻れない。
そんな歪な世界に戻すよりは、よくなる方を目指した方がいいんじゃないだろうか?
「わたってこれたという海峡あたりの確認と、向こうに乗り込むわ」
「準備をしっかりしないといけませんね」
うなずき、必要なものを考え始める。
向こうの大陸、一部の人が無人機と共存しているらしい混沌の大陸へ。




