JAD-238「水の出し方を学ぶ」
「ふうぅぅぅー……」
(集中……石の力を、編み込むように……)
耳に届くのは、街の喧騒。
どこか遠くでは金属がぶつかり合う音。
またどこかでは、扉の開閉する音。
生活の賑わいを感じながら、私は一人部屋の中に立っている。
「やっぱり、水晶は単純で扱いやすいわね」
考え事をしていると、独り言が増えてくる気がする。
手にしていたのは、拳ほどもある水晶球。
通常、JAMや関連した機械での燃料代わりになる石英、水晶。
でも、ちゃんとした品質の物であれば力を引き出すのにも使える。
今、私は力の引き出し、その特訓中だった。
ブリリヤントハートのほうは、おじいちゃんに任せている。
(スミスと呼べなんて、古風ね)
これも、ロマンを感じる同士だからだろうか?
作業の間、特訓でもしてこいなどと言われたのである。
「レーテ、調子はどうですか」
「ぼちぼちね。私自身、力は強い方だから気が付かなかった手法だわ」
水を汲んできてくれたカタリナに礼を言い、一息入れることにする。
よく冷えた水が体の中を通っていくのが、よくわかる。
(そう……か、そうよね)
これまでも、力の流れというのはわかった気がしていたし、目に見えてもいた。
けれど、あまり流れをいじるというのはしてこなかったように思う。
スミスおじいちゃんに言われたのは、力を束ねたり、糸を編むように巻いてみてはどうかということだった。
普通のJAM、ジュエリストは複数人でそうして、強い攻撃を放つときがあるのだと。
「私を通して使ってみるとか、試してみますか」
「それも、ありね」
カタリナは人工生命体に近い存在だ。
ただ人工の体で、AIが動く頭があるというだけじゃない。
人間が有機物で肉体を構築してるのと、素材が違うだけにしか思えないような存在だ。
よく考えると、彼女も存在が割と謎である。
私同様、同型の存在が正常に動いてるのを見たことがないしね。
「じゃあ私の後ろに立って、そうそう。で私の腕に手を回す感じで」
後ろから彼女に抱きしめられたような格好になる。
人肌と比べると冷たいが、不思議と生きていると思わせる感覚。
(力を流して……重ねる……)
視界を意識して切り替えると、石の力が光となって周囲に集まっているのがわかる。
ここで、その光をさらに細かく意識していく。
糸のように、無数の線が重なっているのだと。
徐々に細かくなっていく光は、確かに途切れない糸のようなものだった。
それを集め、重ね、ねじっていく。
そうして私とカタリナ、水晶球を通すようにしていく。
いうなれば、ホースから水を出すにしても、色々と出し方はあるという感じで行けばいいのだ。
「うっ……くっ……結構、きついわね」
「熱を持ちそうなぐらい、強い感じです」
カタリナのセンサーでもそれは感じるらしい。
明らかに、大きさに見合ってない力の強さだ。
これなら、攻撃以外に使ってもかなりのことになりそうだ。
光の糸が渦を作り、私たちの周囲を囲んでいく。
「直接力を灯りのように灯してみましょう」
「わかりました」
それはまるで、創作の中にある不思議な力のよう。
片手を広げ、そこから力が出ていくようにして、光の玉を生み出した。
「わぷっ!?」
まばゆい、灯りが誕生する。
石の力という視界じゃなく、照明としての光。
「レーテ、これは面白いですね」
「ええ、全くだわ。なるほどね、スミスおじいちゃんが言うだけのことはあるわ」
ブリリヤントハートも強くなる。
私たちも、強くなる。
今後の騒動に、それはとても重要なことだと感じる・。
「私はレーテの増幅器ですかね」
「2人一緒だからこそ、ってことね」
ほほ笑みあい、これからもよろしくとばかりに握手する。
スミスおじいちゃんからの呼び出しは、それからすぐのことだった。




