JAD-250「模倣するもの」
そして、芋虫が顔を上げ……吼えた。
「データ採取開始! 何かに似てないかを探るわ!」
「了解! かなり高音です。金属同士がこすれるような……」
コックピット内部では、調節された音が聞こえる。
確かに、甲高い鳴き声だ。
人間が聞いても大丈夫そうな調整がされたそれは、孤独を感じさせる。
どこか物悲しい、誰かを探しているような声。
「探してる? なら……探査範囲を拡大! ほかにいない!?」
「待ってください……います! 右奥2500!」
とっさに機体を動かし、山を回り込むように飛ぶ。
眼下には、いくつも溶岩があふれる山肌。
そして、もう1匹の芋虫。
「2匹は確定か……。目的は合流? ううん、違う……」
「あれじゃ、外敵もいないでしょうし、一緒にいる理由は薄いですよね」
そうなのだ。誰が好き好んで溶岩地帯に狩りに行くのか。
まだ機械か生き物かはっきりしていないけど、彼らぐらいなものだ。
そうこうしてるうちに、それぞれの芋虫は溶岩の採取を続け、巨大化している。
倍ほどの大きさになったとき、さらなる変化が起きた。
「胴体部が丸くなりましたね。まるでボールを飲み込んだ蛇のようです」
「動けなそうな見た目のわりに、力を感じる。あの部分が核ね。少なくとも、発掘品と同等な力を感じるわ」
さて、ここで私がどう動くか、それが問題だ。
あの芋虫を確保し、あわよくば核を……というのが一番。
スミスおじいちゃんの記憶が確かなら、世界全体でも各所に存在していたようだ。
となると、生き物ならば繁殖もしているはず。
「あれにオスメスあるんですかね?」
「さあ……でも、増えることはするはずよ。じゃないと、あれが最初の個体って話になってしまう」
観察する先で、芋虫は数度吼えたかと思うと、山肌にお尻を突っ込んだ。
私の目には、それが見える。
体内から移動する石の力。
それはまるで……。
「卵、か。たぶん卵だわ。ああやって山肌に卵を産み付けて、次の噴火までふ化しない」
「気の長い話ですよ、それ。あ、動き出しました」
いつ噴火して、その影響でふ化できるかは確かに気の長い話だ。
でも、邪魔が入らないという点ではありなのかもしれない。
そんなことを思いつつ、親芋虫の動きを確認する。
思ったより早い動きで、1匹が火口方向へと……まずい!
「溶岩に飛び込もうとしてる! 確保しにいくわ!」
「マーキングします。いつでも!」
浮いたままだった機体を加速させ、一気に急降下。
ブレードにはダイヤの力をまとわせる。
機械か、生き物か、はたまた混ざったやつか。
その正体を確かめるためにも、逃がさない。
空中からの強襲で、芋虫の頭部を一気に切断。
核のある胴体方面をつかむ。
「内部は機械だらけです!」
「了解っ!」
思ったより重量は軽い。
ブリリヤントハートでも、掴んだまま飛び上がれるほどだ。
断面は、確かに機械だ。
(ということは、生命体を模倣して、自己増殖できる機械ってこと?)
あの鳴き声のようなものも、再現なのか、別の理由か。
よくわからないが、ひとまず研究材料にはなりそうだ。
「再生はしないわよね……動いてきそう」
「今のところは大丈夫そうですね。でも、死んではいませんよ、この子」
カタリナから見ても、機械として停止してはいないようだ。
未知への怖さと、何がわかるかというドキドキが同居する。
そのままどうにか街近くまで戻った私は、無線でスミスおじいちゃんを呼び出す。
謎の機械サンプルを採取したこと、まだ機械としては生きていることを。
「ようし。中身を出して、ブリリヤントハートに核を増設するか!」
「そんな方法が?」
街の外に出てきて、芋虫の胴体を観察したおじいちゃんは、そんなことを言い出すのだった。




