JAD-236「見えないという怖さ」
ビル程もある巨大な海洋ミュータント。
それが魚型のミュータントを食べてすぐ。
残った魚たちは、混乱したように暴れ出した。
「ひとまずこっちに来ないように、ばらまくわ」
「了解です。怪しい群れが見つかったらマーキングしますね」
街の兵士たちは、どこにどう撃ち込むか迷っている様子。
実際、沖に戻るのもいれば、左右に飛んでるだけのもいる。
中には、浜辺に飛び出してくる奴もいるけど……そのぐらいか。
「水を弾丸みたいに撃ちだしてくるとかなら困るけど、このぐらいならね」
電撃を適当にばらまいていくと、面白いように魚が浮かんでくる。
いくらかは、試しに食べてみてもいいかもしれない。
動物型のミュータントも、必ず汚染があるわけじゃないのだから。
「生はだめですよ?」
「さすがに焼くなりするわよ」
ひたすらに撃ち込み、そろそろ魚の浮いた姿が目立つなあと思った時だ。
その中のいくつかが、何かに挟まれた。
巨大なハサミ、カニ型だ!
「誘われてカニが来たわ。迎撃したほうがよさそうよ」
『了解した。甲殻も素材になるし、石も採取したい』
川にもいたし、案外海水淡水どちらでも生活できるのかもしれない。
もしかしたら、そういう能力がミュータントとして得たモノの1つかもね。
見かけたカニの姿に、見覚えがあったのでそう思ったのだ。
その後も、何度も魚を浮かせ、カニを貫き……浜辺が海産物であふれる。
「さすがに多すぎない?」
「確かに……何かに追われてるかのようですね」
あの巨大なミュータントにと思ったけど、少し違いそうだ。
あれは、集まってきたのを見つけてきただけな気がする。
ほかの原因といえば、向こうの大陸方面に見えた光、そういったものしか浮かばない。
もしかしたら、あちらで大規模な戦闘でも始まったのかもしれない。
(さすがに見に行くには距離がねえ……)
西に行ったのは、地続きだからだ。
山を越えさえすればたどり着くという自信も、情報もあったから。
海、あるいは未知の氷結部分を超えていくのはリスクがある。
もちろん、捕虜になった彼らがこれたのだから、私なら余裕かもしれないが。
「もう少しカラーダイヤの探索もしたいところね。4つ稼働はちょっと厳しいだろうけど」
ドラゴンからもらったブルーダイヤなら、カットしたほうが早いかもしれない。
そう考えると、誰にカットを頼もうか。
私自身でも不可能じゃあないけれど……。
「レーテ、あのロマンを理解する同士に聞いてみては?」
「あのおじいさん? そうね、それもいいかも」
ミュータントの動きも鈍くなってきたところで、そんな会話も出てくる。
飛び跳ねる魚も沖に目立つようになってきたことで、戦いは終結に向かう。
魚とカニ、両方を回収していく街の人々を警護する形でしばらくその場で過ごした。
幸い、あの巨大なミュータントに再会はしなかった。
「データ上、あれはクジラという種が近いですけどけど……どうなんですかね」
「JAMも丸のみされそうだったわね」
できれば海では出会いたくない大きさだった。
外洋に出ると、ああいうのがゴロゴロしてるんだろうなと思ってしまう。
港に停泊する形で浮いている戦艦。
あれが何隻もあって、完全武装したならどうにかなるのだろうか?
(水中への対処が問題かしらね?)
見えている相手へは対処しやすいけど、水中は難しい。
川程度で遭遇できる相手でもそうなのだ。
広い広い海中では、想像を大きく超えた相手がいるに違いない。
「私、海には一生出ないと思うわ」
「同感です」
冗談を口にしながら、街に戻る面々についていく。
そうして片付けにも付き合っていると、すぐに夜だ。
あちこちで、騒がしくしている兵士や街の人たち。
私はというと、リンダに一時離脱のあいさつだ。
つい先日、そんな話をしたばかりだというのに少し心苦しい。
そう思っていたのだけど……。
「相手が私を名指しで依頼を出してる?」
「そうだ。しかも、部下を引き連れてこっちに来ているぞ」
事情を話したところで、そんなことを言われた。
あの整備士というのか、癖のあるおじいちゃんが来ていると。
偶然といえばそれまでだけど、運が向いている。
「ありがと。ちょうどいいわね」
数日以内には到着予定ということで、街で待機することにしたのだった。




