JAD-249「最初の……」
花の蜜を採取する蜂。
その姿を見たときに、頭に浮かんだのはそれだった。
「溶岩に自分からつっこんでいる? 焼けてる様子はないわよね」
「そのようですね。接触部分の温度は約900度以上。なんだか容器が破れて中身が出てきているみたいですね」
「ふふ。そうね……こぼさないようになめとってるみたい」
スケールがかなり違うけど、そう見えてしまったからには仕方がない。
しばらくの間、浮きながらその芋虫の行動を観察する。
大きさは下手な車両ほどはある。
全体は赤黒く、時折発光しているように見えるのは溶岩の関係か。
口元を溶岩につっこんでいて……多分目はない。
「動いているから、そういう生き物か、そういう機械か……」
「どちらにしても、耐熱具合は驚くべきものですよ」
「普通の生き物なら、耐えられないわね」
有害ガスに適応した甲虫がいたのだ。
もしかしたら溶岩にも耐えられる生き物が……いや、さすがにどうだろう。
間違いないのは、金属反応はあの芋虫からということ。
「普通のミュータントな線は消えたわね。いや、普通のミュータントって何よってところなんだけど」
「さすがにあの状況で耐えられる外皮はともかく、体内はなんだって話ですもんね。温度も維持できなければ溶岩は固まりますし」
そこである。仮に溶岩に耐える体組織というものがあったとしてもだ。
温度が下がった溶岩は岩となる。
それをどうにかするには、生き物では無理だと思うのだ。
(つまりあれは何か違う存在。例えばそう、採取と加工をする存在とか。でも……ゼロじゃない)
「技術って、結構生き物の模倣からって話、あるのよね。記憶にある限りだと、擬態用の装甲、模様とか。特殊な糸とか、免疫用の薬剤とか」
「アレがオリジナルとなる生物、あるいは模倣した機械だと? なるほど」
「捕まえてみないとわからないけどね。でも何かする必要もあるのかしら?」
石の力を使って、体内でも温度をあれこれしてるのかもしれない。
そう考えると、絶対にないとは言いきれないのだ。
一体どんな存在か、もう少し観察をと近づいた時だ。
距離としては1キロあるかどうかだろうか。
「レーテ、計測値にエラーが。肥大して見えます」
「こっちでもそうよ。私の目が疲れてなければ、ね」
モニターに表示される映像は直接の拡大映像だ。
つまり、測定が間違ってるわけではない。
芋虫が、この短時間で明らかに大きくなっている。
おなかの付近は大きく膨らみ、まるでボールを飲み込んだかのよう。
「金属反応も強く……え、これは……」
「JAMに近い反応? どういうこと?」
近づくこともなぜかできず、空中に浮いたまま。
そんな特等席ともいえる場所で、私たちはそれを目撃する。
柔らかそうな表皮が、硬く、光沢あるものになっていく。
車両ほどはあった体格も、大きく、力強いものに。
冷えて黒くなかったように見えた色も、質感が変わったのだとわかる。
(あれではまるで、機械でできた芋虫型の……JAM)
なんとなく、その予想は正解のような予感があった。
だとしたら、何が目的なのか。
そう、目的だ。
「仮にあれに人類がかかわってるとして。何のためにあそこでああしてると思う?」
「溶岩の採取でしょうか。様々な金属らが溶けていると聞きます」
「それもありそう。私ね、この感覚に覚えがあるの」
JAMの動力源である核、クリスタルジェネレータで複数の石を入れ替えているときのもの。
その時の感覚は、今視線の先で観測されているものに近いように思う。
芋虫から感じる石の力が、どんどん切り替わっているからだ。
まるで私が、ダイヤだアクアマリンだと入れ替えているときのように。
「考えてみれば不思議なのよ。JAMと動力源、それ自体はもうあるのだから疑うことはないわ。でも、最初に人類が石の力、星の力を使うようになったのはいつ? 少なくともこの星に来た人類はすでに知っていた」
「あれが? どう見ても機械ですから、再現したものがあれ?」
世界、宇宙で最初に石の力を引き出したもの。
それはなにかはわからない。
けれど、答えの1つが……きっとあれだ。
そんな予感を胸に、観察を続ける。




