JAD-237「矛を手に入れろ」
「おおお! これは素晴らしい! 手も足も、みんな発掘品か何かじゃな!」
「さすがね。見てわかるものとは思ってなかったわ」
おじいちゃんは相変わらずの様子であった。
出会うなり、ロマンは見つかったか?とか聞いてきたし。
何より、ブリリヤントハートを見てからずっとこんな調子だ。
そんなはずはないのに、ゴーグルが発光しているかのような勢いだ。
「わからいでかい! そりゃ、動かすだけなら箱に配線をくっつけりゃ動くからの。これは面白い。表面の形状も全部石の力を通すことを考えた設計じゃ。運よく掘ったのか、もしくは……もぎ取ったか」
「はい。以前そういう相手と戦い、元の手足はちょっと消失しまして」
カタリナも技術者としては認めているおじいちゃんに、あの時のことを語っている。
私はそんな2人の会話を聞きながら、機体表面を撫でていた。
(そう、すんなり使えるのもおかしいと思ったけど、そういう理由?)
今にして思えば、元の技術は同じ人類ベースなのだと思う。
だからこそ、流用はしやすかったと感じる。
それを踏まえても、あまりにも使いやすかったのは設計の段階かららしい。
本格的に、機体や部品の探索も考えていいのかもしれない。
「クリスタルジェネレータもだいぶ変化しとるのう。さすが発掘品。どうじゃ、少しはとんでもないこと出来るようになったか?」
「とんでもないことかはわからないけど、ダイヤ3連で隕石を撃ち落とすぐらいはしたわね」
「さすがに、しばらくは不調になってしまいましたが」
おじいちゃんはぽかーんと口を開き、そのまま笑みを浮かべて笑い出した。
何事かと、近くにいた部下というか弟子?が注目するほどだ。
ちなみに弟子たちは、工房の準備に取り掛かってるらしい。
「そうか、そうか! JAM単機でか! さすがじゃの。それでこそじゃ。お前さんがよけりゃ、一度ばらして調整しよう」
「できるの? 私も技術者じゃないから、気にはなってたのよね」
もともと、そのために相談すべく移動するところだったのだ。
ありがたい話に乗ることにし、工房へと移動させる。
その間も、開いたままのコックピットにつかまり、何やら興奮するおじいちゃん。
「これだけ力の光が強いJAMはそうおらんじゃろうな。やり甲斐がある!」
やる気があるのは、良いことだ。
ロマンを愛するおじいちゃんが、どんなことをしてくれるのか。
発掘した?ガレージを見せることも考えたけど、今回は見せない。
慣れた設備のほうがいいだろうし、ずっと使ってもらうのも無理だし。
(ついてくるとか言いだしそうなのよね)
それはそれで、アリなのかもしれないけども。
ともあれ、街にもともとあった工房に機体を運び入れ、固定する。
「よーし、まずは四肢の接続から確認と、取り外しじゃな」
「そんなこと出来るのねって、じゃないと修理交換もできないか」
「言われてみれば、ですね。私たちはそのままくっつけただけでした」
思い出すのは、敵の攻撃で半ばほどから溶けるようになくなってしまったブリリヤントハートの手足。
ブースター部分がなければ、もっととんでもないことになっていた。
瞬く間に、きれいに外されていく手足に感動すら覚える。
防犯というより、破損防止のためのセーフティを解除しただけでこうとは……。
「JAMというか、石の力は意外と単純でのう……こうして起動してないときは、案外簡単に組みなおしが出来るんじゃ。聞いた話によると、下半身も車両のようなものに切り替えて、また別の時には両足型に切り替えてというやつもおったそうじゃよ」
「よーく知ってるわ」
ほかでもない、ゲームとしての知識ではいつもそうだった。
作戦行動や、現場の環境によって適した機体が違う。
私もよく、色々と切り替えていたものだ。
結局、クリスタルジェネレータとしてのコア部分が一番重要なのだ。
「配線には、これを試したいと思う」
「それは、金と……なんです?」
「合金じゃよ。つい先日、施設が発掘されてな。その中にあるコンテナで、資材が無事じゃったんじゃ」
おじいちゃんが手にするのは、こぶし大ほどの金属塊。
インゴット状のそれは、確かにカタリナの知らない金属だ。
まさかまさかの……。
「スターチャート……?」
「なんじゃ、知っとるのか。コンテナにはマニュアルめいた掘り込みがあったが、そこに書いてあった名前は確かにスターチャートじゃったよ」
私も、ゲーム後半、やりこみ要素のような部分でしかお目にかかったことはない。
実際に使ったこともない素材だが、おそらく技術者が開発中か計画だけあるものだったんだろう。
より石の力、星の力を伝達しやすくするための素材。
これで配線やらなんやらを構築することで、伝達率があがるという代物だ。
ただし、ゲームで遭遇した時は……それにより暴走した相手を止めるというものだったが。
なんでも、効率が良すぎてという話だった気がする。
「大丈夫なの、それ?」
「今のところはの。ただのう……ワクワクするじゃろ?」
にやりと笑うその姿に、私も思わず笑ってしまう。
確かにそうだ、その通り。
「うう、レーテの悪い癖が出てきた気がします」
「今さらよ、ほんとに。いいわ、やって頂戴。最強の矛、手にしてみせようじゃない」
心なしか、胴体と頭部だけになったブリリヤントハートも、任せろと頷いた気がした。




