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JAD-230「見えない戦果は与えない」


『トラップの作動を確認!』


「お客さんね。各自、ペアと発射方向を合わせるのを忘れないように。1人じゃなく、2人で撃つのよ」


 もともとは、私の下に一時的につくはずだった兵士たち。

 今回は私の役割が変わってしまったので、たまたま同じ場所にいるだけという関係。


 その兵士たちの返事を聞きながら、荒れ放題の土地を観察する。

 何度も同じような襲撃に対処した結果、森は林になり、平地は荒地になっている。


 街からは少し離れた場所だけど、あまりよくない状況だというのが見て取れる。

 残骸が散らばり、トラップを仕掛けやすいのだけはいいところかな。


「調子には乗らせたくないし、かといって叩き潰すのも後々面倒……」


「追い詰めて、変に爆発されても困りますもんね」


 まったくもってその通りだ。

 一か所に集中してくれれば、私がどうにかできるかもしれない。

 けれど、何か所にも同時に動かれると手が回らない。


 結局のところ、私たちは1つの戦力でしかないのだ。


「……来た」


 動くものが、見えてきた。

 ここからでも金属だとわかる姿。

 一見するとばらばらだけど、どこか秩序を帯びた動き。


「なるほど、この数は面倒ね」


「人の手でこれだけの戦力を生産するのは、相当難しいですよ」


 頷きつつ、さっそく発砲する。

 普段なら有人機でないかの確認と、呼びかけはするそうだ。

 けれど、現在はそうも言ってられない。


 まるで、押し寄せる波のようだ。


「回避行動はあまりない? 的同然じゃない」


「予想が外れましたかね? これまでに何度も持ち帰ってるはずです」


 頷きつつ、モニターの映像をよく確認する。

 すると、見えてきたことがある。


 動きの悪い機体と、良い機体がある。


「いた。あの辺ね」


「了解。スキャンをその方向で進めます。色分けもしますか?」


「ええ、お願い。周りも攻撃を続けてるし……私が狙うべきは……ここっ!」


 だいぶ調子の戻ってきたクリスタルジェネレータ。

 今日はアクアマリンと、久しぶりのエメラルドだ。


 青い氷結の力と、風のような強さの緑のエネルギー波。

 両手に持たせた2丁のライフルから、力が放たれる。


 その力を向ける先は、動きの比較的良い機体。

 初弾は回避しようと動くが、それを予想して連射している。


「着弾、逃げられない程度に、でいいんですよね」


「そういうこと。とにかく戻れないように。戦闘経験、情報は持ち帰らせないわ」


 ちらちらと、有人機らしいものがいるのがわかるが、今は狙えない。

 相手の数も多いし、味方を盾にしている。


 万一、全力の攻撃を仕掛け、逃げることを優先されたら厄介だ。

 もう少し、誘い出さないと……。


 荒地を舞台に、お互いの射撃が飛び交う。


「戦闘の激しさが増しています。今のところ、射撃戦ばかりですけど」


「そりゃあね。近接、格闘戦は倒すか倒されるかだけじゃなくて、相打ちも多いもの」


 私なんかは、高い機動力でひっかきまわすといったぐらいは可能だ。

 けれど、通常のJAMではそれはなかなか難しい。

 これまではそういう戦い方が必要なかった、というのもあるけどね。


「スキャン途中ですが色分け実行します」


「思ったより多いわ……よし、やりますか!」


 気持ちを、スナイパーのように切り替えて遮蔽物に隠れる。

 といっても、有人機がしっかりと判断できていればすぐにわかるだろう隠れ方だ。


 なのに、それがないということは……。


「無人機の制御に意識がいってるのかしらね」


「現地で臨機応変、言い換えるとそうじゃないと制御できないということでは?」


 頷きつつ、主に動きの良い相手を順々に無力化していく。

 その間も、互いの射撃は続き、お互いに被害は出る。

 とはいえ、私の見える範囲ではこちらが撃破までされた様子はない。


 無人機相手なら、駆け出しでも対応できる。

 撃っていれば、それで当たる量だ。


「ほとんど実体弾ですね、相手は。こちらはそこそこ石の力を使えてます」


「そうじゃないと困るわ」


 動力にはともかく、武装まで石の力が絡む無人機となると、結構レアなはず。

 おそらく、この戦いを続けるとそんな相手が出てくる率は高まってしまう。

 有人機の中身だけじゃなく、無人機自体の設備が学んでしまうからだ。


 かといって、こちらも実体弾、いわゆる火薬を使った武装だけにするのももったいない。


「動きの良い相手、エリートと呼称。エリート、減少しています。レーテ、一部の有人機が狙えます」


「ほんと? よし……一発やってみますか」


 けん制がてら、周囲の無人機に連射。

 まるでやけになったかのような攻撃に、相手もごまかされるだろう。

 なにせ、周囲の味方も同じ方向に攻撃を仕掛けてくれたからだ。


 相手の混乱の隙間、人の意識を感じる動きの相手である有人機。

 見えた一機に、狙いを定める。


「凍り付け……っ!」


 言葉を込めた一撃が、争いの隙間を縫い、飛ぶ。

 それは狙い通りに有人機へと当たり、凍り付かせた。


「ブースター準備! 迂回しつつ、動きの違う相手を狙うっ!」


「了解っ!」


 これで、相手の考えが見えるはず。

 脅威と認め、すぐに逃げるか、情報を少しでもと動くか。

 後者ならまとめて潰せばいいし、前者も問題ない。


 なぜなら、一番いやなパターンであるそちらをつぶすために、私は依頼を受けたのだから。


「逃げるなら逃げなさい。稼がせてもらうわ」


 砂煙を上げて突き進むブリリヤントハート。

 向かう先には、慌てた様子で動きの崩れた有人機。


 後退を始めたその機体たちへ向け、さらに加速した。




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