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JAD-022「大自然の猛威・後」



「データベースにあんなのありませんよ!?」


「そうでしょうね!」


 叫びながらも、どうにかクレーターから脱出。

 直後、クレーターを水が流れていく。


 湖から飛び出した巨体による、膨大な量の水があらゆるものを押し流す。


「クエストボスがこんな場所に……ううん、同じと思わない方がいいか」


 ゲームと同じなら、弱点は……そう考える思考を一度止め、機体を横に滑らせる。

 相手は大きな体の半分ほどを空中に出したかと思うと、湖のふちに倒れた。


 見た目は、ナマコとウミヘビを足して割ったような姿。

 肝心の大きさは、動く列車みたいと言えば伝わるだろうか。


「仮称ヘビナマコ。噛みつきと締め付け、後は消化液がとんでもないわよ!」


「了解。敵データ設定します。ヘビナマコ、クレーター中央へ顔を移動。何か……あれを食べてる?」


 カタリナの言うように、相手は先ほど倒したアリジゴクみたいな何かのいた場所に顔を突っ込んだ。

 当然、食べているんだろうなあと思いつつ、機体にライフルを構えさせる。

 実体弾……いや、ここは。


「氷でいく! マルチロック、シュート!」


 正面に無防備にさらされているヘビナマコの胴体。

 自信があるのか、気にすることがないのか。

 こちらを今のところ、見ていない。


 その胴体へと、力ある氷の槍が何本も襲い掛かり……表面で砕けるのが見えた。


「障壁? いえ、これは……何か、透明なもので覆われています」


「鎧みたいなものよ。あいつ、海で他の奴と戦ってるんだもの」


(その時よりはだいぶ小さいけど、間違いない!)


 両手で足りるぐらいしか倒したことはないけれど、その時は1人ではなかった。

 いわゆるマルチバトル、レイドと呼ばれるような他プレーヤーとの共同戦闘だ。

 ゲージが表示される相手の膜、シールドを削りきり、それから本体へ。


 いつかを思い出し、ソロでそれをやるのはどうにも分が悪いかもしれない。

 そう考えていると、食事は終わったらしい。

 ヘビナマコの、退化した瞳が虚ろに光を帯びながら周囲を伺い、こちらを見た。


「回避!」


 ブースターを真横に吹かし、砂を巻き上げつつ移動。

 ホースから飛び出るかのように、嫌な感じの液体が先ほどまでいた場所に飛んでくる。

 機体の中にいるのに、砂浜が溶ける音がしたような気がした。


「正面からは、不利……守るわけじゃないけど、他の人たちが見つかったら厄介だわ。この場所でどうにかしないと……」


 海から出て来た相手ではあるが、地上でも多少は活動できる設定だったはず。

 その間に、暴れてもらっては困るわけで。


 効果が薄いとわかっていつつも、氷の力を帯びた状態でライフルを放ち続ける。

 もちろん、その間も移動は欠かさない。


「当たった場所は、白くなってるようですけど」


「それもすぐ治るわ。どうせ内側じゃ、粘液みたいなのが動いて、表層と入れ替わってるはずよ」


 打つ手は少ないけれど、種は割れているのだ。

 後は、どうにかして効果的な一撃を……。


「? 何かを警戒してる……」


 今のところ、宝石の感覚はヘビナマコの中にあることで間違いないらしい。

 でも、そんな相手が私たちでもなく、森にいる人らでもないどこかを気にしている。

 回避しつつ、考えを続けるとその理由に思い当たった。


 クレーターを作った、大火力の存在だ。

 今はいないということは、放浪しているか、特定の環境下にしかいないか。

 例えばそう、砂嵐の中でだけとか。


「遭遇したくはないわねっ」


 好機なのは、間違いない。

 射撃の手を休めず、相手の動きを探っていく。

 幸い、こちらのガス欠はしばらくは大丈夫そうだった。


 何度も何度も青い光を放ち、氷の槍を突き刺すべく連射する。

 ようやく、白いダメージを受けたであろう場所が広がってきた。

 同時に、周囲の気温も下がったはずだ。


「レーテ、撃退が狙いで良いんですね?」


「ええ。倒すのは、ちょっと大変。ここは嫌な場所って思ってもらえればそれでいいわ!」


 まるで、倒せないイベント戦のような手ごたえだった。

 だからといって、手を休めるわけにもいかない。


 様子を見て、アクアマリンの力を引き出して一手打つ必要がある。


「光集い、敵を封ずる凍てつきと……ぉおお!?」


 射撃が収まったことに、相手も気が付いたらしい。

 ヘビナマコがこちらを見たと思うと、その体が一気に、伸びた。


 どこかのゲームで見た気持ち悪い相手のように、伸びて来た首(?)。

 ぎりぎりのところで回避した私の目の前で、口元からこぼれた消化液が砂浜で音を立てる。


「レーテ!」


「わかってる! アクアマリンの封冷、ジェーマレイ!」


 至近距離で、ライフルから一気に力が放たれる。

 いわゆるチャージ技で、宝石ごとに力が違う。

 アクアマリンの場合は、着弾した箇所から力が覆うように広がり、凍らせるのだ。


 全身を凍らせることは叶わず、湖にはまだ後ろ半分が残っている。

 言うなれば、首ぐらいまでが凍った形。

 このままでは暴れられてしまう。


「ブレード!」


 普通のブレードは、普段から装備している。

 敢えて口にしたのは、以前発掘したブレードを使うからだ。

 古代のブレード、エンシェントブレード、ASブレードとでも呼ぼう。


 手にしたASブレードに、ヒスイの力を籠める。

 一気に緑の光が刃を覆い、力となる。

 古来より、魔よけともされたヒスイの力。


「その首、貰ったわ!」


「ブースター全開で行きます!」


 ぐっとGが体を襲い、砂煙をあげながらブリリヤントハートが飛翔する。

 その過程で、ヘビナマコの首元へと刃を沈め、中ほどまで切り裂いた。

 長さが足りず、断ち切るとはいかなかったが、十分致命傷かな。


 体液が降り注ぐのを回避すべく、そのまま飛び上がり、ようやくヘビナマコを見る。

 驚いたことに、頭部を失ったはずの体がちゃんと動き、湖の中に消えていくのが見えた。


「あの頭部、ダミーでしょうか」


「そうかもしれないし、再生するのかも」


 何度か倒す必要があったゲームの設定を、ふと思い出してしまうのだ。

 周囲を警戒しつつ、切り裂いたというよりは千切れた頭部の近くに向かう。


 この中に、石の力を感じる。


「食べるのは無理だし、何かに使える感じもない……うーん、焼却かしらねえ」


「それしかないかもしれませんね。あ、レーテ、口元見てください」


 言われ、牙だらけの口元をズームすると、そのうちの1本が色違いだった。

 種類はわからないけれど、鉱石のようになっている様子。


「これだけ取って、あの人たちと帰りましょうか」


 妙に疲れた体に気合を入れ、森に隠れたままの人たちを迎えに行くのだった。



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