JAD-244「人間の業」
『JAMが数機、これはこっちで引き取りや買取でいいだろうか?』
「そう、ね。乗り換える予定はないし」
言いながら、その性能を気にする自分がいた。
おそらくは、通常出回っているJAM以上、ブリリヤントハート未満、か。
見た目は2本足、武装はなし、頭部は一つ目のまるでボールをくっつけたかのよう。
アンテナの類やブースターもなく……歩いて動くのかな?
確認した限りでは、密閉されていたのでさび等から免れていたようだ。
(火山に近いこんな場所で、大事な実験を? うーん……何か気になる)
JAMは、かつての文明では当たり前にあった存在だ。
今でこそ、兵器として貴重品だがかつてはそうではない。
かといって、どこでも作られていたかというと微妙。
火山のそばなどの不安定な場所で工場ということはないだろう。
いかにもな機材や、様々なケーブルが生き物のようにあちこちにある。
「実験機……かしら?」
「可能性はありますね。ええっと、レーテ。あれに少し不思議な箇所があります」
カタリナの言葉とともに、ズームされるのは発掘JAMの肩部。
妙に輝いて、というか金属ではなさそう。
どこかで、と思ったら外にいた甲虫の輝きだ。
よく見ると各所に似たような輝きがある。
「ちょっと降りてくるわ」
「了解です。スピーカーはオンにしておきますよ」
うなずき、コックピットから外へ。
念のためにブレードと晶石銃を背負う。
最近使ってなかったけど、生身で激しい戦闘の可能性がないわけじゃない。
武器に頼もしさを感じつつ、調査を始めている面々のもとへと駆け寄る。
「どうした? 何か問題が?」
「まだわからないわ。これ、ミュータント素材を使ったやつっぽいのよ。ほら」
足元から指さす先にも、金属とは違う輝きの部分。
男たちも、その輝きに目を細めるのがわかった。
「……なるほど。だが、使えるのなら問題ない。そのうち修復部品がないということがあるかもしれないが」
「よっぽど大破までしない限り大丈夫じゃない? 多分、自動修復能力があるわよ。ウチのだってそうだもの」
そう、ブリリヤントハートにはある程度の自己修復機能がある。
コア、クリスタルジェネレータ周辺はもとより、装甲だってそうだ。
以前のように大きく欠損したりすると、どうしようもないが。
この能力は、なんと後から取り付けた形の手足にも適用されている。
様々な法則だとかを無視してるあたり、とても謎だ。
最も、適用には石の力を引き出しておくことが必要で、搭乗していないと発動しない。
「そうか……だとしたら運用は大変だな。そちらほど力を使えるジュエリストはそうそういない」
「あ、そういうことね。でもまあ、貴重は貴重なんじゃない? 問題はあっちだけど」
言いながら見るのは、別の区画。
何も入っていないシリンダー群。
状況的に、思い出されるのは戦艦にとらわれていたクラゲなミュータントだ。
あれは、その力を利用して戦艦を強化しようとしていた。
ここは……何を研究していたのか。
ただ装甲だけならマシといえばマシ。
他のあれこれも研究、導入していたとしたらあのJAMたちはどんな性能なのか。
資料を探してうろつこうにも、どこに何があるやらといった感じだ。
片付いていない区画は、まるで人間の部屋をそのまま大きくしたような散らかし具合である。
何か操作端末でも残っていないかと、周囲を確認していく。
男たちも、私に倣って周囲の探索中だ。
すでに崩壊しているけど、何か壁があったのはわかる。
足元に散らばる割れた……ガラスのような透明なもの。
手でつかむ気にもなれず、足で少しつつくと、その表面に嫌な汚れがあるのが見えた。
かなり劣化しているけど、体液や血だっただろうもの。
時間経過はかなりのもので、そういったものだったのだろう、という程度の汚れだけど。
(ここで何かあった、何かが生きていた、それは間違いない)
シリンダー群に近づくが、もう何もいない。
半分ほどで割れているから、壊れたのか、壊されたのか。
問題は、中身がいないことだ。
「特に何もいないぞ」
「そうね、それに何年も経って……でもおかしいわね」
前に訪れた種子保管センターのように、整っていれば別だ。
そんな環境だったら生き残っている。
でも、そうじゃない。
では……どこに行った?
その疑問の答えは、さらに奥にあった。
「地崩れ、か?」
「そうなるわね。一度穴が開いて、またふさがったって感じかしら」
壁際が、大きく崩れていた。
今はふさがっているけど、昔はそうでもなかったんだろう。
状況を整理しよう。
「昔の人は、ここでミュータント素材の研究と武器開発、JAMの改良もしていた。そこに何かしらのタイミングでミュータントの仲間が襲来、封鎖と撃退をしたけど相打ち、残ったこの場所も外からの偶然で敗れて、と」
「中にいたのが外の奴と同じだといいんだが……」
それには同意だ。
もしそうであれば、ひとまず脅威はそばにいない。
でも、まったく別の場所に生き残っていたら、厄介だ。
『レーテ。地上に置いておいたセンサーが火山活動を感知。早めの離脱を推奨しますよ』
「おっと、そういうことみたい。運ぶものはどんどん運びましょ」
数機のJAMやそのほかのめぼしいコンテナなどを、どんどん移動させていく。
幸い、運搬用の簡易的なトレーラーも残っており、それ自体はスムーズだった。
そして、ほとんどを外に運び終わったときに、振動が周囲を襲う。
私はコックピットで周囲のデータ確認をしていた時だったから少し早く気が付けた。
「噴火! 警戒して!」
みんなの視線の先で、火山が大きく火を噴いた。




