JAD-241「火中の栗」
「おお、やはり良いジュエリストは車両からして、違うもんじゃ。荷台にあるのは重量軽減用のシートか? ううむ」
「はがすのはやめてね。バランス崩れちゃうから」
銃座で周囲を警戒する私。
運転するカタリナ。
そして、その間ぐらいにベルトもせずに喜んでいるスミスおじいちゃん。
道中、揺れるのでちゃんとしていてほしいのだが……。
「これで揺れると言っていたら、普段の車両はシェイク装置じゃよ」
「運転もできるだけ気を使ってますからね。レーテ、周囲の様子はどうですか」
おじいちゃんの返事に微笑みつつ、銃座ごと左右へと動く。
森の脇を走行しながらの時間、目に見える動物は多い。
幸い、襲い掛かってくるような相手はいなさそうだけど。
(どこにミュータントの類がいるかわからないのは少し、怖いわね)
大型の昆虫タイプが押し寄せてくるとかだと、防ぐのも大変だ。
そう考えると、大きくて強い相手というのは逆に対処しやすい。
「特になし、ね。そろそろ森に入る距離かしら」
目標の基地跡?まではそこそこ距離がある。
昔は道があったのか、巨木が少なそうなのが救いだ。
すぐ前を行く友軍の車両が、減速しつつ向きを変えた。
その先には、遠く白煙を吐き続ける火山。
「妙な煙じゃのう。まるで、せきやくしゃみを我慢しているかのようじゃ」
「確かに、こま切れというか、その割に長いわね」
大噴火の兆候という可能性はある。
それ自体は近づかないとわからないが……。
と、減速。
どうやら道はここまでのようだ。
「それじゃあ、コイツの出番じゃな」
「中に乗せるには狭いけど……少し心配だわ」
ここからはJAMでの移動となる。
私とカタリナはいつも通りだが、おじいちゃんはどうするのかというと、二輪車だ。
ブリリヤントハートの脇スペースに乗せてきたけど、結構いかつい。
発掘品の荒れ地仕様。
改良も重ねて、結構動けるのだとか。
仕事相手も、やはり似たような車両に乗り換えた。
あちらは小型の屋根なし四輪のようだけど。
「燃えるといけないからルビーはなしで……ダイヤもやめときましょ」
「了解。トパーズとアクアマリンあたりですね」
うなずき、ポーチから石を取り出し空き2つに投入。
メインにしていたダイヤをサブとして、トパーズをメイン、アクアマリンをサブだ。
機体にライフルを構えさせ、準備完了をアピール。
ほかのJAMと一緒に、木々の間を縫うように進む。
下は草だけでなく、地面も多く見える。
普通の森で、山への道というところ。
車両で通過するには、うねうねしているのが問題か。
「画面を熱感知に切り替え。何かいそうだわ」
口にしなくても切り替えはできるけど、気分の問題だ。
すぐに周囲の光景が切り替わる。
警戒しつつも、総勢5機のJAMに襲い掛かる相手はそう相違ないだろうと思いながら進んだ。
しばらく進むと、幅が10メートルはあるだろう川にぶつかる。
何かいるかもしれないので、私も同じようにライフルを川に向かって構え……んん?
川が……青くない。
「気温と水温がおかしくない?」
「はい。気温のわりに、川の水温はずいぶんと……あれのせいですかね」
まだ遠い火山のあげる白煙がここでも見える。
川は、ちょうどその方向から流れてるようにも見えた。
「ラストピースより連絡。この川、飲めない可能性があるわ。確認しておきたいのだけど」
『了解した。休憩がてら、そうしよう』
中央におじいちゃんたちの車両、周囲をJAMという形で陣形を作る。
そうして、ゆっくりとブリリヤントハートの左手を川に入れる。
(重さで崩れてきそう……)
ずぶりと、足元が沈んだような錯覚。
幸いにも実際にはまだ川岸は大丈夫。
「気温より10度以上高いですね。少し水質も酸性気味です」
「やっぱりか。普段からというには、ちょっと微妙ね」
視線を上流に向けていくと、それを裏付ける証拠が見えた。
ちょうどぎりぎり見えるかどうかの距離だけど、木々に元気がない。
「上の方で、木々が枯れてきてない?」
『なるほどな。急ぐべきか』
「そうね。行くだけ行って取れるだけ取っていきましょ」
安全だけを考えるなら、引き返すのも手だ。
でも、失うには惜しいものが眠ってることも十分にある。
「ガスの可能性を考えて、JAMを先行、おじいちゃんたちは後からね」
『了解じゃ。命は預ける』
しばらくの休憩の後、移動を再開。
川沿いにあるはずということで、ちょっとおかしい川を上流へ。
だんだんと、様相が変化してくる。
「動物も少ないですね。長居はしたくないんですけど」
「それはそうね。今のところガスは大丈夫、と。アレ、ね」
川が蛇行するのが見えたころ、ちょうどそのそばに人工物が見えた。
あれているけど、間違いなく人工の壁、だ。
『周囲を確認後、突入を開始する』
「了解。さてと、何が出てくるかしらね」
最悪の場合、周辺をまとめて吹き飛ばす形でガスを防ぐ覚悟をしつつ、壁に近づく。
古さを感じつつも、頑丈さもうかがえる壁であった。




