JAD-227「人のぬくもりを目指して」
生みの親であろう存在の独白、それを聞いてから数日。
私たちは、川沿いを海へとゆっくり進んでいた。
トラックが走行可能な地面になってきたので、久しぶりに車両での走行である。
「どこまで行きますか」
「どこまでも……なんていうのはキザね。前のように各地を回りながら、できれば別大陸にも行ってみたいわね」
正直、あの科学者の考えが……星にたどり着いた全員の共通認識とは思えない。
あくまで勢力の一つ、そう感じるのだ。
そうなると、私たちだけが頑張ってもどこかでは手遅れの場所が出てくるだろう。
「ふふ。じゃあ、また謎の強いジュエリスト、ラストピースに戻りますか」
「そうね、まずはそこからかしら」
幸いにも、このまま進めば街につくはずだ。
以前、巨大なクラゲ状のミュータントを迎え撃った街に。
と、視界に動くものと気配。
「あれは……無人機ではないわね」
「だと思います。カニ、ですかね?」
大きな川。
その川辺である砂地に、異形がいる。
湖で出会ったようなミュータント……いや、何かおかしい。
「あのハサミ、片方機械じゃない?」
「ええ?」
トラックを止め、ズームを行う。
最初は、水にぬれているから光ってるのかと思った。
しかし、よく見ると違う。
片方のハサミは、よくある感じだがもう片方が違う。
妙に金属質な……んんん?
「この距離なんで詳細は不明ですけど、機械というより、金属的な殻、ハサミという感じですね」
「そういうこと……海から汚染が始まってたっていうのは、そういうことかしらね」
もしそうなら、確かにどうしようもなかっただろう。
船舶の行方不明や事故、それらの後に地上への影響。
地上で不思議な生物による事件が起きた時には、もうこの星から排除は困難だったはずだ。
もしかしたら、海に落下した存在は人間での再生をあきらめたのかもしれない。
周囲にいる海洋生物を、改良することでいつか……と。
(まるで代理戦争ね。この星の生き物が、別の星の人間の代わりにと)
想像ばかりが嫌な方向に膨らむ。
そして、案外外れていないだろうなとも。
「ああいうのがまず誕生して、それが自然に溶け込んでいって本当のミュータントが産まれたってとこかしらね」
「良いことなのか悪いことなのか、よくわかりませんね。自然は強いってことはわかりますけど」
まったくだ。結局は、大自然のサイクルに飲み込まれているということだ。
見えているカニのように、自分たちで武器として金属質のハサミを手に入れる進化……。
進化というには、早すぎる気もするけどね。
「適当に何匹か狩って、調べてみましょ。成分的に有毒かどうかと、食べられるかを」
「レーテ、そういうところはいわゆる人間らしい、ですよね」
「そうかしら? 保存食にも飽きが来てるだけよ」
言いながら、JAMの起動に向かう。
トラック備え付けの機銃でしとめられるならいいけど、硬そうだ。
仕留めたけどぼろぼろで食べる場所がありません、も回避したい。
トラックを止め、牽制に機銃を放ってもらい、カニを誘う。
こちらに気が付いたカニたちが結構な速度で迫るのが見える。
「でもまあ、凍ったら一緒よね」
無慈悲に、アクアマリンの力で凍結攻撃を放ち、氷漬けの完成だ。
そうして、適当にブレードを突き刺せば問題ない。
荷台へと適当に放り込み、確認、調査の始まりだ。
「変な毒物はないですね。この外殻とハサミで身を守るから必要ないってところでしょうか」
「それもそうだけど、資材的に使えそうなのがポイントね」
仕留めてみてわかったけど、本当に硬い。
普通の銃弾だと、基本的にはじくんじゃないだろうか?
JAMは大きさ的に厳選しないといけないけど、歩兵時の装備に使うには十分そう。
アーマーとしては強力な感じがしてくる。
「お土産に持っていこうかしらね」
「復興が近いのか、文明はまだまだ先なのか、わからない展開ですね」
「無人機の部品を流用してるんだし、一緒一緒」
笑いながら、荷台にカニだったものを固定し、出発。
日が暮れるころには、人工物……町並みが見えてきたのだった。




