JAD-234「バランスの良し悪し」
リンダに誘われ、とある一室にやってきた私たち。
よほど信頼されているのか、尋問結果を話してくれるとのことだ。
そうして聞かされた内容は……。
「本当のことだと思う?」
「少なくとも、当人たちはそう考えてきているのは確かだな」
「大陸の制覇……そんなことが?」
一般人なら、噂にしても現実味がなさすぎるというところだ。
けれど、私たちにとっては嘘ではない。
そのあたりはともかくとして、だ。
「リンダ、どうして本当に話してくれたの?」
「戦力的にも力を借りれそうだなというのがまず1つ。それに、違うんだなって感じるのさ。悪いが、彼女が普通の人間じゃないのは、たまたま知ってしまったんだ。ほら、熱源探知機材を使った訓練の時にな……」
「ああー、そういえばやってましたね」
ここ最近、滞在中に様々な訓練に参加した。
その中に、機材の講習みたいなのもあったから、その時だ。
「昔から、噂みたいなのはあるのさ。おとぎ話のように、前歴の無いジュエリストの話は」
「なるほど。じゃあその辺はいいかしら。要は、これよ」
そこまで推測されてるのなら、話は早い。
メテオブレイカーからもらった衛星写真。
その中の一部は、ここじゃない大陸の物もある。
しかし、何かの妨害なのか、はっきり写っていないものも多い。
使えそうな画像の中に……都市がいくつかある。
カタリナから、持ち歩いてるタブレットに表示してもらう。
「これは……ずいぶんと、立派な街だ」
「ええ、運よく前時代の施設とかが丸々復旧できたのかも。この規模の街があるなら、JAMとかそれ以外の戦力も十分あると思う。それこそ、ミュータント相手に善戦できるぐらいは」
そう、襲ってきた無人機と、それを率いていた有人機。
その操縦者は……東の別大陸からやってきたということだった。
あちらでは無人機を率いた開拓が当たり前で、いつものことなのだという。
住みやすい土地を探し、戦力の補充をしながらこちらまでやってきた、と。
画像通りなら、向こうの大陸は人類がその手に大地を取り戻しているのかもしれない。
そのうえで、欲望はさらに先を求めている。
(一度手を出したから、今さら引っ込めることができないってどれだけ殺伐としてるのよ)
交渉してという考えはなかったようで、奪い取るのが日常だったらしい。
もっとも、彼らはどちらかというとあぶれ者で、大勢ではないそう。
「新しい国を作る権力者がいて、それに反発、大陸を脱出してきたそうだ。なんでも、北方で海が凍結してるらしい」
「それで移動できたのね。うーん」
話は思ったより厄介だ。
でも、朗報は1つある。
それも確実なものが。
「カタリナ、海そのものはいけると思う?」
「無理だと思います。沿岸はぎりぎり、漁をするぐらいはいいと思いますが……」
「私もそう思うわ。リンダ、海を越えての人間の襲撃はない、これは朗報だと思うの」
彼らの話が本当なら、北方に逃げ込んだ時に偶然氷結の状態を見つけ、という流れ。
つまり、もともとは隅っこで生きることを覚悟した逃避行だったわけだ。
「なるほどな。それができるなら、とっくに海からの進軍とでもいうべきものがある、か」
頷き、改めて地図を指でなぞる。
「戦力を整えて、警戒するしかないわよねえ。それ以外は、先手を打って滅ぼすなんていう怖い手になるわ」
「それは遠慮しておきたいな。ようやく、こちら側は生活圏が広がってきたばかりだ」
「でも、時間が経つほど向こうの開発とかは進むのでは?」
カタリナの懸念はもっともだ。
ただ、それはあくまで何もなければ、だ。
カンでしかないけど、そううまくはいかないと思うのだ。
「この星は一度、色んな事が原因で文明を滅ぼされている。もしかしたら二度、三度と。結局、星もだまってやられるわけじゃないのよね。思うに、向こうでは事件が起きるわ。力の使い過ぎで」
思い出されるのは、ゲームとしてのシナリオ。
これはもしかしたら、宇宙からの来訪者たちの母星で起きたことかもしれない。
つまり、星の意思による自然災害や、力の暴走、枯渇等。
今のこの星の状況なら、そこにミュータントも加わるだろう。
「バランスよく、ある意味では敬意をもって力は使わないと」
「にわかには信じがたいが、なんとなく、わかるぞ」
そんな会話をしながら、どうやって対応していくか、どう動くかを話し合うのだった。
もっとも、決めるのは私たちではなく、街の為政者、企業たちなんだけどね。




