JAD-024「ところ変われば色々違う」
新たな旅路への朝。
街を出ることを一応、カインへと伝えにいった。
タイミングよくというべきか、トムもまだ仕事に出る前だった。
私が旅立つことに、寂しそうにするも、笑顔で送り出してくれた。
「よかったんですか、石をあげて」
「いいのよ。どうせ補欠も補欠だもの」
トラックの助手席で、朝日に光る荒野を眺めつつの時間。
ともすれば、砂漠になっていきそうな土地が、ぎりぎり荒野ですんでいるのにも秘密がある。
あちこちに埋まっている、様々な鉱石。
これが、星の力を大地に巡らせているのだ。
その力が、少し強いところは草が生えやすく、水がたまり、命がつながる。
この世界で、一番渇いているのは……かつての、人の営みがあった場所だった。
人が、力を吸い上げすぎた。
「ジルコニアのカットミス品、ですもんね」
「ええ。それでも、JAMを一機動かすぐらいは、出来ると思うわ」
石を渡された時のトムは、こちらが申し訳ないと思うぐらいの反応だった。
人工的に作られた宝石、ジルコニア。
大した力がない半端な物なのだけど……まあ、それはいい。
大事なのは、最初からJAM等の動力に使うために設計されて作られた石、ということだ。
「出来れば彼ぐらいの小さい子が、戦うようなことはないといいなと思うのは、我がままでしょうか」
如何にも人間らしいせりふを口にするカタリナ。
答えるのは簡単だけど、それはそれで……少し望みとは違いそうだ。
悩み、推測し、自分なりに答えを出す。
それが、人間だと思うから。
私の返事がないことに、彼女も気にした様子はなくしばしの沈黙。
「機体で警戒するわ。運転はよろしく」
「はい、任されました」
何度もそうしてきたように、荷台への扉をくぐり、ブリリヤントハートの中へ。
燃料であるクォーツ、水晶の塊は十分補充することができた。
全力で何日も戦う、とかでなければかなり持つだろうと思う。
動力としての石をダイヤに切り替え、いつもの姿で機体を起動させる。
どう考えても不思議な動力のわりに、コックピット内部は機械的というか、SF的というか。
「電気とは少し違う……というけれど、どうにもね」
色とりどりの光を発するモニターやスイッチ類。
それらを見ていると、技術のすごさを感じたりするのだ。
記憶にある、地球の技術との違いに、ね。
「生体レーダー稼働……獣と、ミュータントばかりか」
ある意味、馴染の反応。
こちらに襲い掛かってくるのでなければ、敢えて倒しにいくこともない。
時々、食料のために狩る必要もあるかもしれないけれど、今は不要。
シートを待機用の物に調整し、静かな時間を過ごす。
『レーテ、今向かってる先には何があるんです?』
「私も聞いたことがあるだけよ。巨大な山脈と、それを割るような大河、森林が残ってるという……まあ、火薬庫みたいな場所ね」
だいぶ地形は変わってしまったし、地球ではないはずだけど、大崩壊前の地形は地球に似ている。
タンセがあった地域が、大体長靴の国の左上ぐらい。
そして、今から向かうのは真西、ヨーロッパ地域に似た土地だ。
(もっとも、かなり地形が変わってるんだけどね)
仮に宇宙から今の地上を撮影したとして、元の地形を見出すのは非常に困難だと思う。
なにせ、アルプス山脈と思われる場所は、何分割にも別れた状態なのだから。
『人が過ごしやすい場所なら、自然と集まる、と』
「そういうことね。噂じゃ、大崩壊前の工場が一部復活してるとかどうとか」
ゲームでの知識を、噂で聞いたかのように告げると、沈黙。
無言だけど、カタリナの困惑のような気配を感じた気がした。
『気のせいでしょうか? レーテとそこに向かうと、騒動ばかりのような気が』
「キノセイキノセイ。それに、ブリリヤントハートを持ってったら、どこでも騒動よ」
我ながら、少し悲しいことだけど、事実だと思う。
新しい場所だから、二つ名で呼ばれることはないだろうけど……。
大崩壊前の機体であることは、わかる相手にはわかってしまう。
動く一財産、それが騒ぎにならない訳はないだろうから。
それからも、雑談を交えつつ数日のキャンプ。
近寄ってくる獣たちは、改造して付けた形の機銃が散らしてくれる。
一週間の旅路で、かなりの距離を稼いだと思う。
「地形というか、空気が変わったわね」
「そうなんですか? センサーには特に何も……」
実際、異常はないのだと思う。
なんというか、植生が違うとかそういった部類の印象としての話なのだ。
荒れ地は減り、草花が生えている。
大崩壊がなかったかのよう、とはいかないけれど、タンセ近くとは別世界だ。
その理由はあまりいい物ではない。
ここから先は、世界崩壊前に大きな戦争により、国家が崩壊したのだ。
周辺国家の牽制合戦が産んだ、空白地帯。
皮肉にも、それが自然を復活させた。
「食事も、期待できそうね」
「動体反応多数。これは……馬です、珍しいですね」
思わず姿勢を戻し、モニターに視線を向ける。
拡大された映像では、確かに馬が……馬なんだけど……。
「角、あるわね」
「? 馬に角があるとおかしいんですか? 私のデータベースには前からああだったと……」
そうか、大崩壊前後にはもうああいう馬が世の中にいたらしい……って。
普通には、あり得ない。角のある馬ってことは……。
「一応、ミュータントか、その類みたいね……」
人が弄ったのか、自然に適応したのか、そこはわからない。
どちらにせよ、彼ら?が元気に大地を疾走している光景は、なかなか綺麗だった。
「あ、見つけましたよ。人工物、壁です」
「ようやく、人里かしら……」
遠くに見えた、壁というか城壁のようなもの。
でもそこは、庭の入り口みたいなものだったらしく、集落は無かった。
その代わりに、壁の内側ではトラックのような乗り物を、時々見かけるようになった。
期待と不安に胸を膨らませつつ、新しい街を探して進むのだった。




