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JAD-229「得難い物」



『ターゲットランダム、出ます』


「りょーかいっと」


 無線からのカタリナの声に頷き、集中。

 モニターに動く影、射撃用の的だ。

 何度も使いまわしてるのか、ずいぶんとボロボロだ。


 素早く操作をこなし、極低出力でライフルを放っていく。

 JAMを模した的の、動力部や武装を持った扱いの腕部などへとすべて吸い込まれた。


 無力化、あるいは撃墜判定というところだ。


「出現間隔を半分に、数も適当に増やして」


『わかりました。ミュータントも適当に混ぜますね』


 実際に混ざってくることはないと思うけど、それはそれ。

 今度は機械じゃない相手も的として出現、同じように攻撃していく。


 時間にして5分もしないぐらいだけど、結構な数を撃てたと思う。


「ふぅ。上手くいってよかった」


 コックピットで1人、つぶやいて外に出る。

 外では、リンダとそのほかの人たちが立っている。


 訓練用に設けられた場所での、お披露目みたいなものだ。


「こんな感じで」


「十分だ。どうだ、お前たち。彼女は優秀だ。逆に、お前たちだって若いからと自分を下げる必要はない」


「「はいっ!」」


 視線を感じ、いつもよりきりっとした態度をとってみる。

 それが幸いしたのか、空気は引き締まったままだ。

 リンダによる訓示のような声に、他に集まっていた人、少年たちもはきはきと返事をしている。


 老いも若きも戦わないといけない、というわけではないようだ。

 自分も戦う、という自主的なもの。

 だからといって変にけがをしたり、命を落としてもらっても困る。


 そんなわけで、お手本の1つになってほしいと言われたのが昨日。

 どうせ、来客が来るまでは出番はないのでちょうどいい。


「私もひたすら練習して、何度も実戦で経験を積んだわ。一つ言えるのは、練習で出来ないことが本番では出来るはずもない、そう信じてやることね」


「聞いたな? 各自発砲練習開始だ」


 それっぽいことを言って、視線を集めるのは悪い気分ではない。

 リンダの号令に従い、動く少年たちを見つめる。


「武装は、輸送してるのね」


「ああ、昔の設備などをうまく復活させてな。石もそろえているぞ」


 この辺りは人間のたくましさというか、怖さというか。

 昔の工場でも、武器の生産工場とその関係は結構あちこちに遺跡として残っている。

 それらの中には、復活が可能なものもあり、今の力となっているわけだ。


 視線を海の方に向ければ、まだ完全には修復されていない船もある。


「アレは使わないの?」


「ああ、アレは海の方に向いている。何もしないというわけにもいかんのでな」


 確かに、それはそうだ。

 巨大クラゲが来ていないといっても、それは今日までは、だ。


 どうせミュータントの思考を読むなんてのは不可能なのだから。


「それもそうね。それで、私はどこまで手を出しちゃっていいのかしら。私につけるというのはそういうことよね?」


「ああ。君ならそれも可能だと考えたが、問題はありそうか?」


「レーテが心配してるのは、こっちだけで倒しすぎたら問題ではないか、ということかと」


 少しあきれた感じのカタリナの声。

 私というものをよくわかった言葉だ。


「そ。やろうと思えば、100でも200でもちゅどーんよ。でもそれじゃ、あの子たちの経験にとはね……」


 手加減とは少し違うけど、なかなか難しいところだ。

 今のところは、直接の撃墜よりも凍り付かせる等で行おうと思っているが……。


「そのあたりは任せる。ただなあ……思ってるより、数が来るんだ。すりつぶすつもりかもと言ったろう? 実際問題、そのぐらい来るんだ」


「……なるほど」


 どうやら、想像より厄介らしい。

 逆に、そんな量を動員できるならとっくに決着がついてもおかしくない。


 つまり……ただこの街を占領するのが目的じゃないってことだ。

 それこそ、すぐ撤退されては困る、といったような。


「もしかして……」


「レーテ、逃がさないようにした方が良いかもしれませんね」


 彼女も同じ結論に至ったようだ。

 仮定、仮説ではあるが……今回の相手は、経験というものを得るために動いている可能性。

 資源とは別の意味で、得難い物だ。


 そのことをリンダに告げると、驚きとともに納得が返ってきた。


「では依頼を少し変えよう。君には、支援と……」


 彼女からの依頼、その内容にしっかりと頷き返す。

 戦いは、すぐ始まるだろう。




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